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ヤンキーは異世界で精霊に愛されます。 作者:黒井へいほ

第一章

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第一章 ダイジェスト

 俺は真内(まない) (ぜろ)、地元じゃ喧嘩無敗で目つきが悪いことで有名だ。
 特にやりたくもねぇ喧嘩を続けていった結果、取り巻きくらいしか寄りつかねぇ。家族だって、俺のことを厄介もの扱いだ。
 今日もどうでもいい取り巻きどもが、俺の後ろを勝手についてきている状態で学校から帰っていた。
 だが帰り道、公園から飛び出そうとしていたガキを庇ってトラックに轢かれる。
 はぁ……人に嫌われて、人生終わりか。そう思っていたんだが、俺は変なところで目を覚ました。

「くそが……」

 目を覚ました俺は、本が大量にある部屋にいた。
 いや、異常なくらい本がありやがるし、埃臭いしで、変な場所だ。
 そこで俺は眼鏡で黒髪のとっぽい兄ちゃんと出会った。司書かなんかか?
 他に話を聞ける相手もいないので聞くと、どうやら俺は死んだらしい。嫌われて死んで、禄でもない人生だったな。
 ガキが無事だったことだけが、救いってとこか。

「分かった。あんまり信じられねぇが、俺は死んだ。で、俺はこの後どうしたらいい」
「理解が早いですね。認められない人とかすごい多いんですけどね」
「どうせ生きてたってろくでもなかったからな。ガキを助けて死んだなら、まぁ悪くねぇよ」
「そ、そんな。あなたが死んで悲しむ人だっています!」

 いねぇよ。
 でも、口に出してその一言が言えなかった。すごくそれは悲しいことみてぇで、認められなかった。分かってたつもりでも、自分では言えないもんだ。

「ちっ。それはいいからよ。俺はこの後どうしたらいいかって聞いてんだ」
「良くありません! これを見てください!」

 あんだ? 水晶か? 占い師とかの使うあれだよな。
 何か浮かび上がってきやがる。なんだこりゃ。

「よく見てください」
「お、おう」

 さっきまでは俺にびびってやがったのに、凛とした態度で俺に話し始めやがった。もやしメガネからメガネに昇格してやるか。
 水晶の中に見えるのは…俺の葬式? 何であいつら泣いてやがんだ。

「見えますね。あなたが死んで、悲しんでいる人がいるのが」

 何も言えなかった。
 俺を利用してると思ってた取り巻きの数人。いつも俺にびびってた妹。学校の何人か。

「零さん! 零さん何で死んじゃったんすか! 無敵だったじゃないすか!」
「おにいちゃん! おにいちゃあああああああん!」

 俺が嫌いだったんじゃねぇのかよ。
 荷物を持ってくれた? 自分から手を出すような人じゃなかった? 目が怖い? うるせぇ!
 ……あんだよ、これ。

「あなたは怖がられていたかもしれません。でも嫌われてはいなかったんです」
「そんなこと今知ってどうすんだよ。もう俺は死んじまったじゃねぇか。それに両親は肩の荷が下りたような顔をしてるじゃねぇか」
「そうですね。そういう風に思ってた人もいるでしょう。でもそれだけじゃないということを、知って欲しかったんです」
「……おう」

 くそっ。目にゴミが入りやがった。俺が気付いてなかっただけなのかよ。
 でも、もう死んじまったんだ。俺にはどうしようもできねぇ。

「なぁ」
「はい」
「何か、何でもいいんだ。あいつらに何か伝える方法とかはないのか」
「すみません……」
「そうか。無理言ったな、悪かった。もういい」
「分かりました。すいません見せることしかできなくて。でも知って欲しかったんです」
「おう、ありがとよ」

 俺はメガネと目を合わせないようにして、涙を拭った。ばれてねぇよな?
 深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。後はメガネに今後のことを聞くか。

