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ライブダンジョン! 作者:dy冷凍
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 何回かの戦闘が終わりその間努はシルバーファングの戦いをじっと見ていた。アタッカー陣は三体以上モンスターがいなければ無傷で。六体以上出てくると被弾することが一度か二度あるといった様子であった。

 鳥人たちのフェザーダンスでモンスターの動きを止め、モンスターの急所や足を的確に切り刻むミシル。開幕でモンスターを数体確実に撃破してその後の戦闘で数的有利を取っていく戦法。勿論開幕ミシルが削った後の連携も良好で、三人がきちんと仲間を意識してモンスターの数や動きを把握して攻めるため、モンスターと不利な状況で戦うことが少ない。

 ただこの戦法だとやはり連戦に弱い印象があり、五十六階層から戦闘が厳しくなることは予想出来た。しかし三人の連携力はあるので二度目、三度目のフェザーダンスを上手く組み込み、そして峡谷の地形に慣れさえすれば五十九階層まではいけるのではないかと努は思った。

 だがヒーラーのロレーナがまだPTに全く馴染めていないように努には見えた。飛ばす支援スキルも慣れていないにせよ。何処か自信がないような様子だ。プロテクなどもモンスターに当ててしまうことを極端に怖がっているせいか、黒門付近で練習していた時とは大違いのつたない操作精度になってしまっている。何度も途中で霧散させては構築を繰り返しているせいで、プロテクの効果時間が切れてしまっていることが多い。

 そして飛ばすヒールもミシルが草狼バーダントウルフに噛み付かれた時に試して貰ったが、飛ばすヒールだと距離などは関係なく回復力が極端に落ちてほぼ回復出来ていなかった。手で直接触れてヒールを行うと努が直接回復させるのと変わらない回復力なのだが、飛ばすとガクンと回復力が下がる。

 その様子を見た努は皆に触れて回復させたロレーナに質問を投げかけた。


「ロレーナさんは探索者を何年前から始めました?」
「……五、六年前ですね」
「そうですか。今まではずっと手で触れてヒールを?」
「はい」


 努は最初からゲームのようにヒールを飛ばして回復することが当然だと思っていたのに対し、彼女は五、六年直接手で触れて回復スキルを使用してきた。支援スキルは付与術士が最初から飛ばしていたため彼女も想像しやすかったものの、回復スキルに関しては最初から飛ばす者がいなかったため、回復出来ないという認識が残ってしまっていた。

 知識を与えるにせよまずはその認識から変えないと駄目かなと努は考えた。


「……なるほど。それではまず、飛ばすヒールで傷を癒せるという認識をしてみて下さい。少しの間自分と変わってみましょう。外から見れば多少認識が変わると思うので」
「わかっ、ました」


 その言葉に努はずっこけそうになりながらも、マジックバッグから白杖を出して彼女と荷物持ちを交代した。そして三人に戦闘中にヘイストを付けることを伝えて、三人にヘイストを付けて感覚を慣らさせつつ山道を進む。

 すると山道の前に草狼が群れを成して現れた。およそ七匹。草むらに擬態しているだろうなと感じた努は警戒の声を上げた。その声を聞いたミシルの手振りで鳥人たちがフェザーダンスを草むらに放つと、案の定潜伏していた草狼も姿を現した。これで総数は十二匹となった。

 努は鳥人には効果時間の短めなヘイスト。ミシルには効果時間の長いヘイストをかけ、彼にだけプロテクも付けた。戦闘中で一番被弾しやすい者はミシルなので、彼には常時二つ付けている。

 草狼の群れの全体にフェザーダンスが襲いかかり、ミシルは右側から大きく回り込んで怯んでいる草狼を削っていく。努はフライで浮かび上がろうとするのは止め、自身の足でミシルに支援スキルが当てやすい位置へと移動する。

 草むらには草狼が擬態して潜伏している可能性があるため努は慎重に位置取りしていく。そして空を飛び回っている鳥人たちにまずはヘイストを飛ばし、ミシルのヘイストとプロテクの効果時間を体感で測って効果時間の切れる寸前で彼にヘイストを当てた。

 努は長年ゲームでそういった効果時間の秒数管理を数え切れないほど行っている。なので彼の体感での時間管理は秒数管理BOTに劣らないほどの精密さを持っているので、心の中で秒数を数えなくとも問題ない。内心で数えている時は自身の考えをまとめている際のついでに行っているにすぎない。

 常時ヘイストを付けられた三人ならば十体前後の草狼なら安定して倒すことが出来る。ほぼ無傷で完封してしまった戦闘に努は白杖を地面についた。


「あ、ミシルさん。次回からヘイスト付けないのでそのつもりでお願いします」
「怪我しろってか?」
「はい」
「即答かよ!? こいつおっかねーわ……」


 ククリ刀を回転させた後に腰のベルトに引っ掛けたミシルは、努の物言いにおどけた様子で両手を上げた。二人のやりとりを見て鳥人たちがくすくすと笑っている。

 その後の戦闘でいくらか怪我をしたミシルに努はヒールを怪我した部位へ的確に当てていく。土猪ウリボアの牙が刺さった足や赤熊レッドグリズリーに吹き飛ばされた際の打撲痕が治っていく様子を、ロレーナは真剣な目つきで観察していた。

