薄っぺらで、頼りなさそうな「膜」。この膜が、工学の最先端で注目されている。何でも、エネルギーや環境、水など、21世紀の世界が抱える難題を解決する可能性があるとか。神戸大(神戸市灘区)には国内唯一の膜工学の総合的研究拠点があり、「神戸から新しい膜を発信したい」と研究者たちの意気が上がる。膜で一体、何をしようとしているのか。
外壁に「膜」がデザインされた建物。その中では、膜を使って、海水から真水をつくる研究が続けられていた。薄いものは実に数ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)だ。
「わずかな厚みの中に、さまざまな技術が集結している」。神戸大先端膜工学センター長の松山秀人教授は自負をのぞかせる。
高分子物質でできた膜には、ミクロな穴が無数に開いている。海水から真水をつくるには、水だけを通し、塩の成分は通さない膜が必要となる。いかに効率よく水と塩を分離するか-を追究する。
しかし現在の手法は、水に強い圧力をかける必要があり、大きなエネルギーを要するのが難点だ。松山教授らが目指すのは、圧力をかけなくても分離できる手法の開発。従来の4分の1のエネルギーで済むという試算もある。
「2025年には、世界人口の3分の2が水不足に陥るとされる。膜は、問題解決に最も貢献できる技術だ」と力を込める。
海水のほかにも、膜のターゲットは広い。大気もその一つ。同センターでは、より早く、より確実に二酸化炭素(CO2)が分離できる独自の膜を開発。地球温暖化の防止に向けて、注目を集める。
また再生可能エネルギーとして注目されているバイオエタノールに関しても、精製のための膜を開発する。次世代電池として期待の大きい燃料電池にも、膜が用いられている。
いずれも環境やエネルギーにかかわる重要な課題。松山教授は「膜の発展は人類にとっても有益。今後10年で新しい膜を発信したい」と意欲を見せる。
(武藤邦生)
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