「で、俺はこの後どうなんだ」
「はい。そのことで一つ提案があります。あなたには転生をして頂こうと思います」
「転生? 生き返るってことか?」
「残念ながら、元の世界に戻すことはできません。ですが、異世界にあなたを転生させることができます」
「そうか、よくわかんねぇ。どういうことだ?」
「えっと…。第二の生を歩むということです」
「第二の生? もしかしてみんな死んだら別の場所で生き返るのか?」
「いいえ、そうではありません。本当は厳密な審査とかがあるんですがね。君に関しては、僕の権限で許可をします」

 権限とかメガネが何偉そうなこと言ってんだ。それとも偉いメガネだったのか? ……いや、この面は下っ端だ。間違いねぇ。

「さて、それでは転生させますね」
「おい、俺の返事とかそういうのは…」
「聞いていません! 転生してもらいます!」
「強制じゃねぇか!」

 俺の話を無視して、メガネはファイル?を開いた。
 まぁ説明くらいはしてくれんだろ。それに、第二の生か。……今度は、もうちょっとうまくやる努力をしねぇとな。

「はい! 決まりました! 魔法と精霊の関係が密な異世界です」
「は?」
「転生者には一つスキルを渡すことになっています。愛されたかったあなたが手に入れられるスキルはこれです! 『精霊に愛されし者』」
「いや、だから待てって」
「では、いってらっしゃい!!」
「待てって言ってんだろ!?」

 体を包む嫌悪感。地面に体が引っ張られていく。
 穴? 穴かこれ!? 足元に穴!? 落ちる、落ちる、落ちる!

「説明なさすぎだろおおおおおおおおお! 後、お前は何もんだったんだああああああああああああ!」
「すいません。自己紹介もしてませんでしたね。一応、自分は死後の世界の最高責任者。あなたに分かりやすく言うと、神様ですかね。では頑張ってください!」

 は? 神様? お前は下っ端メガネじゃねぇのか? 
 そんなことを考えながら、俺の意識は穴へ落ちていくのと同じように落ちていった。

 目を覚ました俺は、森の中にいた。
 なんか体がもぞもぞしやがるから虫がついてるのかと調べると、岩?石?の被り物をしたチビを見つけたんだ。
 話すこともできねぇこいつらは、俺と目を合わさないでふるふると震えていた。
 最初は扱いに困ったんだが、まぁ話してみるといいやつらでな。
 撫でたり指先を突き合わせると喜ぶんだが、可愛いし話は合う感じだ。……いや、こいつら話すことはできねぇんだけどな。
 ジェスチャーでなんとなく分かるってやつだ。
 俺は数えたら53体もいたチビ共を撫でたり指先を突き合わせた後、案内されて洞窟へ向かい、一緒に飯を食ったりして寝た。

 俺はそれから数日、森の中でチビ共と過ごした。すげぇ幸せな毎日だ。
 だがチビ共は、俺に町へ行くように家の絵を描いたり足を引っ張ったりするので、仕方なく町へ向かうことにした。
 チビ共に案内されて少し進むと、森を抜けて街道みたいな場所に出る。俺はチビ共とそこを進んだ。
 すると、前の方から赤髪赤目、セミロングで身長が低めの女が近づいてくる。
 俺はフレンドリーに笑顔で話しかけたが、山賊かなにかと勘違いをしているように悲鳴を上げられた。
 で、なんとかそいつを宥めつつ話していると、変な緑の小さいやつが二体が寄ってくる。
 こいつらとも仲良くなろうと話しかけたんだが、ガンつけてくるし態度は悪ぃし、しまいには持ってる石斧を振りかざして襲い掛かってきた。
 仕方ねぇからボコボコにしてやった後、後ろを見ると赤髪が気絶していやがる。
 俺はうんざりしながら、赤髪を運んで休んでいたんだが、起きないから困っていた。
 ちなみに石斧は便利そうだから、一本もらっておいたぜ。厄介料みたいなもんだ。

