46歳のバツイチおじさんによるノンフィクション巨編「世界一周花嫁探しの旅」、今回の滞在地はタイ・バンコクです。前回、カンボジアのシェムリアップに実在した「テラスハウス」がまぶしすぎてまったく馴染めなかったバツイチおじさん。テラスハウスを離れ、以前、旅に疲れ果て“沈没生活”を送ることになったバンコクに再び戻ってきたのですが……。恋するバツイチおじさんのズンドコ珍道中、今回は久々にある出会いを果たします!
⇒【写真レポ】「冬物を預かってくれた心優しいオーナーと再会」「27歳の独身女性のキャンとの出会い」ほか
【第24話 恋する惑星】
カンボジア・シェムリアップのテラスハウスを去り、12ドルの格安のバンでタイのバンコクに向かった。二回目のバンコクだ。たった1300円ちょっとで国境を越えられるのだから安いものである。
これでタイ・ベトナム・カンボジアと東南アジアをぐるっと一周したことになる。
国境を越えバンコクの高層ビル街を見るとなんだか懐かしい感じがした。
バックパッカーの聖地カオサン通りでバスを降り、バーガーキングで腹を満たす。
そして、冬物を預けていたサトーンという下町にある一泊900円のゲストハウス「カーマバンコク」へ向かった。
世界一周するには真夏の国の服から真冬の国の服まで持って行く必要がある。冬物を詰め込んだ22キロのバックパックを背負い、バンコクから東南アジア一周に旅立つ直前、ゲストハウスのアメリカ人オーナーが、重い荷物でフラフラの俺を見かねて満面の笑みを浮かべてこう言ってくれた。
「冬物、重いだろうから預かるよ!」
異国の地で見知らぬ人に荷物の一部を預けるなんてかなり心配だったが、彼の笑顔を信用しお願いすることにした。
ところが、冬物の洋服を預けた直後に訪れたタイの北部はかなり寒かった。
寒さが体の芯までしみたが持っているのはTシャツや短パンなどの夏服のみ。
その時、薄れゆく意識の中で思い出したのが、オーナーの優しい満面の笑みだった。
「冬物、重いだろうから預かるよ!」
あの笑顔が頭にこびりついて離れなくなった。
なんでだろう。
なんで、「タイの北部はかなり寒いぞ!」とか言ってくれなかったのだろう。
バンコクでゲストハウスを経営してるなら、それぐらいは知ってるはずなのに。
その後も、Tシャツ一枚で寒くなると彼の笑顔を思い出し、恨みにも似た複雑な気持ちを抱いた。
そして、会ったら絶対にこう言ってやろうと心に決めていた。
「おかげで、寒かったよ!」
バンコクに戻り、ゲストハウス「カーマバンコク」に着いた。
すると、オーナーがあの優しい笑顔で迎えに来てくれた。
オーナー「おー、ゴトウ、よく戻ってきた!楽しかったかー??」
俺「…ただいま、楽しかったです」
オーナー「おーーそうか!良かった良かった」
俺「……」
オーナー「冬物、預かってるぞ! はははははははは!」
くそ……。
なんていい笑顔なんだ。
この屈託のない笑顔を見たら、もう「冬物なくて寒かった」なんてどうでも良くなってきた。
俺「……ははははは」
俺もつられて笑ってしまった。
俺「オーナー、預かってくれてありがとう!」
ドミトリーの二段ベッドに腰を下ろし一息つくとお腹がすいてきたので、ふらふらっと近くのお店に晩御飯を食べに出かけた。以前、この宿で沈没していた時、毎日通った行きつけの店だ。
宿から4~5分歩くと青いネオン看板のローカルなお店が見えてきた。席に座り、一食90円の魚すり身のおでんと薄味のスープに入ったソーメンを食べた。うまい。
お金を払い宿に戻ろうと歩いてると、これまた年末年始5回ぐらい飲んだ家族経営の飲み屋の店長の兄ちゃんに会った。Annkaと偶然出会い、「一晩2500バーツ(6576円)でどう?」と誘われたあのお店だ。