 そして再びロレーナと変わった努は荷物持ちをしながらもロレーナの動きを見る。だが相変わらず動きが固く、飛ばすスキルを使う時は緊張してしまっているようで機動操作がへなへなだ。それに努の様子を見て余計に上手くやらなければ、という焦りも彼女の中にあった。

 そんなことを努は露知つゆしらず、彼女は誤射が怖いのだろうと思っていた。プロテクをモンスターに当ててしまえばモンスターのVIT(頑丈さ)が一定時間強化されてしまい、マイナス効果を生んでしまうだろう。確かにそういったミスはしないに限る。

 だが最初から完璧にこなせる者などいない。努はゲームでの積み重ねや考え方もあって目立った失敗はしていないにせよ、それでも何回か誤射をしたことはある。まずはやってみなければ上達など絶対にしない。成功の裏には必ず失敗が付き物だ。

 それにミシルや鳥人たちが誤射程度で怒るとは努には思えなかった。三人ともそういった性格ではないし、ロレーナとも五、六年PTを組んでいるのだから信頼関係も深いだろう。

 それでも赤熊二匹と三人が戦っている中、飛ばすスキルを使いあぐねているロレーナ。それを見て努はその背後から手を開いて赤熊へと向けた。


「プロテク」


 小声と共に発射された黄土色のプロテクは真っ直ぐと赤熊に向かって直撃した。黄土色の気を纏った赤熊。ロレーナが後ろから突然飛んできたプロテクに驚き、とんでもないようなものを見る目で努を凝視ぎょうししていた。


「な、何やってるんだあんた!」
「あー、誤射しちゃいましたね。取り敢えず謝っといた方がいいですよ」
「あんたが撃ったんでしょぉぉぉぉぉ!? えぇ!? 意味わかんない!」


 兎耳を全開に立てて詰め寄ってきたロレーナをまぁまぁと諌めている努。ミシルはそれをチラリと見た後にククリ刀で赤熊の腕を裂く。VITが強化された赤熊には今まで腕を切り裂いていた攻撃が浅い傷を与えるだけになってしまう。しかし三人は大して慌てた様子もなく順調に一体目を撃破し、続いてプロテクの切れた赤熊も倒した。

 そして努がロレーナに胸ぐらを掴まれてぐらぐらとされている光景を目にしたミシルは、慌てて二人を止めにかかった。息を荒げているロレーナにそこまで怒るとは思っていなくて咳き込んでいる努。

 ミシルは真っ直ぐに飛んできたプロテクと努の意味深な視線を見て色々と察したのか、意地悪げな笑みをしながらもロレーナに話しかけた。


「おいロレーナ。誤射しやがったな?」
「ち、違いますよ! この人が後ろから撃ったんです! 私じゃないです!」
「僕撃ってないでーす」
「このっ……!」


 まだ言い張る努に顔を真っ赤にしながら迫るロレーナを鳥人たちが二人がかりで押さえている。努は思った以上に力の強いロレーナに少しびくつきながらもさっと距離を取った。ミシルは努の口ぶりに呆れたような視線を向けた後、落ち着き始めたロレーナの肩を横から軽く叩いた。


「誤射なんざ気にすんなロレーナ。その調子でどんどんやれ」
「え……?」
「そもそもツトムじゃねーんだから、最初から出来るなんざ誰も思ってねーよ。なぁ?」


 二人の鳥人少女にミシルが同意を求めるように視線を向けると、彼女たちはうんうんと頷いた。


「飛ばすスキルって、私たちのフェザーダンスみたいなもんでしょ? 私たちも最初失敗ばっかだったしね。気にしなくていーよ」
「別にいいじゃん。失敗したって。全員死んじゃったら装備が勿体無いけど、またやり直せばいいしね」
「みんな……。でも、ただでさえお世話になってるのに」
「俺が気にすんなって言ってんだから、お前は何も気にしなくていいんだよ。俺がリーダーだからな」


 わしわしと無抵抗に頭を撫でられたロレーナの兎耳が左右にぴょこぴょこと動く。しかし彼女はそれでも下を向きながらも動かない。ロレーナは白魔道士である自分をここまで育ててくれたPTメンバーに感謝し、そしてそんなPTメンバーには絶対に迷惑をかけないように意識してきた。ただでさえ足でまといなのだから、せめてPTメンバーに迷惑だけはかけたくなかった。

 ミシルが撫でるのを止めても顔を上げないロレーナに、努はおっかなびっくり近づきながらも話しかけた。


「ロレーナさん。貴方はこんないいPTメンバーに恵まれてるんです。恩返しをしたくはないですか?」
「したいよ! ……でも私はあんたみたいに天才じゃない。飛ばすスキルなんて出来っこないよ」


 努に食ってかかるように叫んだロレーナは悔しそうに下を向いた。幸運者として名を知らしめて次はエイミーを足蹴りにした犯罪者として報じられ、かと思えば三人で火竜を討伐してあのソリット社にわざわざ謝罪までさせる男。二ヶ月ほど前から活動を始めたばかりであるにも関わらず、目覚しい活躍を見せている彼にロレーナは白魔道士として嫉妬していた。