 その後、起きない赤髪を放置するわけにも行かず野営の準備をした。
 火をつけようとしていると、赤髪が起きてまた悲鳴を上げる。面倒くせぇ。
 だがまぁ、なんとか黙らせて俺は火をつけようとしたんだが、赤髪が指先を向けただけで火がついた。魔法っていうらしい、便利だな。

 魔法について説明を受けると、どうやら誰でも使えるらしい。
 俺も気合を入れて試してみたんだが、火は出なかった。まぁ元々出せなかったわけだからな、出なくても当然だろう。
 魔法の説明を受けた後は、一緒に飯を食った。ついでに自己紹介をし直す。

「そういやぁ、もう一回言っておくわ。俺は零っつーもんだ。赤いの、お前の名前はなんだ」
「私の名前は、グレイス=オル……グレイスです!」

 あんだ? 何か今言おうとしたような気がしたが、まぁいいか。

「グレイスオルか。よろしくな、グル公」
「グル公!? 何で略したんですか!? 後、グレイスオルじゃないです! グレイスです!」
「ちっ。悪かった悪かった。よろしくなグス公」
「はい! ……グス公もいやですううううううううううううう! 赤いのとか、グス公とか! 女の子にひどくないですか!?」

 とりあえずグス公の叫びは全部無視した。
 その後、俺らは飯を食って、グス公はおいしいと叫んで、チビ共も喜んだ。で、その日はもう寝ることにした。

 星が綺麗だ。明日はグス公の目的を聞いて、町に向かうようなら一緒に行くのも悪くねぇかもしれねぇな。


 朝、何かの物音で目を覚ます。
 こんな朝早くから誰だ? ふざけやがって。
 苛立ちながらも音のする方向を見る。消した焚火の跡の方らしく、そっちを見てみることにした。
 そこにいたのは、火みたいなのやマッチみたいな被り物を着たチビ共だ。
 俺の機嫌は当然良くなった。

 その後、とりあえず新入りとの挨拶も済んだ俺は、朝飯の用意をチビ共とする。
 そこで気付く。
 そういや、グス公はチビ共のことを何も言わなかったな? こんな50人くらいいるわけだし、気づいてないことはねぇと思うが……。
 少し考えたが、意味がねぇと思ってやめた。ぶっちゃけグス公とかどうでもいいしな。

 グス公を起こした後、一応話を聞いてみることにした。こいつ自体はどうでもいいんだが、一人でいたのが気になったからだ。で、話を聞くと精霊と契約をしたいと思っているらしい。
 精霊ってなんだ? 俺はよく分からねぇからグス公に聞いてみた。
 きょとんとした後に、グス公は気づいたような顔になった。

「そうですよね。零さんは魔法も知らなかったんだから、精霊も知らないですよね。分かりました! 説明させて頂きます!」
「おう。お手柔らかに頼むわ」
「精霊と言うのは各属性毎にいます。基本的には人前に姿を見せません。大きさは手のひらサイズで、属性に合わせた格好をしているらしいです」
「属性に合わせた格好?」
「はい。文献によると、火の精霊なら激しく燃えていたり、水の精霊なら水を纏っていたりですね」

 俺はチビ共を見る。何か、がおーがおーって俺を威嚇してる。可愛い。
 大きさとかは合ってるが、こいつらとは違うな。激しく燃えてるどころか、マッチだ。

「なるほどな。で、精霊ってのと何で契約がしてぇんだ」
「この世界では、精霊と契約すると魔法使いとして一人前と認められるからです」
「つまりグス公は半人前か」
「ぐふっ」