兄ちゃん「おー! ゴトウ帰ってきたんだ。一緒に飲もう!」
この言葉がきっかけで一緒にビールを飲むことになった。「アジアの旅どうだった?」と聞かれたので、ホーチミンでゆみさんにフラれた話、プノンペンでエラにフラれた話、ついでにフィリピンの英語学校でアナベルにフラれた話を立て続けにした。兄ちゃんは、淡々と女にフラれた話をする俺の表情がツボらしく「ゴトー、最高~!」と爆笑した。
英語で笑いをとったという高揚感で俺もテンションが上がり、会話も弾んでいった。
兄ちゃん「ゴトー、隣でカラオケしよう」
二人で盛り上がったまま、隣の薄暗いスナックのようなお店に行った。中に入ると薄暗い部屋に田舎っぽい女の子がたくさんいる。お客さんは地元に住むタイ人がほとんどのようだ。どうやら兄ちゃんがこの店の支配人らしい。
俺「一番好きな曲歌ってよ」
兄ちゃん「日本の歌、知らないよ」
俺「タイの歌が聞きたい」
兄ちゃん「…イイけど…じゃあ、一緒に歌おうよ」
俺「イイよ。そっちの曲の途中から適当にハモるよ」
そうやって二人でステージに立ち、タイの歌謡曲を歌うことになった。俺はローマ字表記のタイ語と兄ちゃんから聞いたメロディを即興でモノマネし、雰囲気を出してハモると、お店の女の子やローカルなおっさん達が大盛り上がりした。
曲が終わり二人でハイタッチすると、すっかり気分が良くなった兄ちゃんがこんなことを言ってきた。
兄ちゃん「ゴトー、超楽しいよ。ありがとう! お礼にこの店にいる女の子、誰でも連れ帰っていいよ。値段は一晩100バーツ(316円)で構わないから」
えっ? 316円?
一晩女の子を抱くのに?
薄暗い店内を見回すと、10数人の少し垢抜けない女の子が笑顔で接客していた。
兄ちゃんはいつものように人が良さそうな顔でニコニコ笑っている。しかし、目の奥が笑ってるかまでは暗くて見えない。
兄ちゃん本当は怖い人? ゾクッと悪寒が走った。
俺は彼が急に怖くなり、この申し出を丁寧に断わった。兄ちゃんは「イイよイイよ」と優しく笑った。
その後、お会計をすると、兄ちゃん特別割引価格で135バーツ(360円)だった。
いや360円って……。カラオケボックスじゃないんだから……。
この金額、もしかすると本当に友情の証だったのもしれない。
俺は兄ちゃんにお礼を言うと、そのまま宿に戻った。長い移動で疲れていたからか、その夜はぐっすりと眠れた。
翌朝、ゆっくり起き、洗濯をし、ドミトリーの2段ベッドの一階でこの連載を書いた。
落ち着けてWi-Fi環境がいい宿にいる時が連載を書くチャンスだ。
集中して書いているとお腹が減ってきた。外に出るともう真っ暗になっていて、気づくと晩ごはんの時間になっていた。
俺は歩いて1キロほど先にある「アジアンパーク」に向かった。最近できたバンコクの人気スポットで、若者に人気の屋台街アミューズメントパークだ。ふらふらっと散歩し、写真を撮ったりした。アジアンパークの屋台でごはんを食べようとしたが、結構高い。
仕方ないので、ここで食べるのをあきらめ、外れにあるローカルな屋台に入り、空芯菜とグリーンカレーとLEOビールを頼んだ。超辛いグリーンカレーで出た大量の汗を拭きながら、ビールを流し込んでいると、隣の男女のグループの若い女性と目があった。
俺がにこりと笑うと、その女性が話しかけてきた。
雰囲気から中国人女性のようだ。
女性 「一人ですか?」
俺 「はい。そうですけど」
女性 「良かったらこっちのグループに混じりません?」
俺 「え?」
よく見るとアラブ人男子3人と中国人女子の彼女一人が一緒に飲んでいた。
一体どういう組み合わせなんだろう?