 努はそんなロレーナの顔を見て少し悲しそうにしながらも、横にどいたミシルを見ながらも言葉を返した。


「その飛ばすスキルはミシルさんに教えられて、練習したんですよね? ということは彼は、貴方に期待をかけているのです。その期待に応えたくはないですか?」


 努の言葉に気づかされたロレーナは前にいるミシルを見た。彼は気恥ずかしげに頭をぽりぽりと掻いていた。


「少なくとも支援スキルは見ている感じ絶対に出来るはずです。まずは挑戦してみましょう。この人たちは貴方が失敗しても迷惑だなんて思わないでしょうしね」
「うん! 思う存分練習していいよ! ね!」
「別にモンスターのVITあがるくらいなら大丈夫だよ。私たちをあんまり舐めないで欲しいわね」
「うん……」


 両側の鳥人の翼で包まれるように慰められて、ロレーナは涙で濡れた目をごしごしと拭った。その様子にミシルと努は目を合わせた後に安心するように息を吐いた。

 その後の戦闘ではロレーナは積極的に支援スキルを使い始めた。プロテクが外れてしまったりモンスターに当たってしまうことはあるものの、彼女は練習の時と同じような機動操作が出来ていた。成功率は数を重ねることに上がっていき、飛ばす支援スキルは充分戦略に組み込める精度になった。

 そしてミシルが怪我をした際にロレーナに飛ばすヒールを試させたところ、少し回復力が上がっていた。やはりヒールは直接触れて癒すもの、という先入観が回復力を低下させていたらしかった。だがそれでも努の飛ばすヒールの半分ほどの回復力だ。ステータス差も考慮するとやはりまだ弱い。


「それでは今度はエリアルヒールを設置した後、ヒールを飛ばしてみて下さい」
「え? エリアルヒールですか?」


 先ほどの誤射は自分のために撃ったのだと内心で理解していたロレーナは、努の言葉に兎耳を片方曲げて首を傾げた。エリアルヒールとは地面へ回復領域を作成するスキルだ。その場所に怪我を負った者が入ると自動的に回復してくれる設置型継続回復領域である。

 重量型のあまり動かないタンクなどの足元に置く用途が一般的なエリアルヒール。しかしこの世界ではモンスターも回復させてしまうため、あまり使われていないスキルだ。精神力消費もそこそこ高いし回復速度もそこまで早くない。

 ただしゲームではタンクの足元につける他に、スキルコンボとして使われることが多いスキルだった。

 スキルコンボとは、スキルを連続して繋ぎ合わせることで相乗効果をもたらす現象だ。ガルムが使っている自身の武器と鎧を打ち鳴らして敵を挑発する音を響かせるウォーリアーハウルと、盾を投擲するシ-ルドスロウ。この二つを連続して使うことによってウォーリアーハウルの音が乗った盾を投げることができ、モンスターのヘイトを更に稼ぐことが可能となる。

 他にもエイミーのAGI(敏捷性)を上げるブーストからの双波斬や岩割刃もコンボと言えるし、カミーユの龍化からのパワースラッシュなどもそれに当たる。そしてエリアルヒールは自身の足元に設置することで回復スキルの効果を上げる効果がある。

 しかしエリアルヒールを設置することによる精神力消費はハイヒール二回分と多い。あまり何回も設置しなおすことは難しいが、それでも遠くから飛ばせるというだけで大きなアドバンテージを得ることが出来るだろう。

 早速ロレーナは努に言われた通りにエリアルヒールを自身の足元に展開させた後に、少し離れているミシルへとヒールを放った。するとミシルの引っかき傷は綺麗さっぱり治った。やはり回復力は上がっている。

 それから距離減衰やヒールを出してからの経過時間などを見ながらも繰り返し検証を行う。そしてロレーナも飛ぶヒールでも回復出来るという自信がついたおかげか、その回復力は努の飛ばすヒールと同等の効果まで引き上がった。


「エリアルヒール込みではありますが、取り敢えず実用レベルまでにはなりましたね。後は貴方が操作精度をいかにあげられるか、ですね。頑張って下さい」
「うん! 頑張る! ありがと!」


 努の手を両手で取ってぶんぶんと握手してきたロレーナに、努は握手が終わった後に軋む手と腕を押さえた。


「あ、あとミシルさん。他にも教えられることありますけど、どうです? 丁度ガルムいるんで夜でよければ伝えますけど」
「……後でお金請求したりとかしない?」
「しませんよ。あ、ただ教えるからにはちゃんと成果出してくださいね。そしてアタッカー以外のジョブの素晴らしさを広めるのだー」
「ははーっ。ご貴族様ー。なんなりとー」
「うむ、苦しゅうない苦しゅうない」


 腰に手を当てて偉そうに胸を張った努にミシルは大げさに頭を下げている。その二人を見て鳥人二人は子供を見るような目で、ロレーナは努に尊敬の眼差しを送っていた。

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