 グス公は膝をついて倒れ込んだ。図星だったみてぇだな。
 てか、何か少し泣いてる気もする。まぁグス公だからいいか。

「で、ですので契約をすると一人前として認められます! 一体と契約したら一人前。二体と契約したら上級の魔法使いになります。三体と契約できようものなら、国を代表するレベルの魔法使いですね!」
「へぇー。契約すると何か良いことでもあるのか?」
「精霊と契約することで、魔法の効力が上がるんです。例えば火の魔法でしたら、20の魔力でしたら20の威力です。ですが火の精霊と契約していたら、40の威力になりますね」
「倍かよ、すげぇな。で、どうやって契約すんだ?」
「うっ……が、頑張って?」
「馬鹿だろ」
「うううううううううううう!」

 こいつ、何も考えてねぇな。後さき考えずに来た感じだ。
 魔法使いって頭良さそうな響きなのに、こんな頭悪ぃやつがなっていいのか?

「精霊ってのは人前に姿を出さねぇんだろ? どうやって見つけるんだ」
「頑張って探します」
「見つけた人の話とか、そういうのはねぇのかよ」
「聞きました。でも分からないんです」
「わかんねぇ? 契約してるのにか?」
「謎が多くて……あ、でも契約するといいことがたくさんあるんですよ? 精霊は魔法を使えないんですが、人の魔力をもらって魔法を強化してくれるんです」
「へぇ、精霊は人から魔力をもらう。人は精霊に手助けしてもらう。こういうことかぁ?」
「はい!」

 ……話の途中だったが、チビ共が俺をつついたり服を引っ張ったりし出した。グス公のことを指差したりもしてる。もしかして、手伝ってやれってか?
 うーん。まぁ俺は目的もねぇし、グス公一人にやらせてたら死にそうだよなぁ。仕方ねぇか……。

「おう。あれなら俺も手伝ってやろうか?」
「え? 手伝ってくれるんですか?」
「まぁ、一人よりも二人って言うしな。俺ぁ魔法も使えねぇし、精霊とかもよくわかんねぇけどな。それでもいいか?」
「は、はい! ありがとうございます。本当は一人でちょっと不安だったんです」
「気にすんな。とりあえず町に行って、それから作戦会議だな」

 まぁ俺に手伝えることなんて、ついてってやることと、周りを見ててやることくらいだけどな。
 でも喜んでるみてぇだし、頑張ってみっかな。
 チビ共も何か、俺がそうしたことを嬉しそうに見てるからな!

 俺たちはその後、作戦会議をしながら町に向かった。

 町に辿り着き宿をとった俺たちは、明日から精霊を探しに行くことになった。
 宿から出て買い物をして町を歩いていると、怒鳴り声が聞こえてくる。あぁ? なんの騒ぎだ? そっちに目をやると、じいさんとでかいのと小さいのが何か言い合っていた。
 まぁ成り行きで俺たちはジジイを助けた。助けたジジイの名前はエルジジイ。
 俺たちはエルジジイに無理矢理連れて行かれ、煙突や窯がある変わった建物へ来た。

「おう。それじゃぁ俺らはこれで行くわ」
「待て待て待て待て! 茶くらい飲んでおけ!」
「いや、別に大した事してねぇからよぉ…」
「いいからいいから! な!」

 俺らはジジイに押されて家の中に連れてかれた。ジジイってのは強引だなぁ。
 ジジイの家の中は、色んな物が置いてあった。武器とか鎧とか、そういうもんだ。

「お? 興味があるか? 儂はこう見えて長いこと鍛冶職人をやっていてな! そうじゃ、名乗っておらんかったな。儂の名はエルジーというんじゃ!」
「俺ぁ零ってんだ。それにしてもすげぇな。やっぱ男としてはこういうのには、憧れちまうな」
「私はグレイスと言います。よろしくお願いします」
「うむ。二人ともよろしくな! それにしても憧れるか! 分かってるのぉ!」

 俺とエルジジイが盛り上がってるのを、よく分からないという目でグス公は見ながらお茶を啜っていた。
 まぁ女子供に分かるもんじゃねぇよな。
 それにしても、エルジジイとか。自分で自分のことをジジイって言うとか変わってんな。

