消費増税をどうするかは、将来世代を含む国民の暮らしを左右する重要テーマだ。政府与党内の事前の検討も、国会の議論もないまま、首相の一存で押し切っていいものではない。

 来年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを2年半、再延期する。

 安倍首相のこの方針は、国会会期末間際になって、いきなり持ち出された。それまで150日間の国会審議を通して、首相は「リーマン・ショックあるいは大震災級の影響のある出来事が起こらない限り、引き上げを行っていく」と語っていたはずである。

 持ち出し方も異様だった。自民党内でも、政府内でも、ましてや国会でも、首相方針をめぐる議論をまったく経ないまま、有力閣僚や与党幹部を個別に呼び、同調を求めていった。

 「前回延期を決めた時、17年4月に引き上げると約束した」と明確に反対したのは麻生財務相くらい。その麻生氏にしても最後は「総理がそういうなら」とあっさり折れた。

 あまりにも強い首相の力と、その方針を議論なく追認するしかない与党の姿――。安倍政権のいびつな権力行使のあり方が象徴的に表れたと言える。

 野党4党がきのう提出した内閣不信任案は否決され、国会はきょう閉会する。

 だが本来なら、国会を延長して与野党で十分に議論すべき大問題である。論点は数多い。

 伊勢志摩サミットで首相が唐突に言及した「世界経済が危機に陥るリスクに直面している」という主張に妥当性はあるか。

 増税延期で社会保障や財政再建にどんな影響があり、どんな手立てを打つべきなのか。その財源はどう捻出するのか。

 近づく参院選をにらんだ選挙対策ではないのか。

 民進党にも問いたい。

 5月半ばの党首討論で、岡田代表が「消費が力強さを欠くなか、先送りせざるをえない状況だ」と述べ、増税延期論の先鞭(せんべん)をつけたのは民進党だった。

 4年前、当時の野田民主党政権が主導して自民、公明両党と合意した「税と社会保障の一体改革」を思い起こすべきだ。

 消費税を引き上げて、膨らむ社会保障の財源に充てる。今を生きる世代に痛みはあっても、将来世代へのつけ回しは極力避ける。そんな一体改革の精神を忘れてはいないか。

 首相はきょう国会閉幕の記者会見で増税再延期について説明する。民進党の岡田代表もあわせ、参院選の論戦を通じて国民への十分な説明を求める。