「そうじゃ! お主たち冒険者じゃろ? 礼に武器や防具をやろう! どのくらい町にはいるんじゃ?」
「いえ、私たちは明日には町を立つつもりでして……」
「む、そうか。なら出来てる物しか渡せないのぉ。倉庫に色々あるから見に来るといい」
「いや、あのくらいのことで貰うわけにはいかねぇよ。この茶で十分だ」
「今時珍しいくらい謙虚で真っ直ぐな若者じゃな! 気に入った! 何としても持っていってもらうぞ! これでも腕には自信があるからな。安心せい!」
「いや、だから……」

 エルジジイは俺らの言葉を無視して、いいからいいからと倉庫に連れてった。
 強引なエルジジに連れて行かれた場所は倉庫だ。倉庫には、家の中とは比べものにならないほどの武器や防具があった。

「すげぇ……」
「かっかっか! 気に入るのがあるまで探していいぞ!」
「いや、俺は金を持ってねぇからよぉ」
「零さん、お言葉に甘えましょう。お金なら私が多少は持っていますから」
「ばっかもーん! やるといったんじゃ! 金なんてもらうか! 恩人に金なんて要求するか!」
「エルジジイ…。ありがとな」
「かっかっかっか!」

 ここまで言われて断るのもわりぃしな。俺はエルジジイの言葉に甘えることにした。
 っても、何を選べばいいんだ?

「なぁ、何かお勧めとかあるのか?」
「お勧めか? 全部じゃ! …と言いたいとこじゃが、用途によって変わってくるのぉ。どんな戦い方をするんじゃ?」
「なら、殴ったり蹴っても平気なやつで頼む。後は動きやすいのにしてくれるか」
「ふむ。なら軽鎧がいいじゃろうな! サイズは…。これなんてどうじゃ? 着けてみるぞ!」

 エルジジイの言うがままに鎧を付けさせられる。着せ替え人形じゃねぇんだからよぉ。
 だが、エルジジイが着けてくれた鎧はしっくり着た。
 籠手みたいなのに、足を膝まで守る防具。それに胸当てだ。

「おぉ。すげぇな、重くもねぇし動きやすい」
「そうじゃろそうじゃろ! だがまぁ、腹部や背中の守りが甘くなってしまう。もっとしっかりしたのにするか?」
「いや、この方が動きやすい。 気に入ったぜ!」
「零さん、よく似合ってますよ!」

 銀色の防具を着けて、俺は何かウキウキしてた。やっぱこういうのはテンション上がっちまうな。

「武器はどうする? どんなのがいいか言ってみい!」
「一応考えたんだが、無いかもしれねぇんだけど言ってもいいか?」
「構わん構わん! 何でも言え!」
「ならよぉ。なるべく軽くて、頑丈なやつがいいんだが」
「ほう! 剣か? 槍か? いや、石斧を持ってるみたいじゃし斧か!」
「鉄パイプくれっか」

 ……あれ? 何か周りが静かになりやがった? どうしたんだ?

「零さあああああああん!? ここは武器屋ですからね!? それは鉄パイプは違いますよね!?」
「あ? 鉄パイプは武器だろ…?」
「違います! 絶対に違います! もおおおおおおおおお!」

 いや、鉄パイプは武器だろ。バットとかも武器だしよぉ。それともこっちの世界じゃちげぇのか?
 だが、エルジジイは笑い出した。

「くふっくふふっくはははははは! 鉄パイプか! 本当に若いのは変わってるな。分かった! それくらいなら今すぐ作ってやる!」
「作ってくれんのか? でも時間とかよぉ」
「何、それくらいなら時間もかからん。長さとかを決めたらすぐに作り出すから待っておれ!」

 俺はエルジジイと長さとかを話す。話が終わるとエルジジイは、すぐに作業に入った。

「小一時間で作れるはずじゃ。待っておってもいいし、時間を潰してきてもいいぞ!」
「おう。どうするよグス公」
「そうですね…。買い物は大体済んでますし、食事でも買ってきましょうか」
「わぁった」

 俺とグス公はその場をエルジジイに任せて、町に食事を買いに行くことにした。
 ちなみにチビ共はエルジジイの作業を面白そうに見ていたので、置いていくことにした。
 一応、危ないから近づくなよとは言っておいたから大丈夫だろう。
 チビ共もしっかり頷いてたしな。本当に物分りのいいやつらだぜ。
 軽食ってやつだな。さらっと買って、ついでにいくつか店を覗いて包帯を買った。グス公は、包帯ならありますよ? とか言ってたが、これは怪我に使うんじゃねぇんだよ。
 まぁ、そんなこんなで大体小一時間くらいだろ。

「できたぞ!」
「え、もうできてんのか?」
「これくらいちょろいもんじゃ!」

 俺はエルジジイに、薄らと青く光ってる鉄パイプを受け取った。
 何だこれ、物凄ぇ軽いじゃねぇか。
 軽く振ったり地面を叩いたりしてみたが、全然大丈夫だ。

「すげぇな! びくともしねぇ!」
「かっかっか。世界一の鉄パイプが作れたと思うぞ!」
「あの、エルジーさん。これってもしかして…ミスリルですか?」
「ほぉ! よく分かったのぉ。その通りじゃ!」
「えええええええええええええええ!?」
「ミスリル? ミスリルってなんだ?」
「鉄よりも遥かに軽くて丈夫で、高価な鉱物です! 騎士団とかの正規騎士の剣や鎧に使うものですよ!? それを鉄パイプ何かに使ったんですか!?」

 お、おう? 何かすげぇもんなのは分かったわ。だけどよぉ、鉄パイプを馬鹿にするのはどうかと思うんだけどなぁ。

「何か、たけぇもんだってのは分かったわ。良かったのか?」
「構わん構わん! 儂はお前が気に入ったと言ったじゃろ! 好きに使え!」

 へへっ。わりぃな。
 俺はミスリルの鉄パイプを握り直した。うん、しっくりくるな。

「おう! 完璧だ! すげぇ今テンション上がってるぜ!」
「わ、分かりましたから振り回さないでくださいよ」

 グス公に言われて振り回すのをやめて、エルジジイと飯を食ったので宿に戻ることにした。

「ありがとな。大事に使わせてもらうぜ」
「かっかっか。困ったらいつでもこい! 直してもやるし、他の武器でもお前らのためなら作ってやるぞ! 今日は非常に楽しかったわい!」
「本当に本当に、ありがとうございました」

 俺とグス公はエルジジイに見送られ、宿に戻った。
 明日は精霊探しだ。腕が鳴るな。


 次の日、グス公が起きなかったせいで出発が遅れた。
 ぐすぐす言ってるし目的地も曖昧だったから、休憩をとってチビ共に話を聞く。
 すると、チビ共は精霊の森を知っているらしい。へへっ流石はチビ共だ。俺は相変わらずぐすぐす言っているグス公を無視し、チビ共の案内で精霊の森へ向かった。
 グス公もぐすぐす言いながらだが、ちゃんとついてきたけどな。

 チビ共の進む先、俺にはこの道に覚えがあった。
 間違いねぇ。これは俺とチビ共が暮らしていた場所だ。つまり、そういうことだろう。
 もう森の外も飽きたし、森に帰ろうぜってことだ。
 へへっ、俺からしたら大歓迎だぜ。グス公はまぁ、後で町に送ってやればいいだろ。
 だが、急に静かになったグス公が何か話し出した。

「すごい……」
「あん?」
「魔力がどんどん濃くなります。……ううん、満ちていってるんです」
「どういうことだ?」
「分かりません。分からないんですけど、分かるんです」

 俺にはてめぇの言ってることが分からねぇよ。分かったのは、魔力が濃くなってるらしいってことだ。
 魔力が濃い? あれ、つまり精霊の森ってやつか?

 そのまま少し進み、着いた場所は俺らが住んでいた洞窟だった。
 チビ共はそこで立ち止まり、飛び跳ねてる。どうやらここが目的地みたいだ。
 グス公は周囲を見渡して驚いた顔をしてる。
 何に驚いてるのかは分からねぇが、俺は夕暮れになってることを気にして、夕飯のために鍋でも洗おうかと考えていた。
 町で仕入れた肉もあるしなぁ、肉は焼くか? スープに入れるのも味が出ていいんだよなぁ。
 そんなことを考えていたら、グス公が鍋を洗っている俺の肩を揺さぶりだした。

「おい、俺は今鍋を洗ってんだ。邪魔してんじゃねぇよ」
「それどころじゃありませんよ! 零さんはここがどこだか分かってるんですか!?」
「あ? 俺の家だろ?」
「何を訳の分からないことを言っているんですか! ここは精霊の森ですよ! 間違いありません。零さん何でここを知っているんですか!? 文献とかであるだろうと言われてはいましたが、何度調査しても分からないままだったんですよ! 行ったことがあるという人だって、二度目は辿り着けなかったって…」
「いや、ここに住んでたからなぁ」
「住んでた!? ここに!? どういうことですか! ちゃんと説明してください!」

 えぇー…。面倒くせぇなぁ。
 だがまぁ仕方なく、俺はグス公に説明することにした。


 洞窟で夕飯を食って説明をした。
 グス公は、真剣に話を聞いてくれていた。最初からそうやって聞いて入れば、こんなことにならなかったんじゃねぇか?

「なるほど。色々と納得がいきました」
「納得だぁ?」
「はい。零さんの変わった服装とか目つきが怖いこととか、魔法を知らないこととか精霊を知らないこととか目つきが怖いこととか、たまに誰もいないのに話しかけてたこととかですね。絶対に危ない人だと思ってました」
「てめぇ、俺をそんな風に思ってたのか……。てか、目つきが怖いって言いすぎじゃねぇか!? あぁ!?」
「怒らないでくださいよ! まぁそういう訳で、零さんの言うことも信じました。ですが、精霊が見えていたなんて…。恐らくそれはスキルですね」
「スキル? また新しい単語が出てきたぞ」
「はい。スキルというのは特徴みたいなものです。例えば私は髪も赤く、火の魔法が得意です。ですので、スキルは『炎の魔法の使い手』となっています」
「へぇー。それがあると何か違うのか?」
「スキルというのは、自分の意思で決まるわけじゃないんです」
「俺がチビ共と仲が良いのは、スキルってやつのお陰ってことか? まじかよ、やっと仲良くなれるやつと出会えたと思ったのによぉ……」
「それは逆ですね」
「逆?」
「例えば殺人犯に、スキルで『正義の心』とかは芽生えません。あくまで本人の資質がスキルとしてあるんです。それに精霊が見えるからって、精霊と仲良くなれるかは別だと思いますよ」
「ってことはだ。俺が仲良くなれたのはスキルのお陰じゃなくて、俺の資質ってことか」
「そうなりますね」

 おっしゃあああああああああああ!! あんだよ! それだけ聞ければ十分だ! いやーまじで良かったわ!
 今の俺なら何でもできるぜ! それくらいテンション上がってきやがった!

「ですが……」
「あ? 今いい気分なんだからよぉ、水差すんじゃねぇよ」
「いえ、そのスキルのことは隠した方がいいと思います。前にも言いましたが、精霊は基本見えません。精霊が見れるなんて分かったら、利用しようとする人がたくさん出ると思います」
「利用? 案内しろとかか?」
「いえ、零さんを使って精霊と契約しようとしたりですね。無理矢理にでも契約してしまえば、その人は強い力を持つことになりますから」
「あああああああああああ!? チビ共に無理矢理だと!? ぶっ殺すぞ! どこのどいつがだ!!」
「待って待って待ってください! 例えですからね!? でもそういう人もいるんです!」
「……ちっ。ふざけやがって」

 俺が思ってる以上に精霊ってのはすげぇらしいな。こいつらを利用か……。ん?

「え? このチビ共って精霊なのか?」
「私には見えませんが、特徴を聞く限りそうだと思いますよ?」
「でもよぉ、燃え盛ったりしてねぇぞ」
「たぶん、大げさに噂が広がっていたんでしょうね……。零さんの話を聞くと、精霊はとっても可愛いみたいですから。やっぱり威厳とかそういうのを求めたんじゃないですかね?」

 面倒くせぇなぁ。威厳とかどうでもいいだろ。こんなに可愛いこいつらに文句があるってのか。
 まぁ、そんなやつらとはチビ共も仲良くなりたくはないわなぁ。

「はぁ、それにしてもどうしましょうか」
「どうするって何がだ?」
「いえ、私はどうやって精霊と契約をすればいいか分からなくなってしまって」
「お前と仲良くなりてぇやつがいるか聞いてやろうか? 無理矢理じゃなければいいんじゃねぇか」
「……でも、それは零さんの力ですよね? やっぱり自分の力で仲良くなる方法を考えないといけないかなって。零さんに言われたから契約した。それじゃぁ納得できませんし、可愛そうじゃないですか」
「グス公おめぇいいやつだったんだな」
「今更ですか!? 私最初からすごくいい人だったと思うんですけど!」
「いや、計画性のない我がまま馬鹿だと思ってたわ」
「むぐううううううううう!」

 ははっ。チビ共も笑ってやがる。良く分からねぇけどよ、グス公ならチビ共と契約できんじゃねぇかな。
 俺にはもう応援してやることしかできねぇけどな。

「とりあえず今日はここで休みましょうか。明日から頑張って精霊と仲良くなってみます!」
「おう。何か手が必要だったら言えや。できることはしてやるぜ」
「はい!」

 っつーことで今日は寝ることにした。チビ共はたくさんいるしな。すぐに終わるだろ。


 グス公が精霊と契約するはずの次の日。
 こんなことは大したことじゃねぇだろうし、すぐに終わると思っていた。
 だが、一向に進展がないまま昼過ぎになる。グス公はぐすぐす泣いてばっかりだ。
 チビ共に話を聞いて好きなもんとかを聞いて、火の精霊のために火の魔法を出してみたりもしたが駄目だった。
 ……で、詳しくチビ共に話を聞くと俺と指を突き合わせたりしていたのが、契約の儀式だったらしい。
 そのせいでグス公は契約ができなかったみてぇだ。それが分かった後は、俺と契約してねぇチビとうまいこと契約し、グス公は目的を達成した。

 なんとかグス公が精霊と契約した次の日。
 やっぱりあいつは起きてこなかった。イタズラしつつなんとか起こし、俺たちは町へ戻ることにする。
 道中話した結果、グス公と王都ってところへ向かうことになった。
 だが、またあの緑のやつを見つけたんだ。俺は慌ててグス公を引っ張って木の影に隠れたんだが、グス公はなにを勘違いしたのか、ケダモノ! そういう狙いだったんですね! と、騒ぎやがった。
 本当に救いようがねぇ。だが無理矢理顔を向かせると、緑のやつがいるのに気付いた。ゴブリンって言うらしいな。
 で、まぁ手に入れたミスリルの鉄パイプでそいつらをボコボコにした。倒した後、ゴブリン共は光になって消えちまったんだ。超こえぇ。
 だがそれ以降は襲われたりすることもなく、俺たちは町に到着し、馬車へ乗り込んだ。
 城が見れるってのは、わくわくすんな!
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