俺 「みなさんお友達ですか?」
女子 「……いや、違うんです。私も一人でご飯を食べてて、このグループに声をかけられたんです」
すると、奥にいたアラブ人グループの一人が声をかけてきた。
アラブ人男子 「ヘイ!ブラザー。どこの国から来たんだ?」
俺 「日本だよ」
アラブ人男子 「一緒に飲もうぜ日本人のブラザー!」
「ブラザーって兄弟だろう。やけに馴れ馴れしいな。これがアラブ流の英語コミュニケーションか。まぁでも、どうせやることもないし、アラブ人や中国人と飲んだことないから飲んでみるか」
そう思い、一緒に飲むことにした。アラブ人男性3人組はアジアンパークで路面店をやっているそうでイラン人らしい。堅気っぽいが、どことなく危険な雰囲気がある。俺は財布がスられてないか、首かけのバックを握りしめ確認した。今のところ大丈夫。だが、気を抜くとやばいかも。本能が危険を察知していた。
中国人女子は20代後半で人生初めての一人旅でタイに来て、近くのホテルに泊まっているらしい。お腹が空いたので屋台に来たところ、アラブ人男子に声をかけられ一緒に飲むことになったそうだ。
アラブ人男子は中国人女子に何かとお酒を飲まそうとしていた。
彼女が一口でもお酒を飲むと、すかさずグラスにビールを注ぐ。
途中から一気コールをかけ、嫌がる中国人女子に無理やりビールを飲まそうとしていた。
俺にも「ヘイブラザー!」と言い、お酒を飲ませようとする。
俺はシェムリアップの失敗もあるので、適当にあしらい自分のペースで飲んだ。
30分ぐらい飲んだ後、おしっこに行きたくなり席を立った。
近くのコンビニで用を足し外に出ると、一緒に飲んでいた中国人女性が俺を見つめ、そこに立っていた。
中国人女子 「……ねぇ、助けて欲しい」
俺 「え?」
中国人女子 「何度も帰ろうとするんだけど、帰してくれないの」
俺 「そうなんだ。お酒は結構飲んだの?」
中国人女子 「何回か一気させられた。怖いから、断ったら何かされそうな気がして…」
彼女の目は潤んでいた。
俺 「いいよ! 俺が連れて帰ってあげる」
俺は密かに二人分の会計を済ませ、屋台に戻った。
イラン人男子グループは男同士で何やら盛り上がっている。
俺 「悪い! 彼女、もうホテルに帰って休みたいんだって。俺、ドミトリーが近いから送ってくよ」
アラブ人男子 「それはないよブラザー、飲もうぜ!」
俺 「いや、もう疲れた。帰って寝たい。悪いな。俺の分と彼女の分はすでにお会計済ませたよ」
中国人女子 「……」
俺 「今日はありがとう!楽しかったよ」
そうやって握手を求めると、3人は渋々握手をした。
そして、屋台を離れようとすると男達がやってきた。
アラブ男子 「ヘイブラザー、この子はお前が連れて帰るのか?」
俺 「あーそうだよ。送ってく」
アラブ男子 「この子には俺たちが結構お酒を奢ったんだ。もしこの子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ。男ならわかるだろうブラザー」
いにしえのアラブ商人のような、謎な交渉戦術だ。
俺 「ありえない。彼女が自分でオーダーした分と俺の分のお会計はすでに済ませたよ。俺はただ、彼女を送ってくだけなんだ」
アラブ人男子 「いや、全額払え!」
少し声を荒げた。俺はカチンときた。
俺 「は? お前、日本人なめてんのか、こら? あ?」
そう日本語で怒鳴ると、むこうは一瞬たじろいた。
その隙に彼らを振り払い、彼女と一緒にトゥクトゥクに乗り込んだ。
俺 「サンキュー、アラブのブラザー。今日は楽しかったよ」
そう言ってトゥクトゥクを出発させた。
アラブ人達は、「まぁしょうがないか!」という顔でこちらを見つめている。
俺と彼女は手を振り、彼らとお別れした。
中国人女子 「今日はありがとうございました」
俺 「いや、いいよ。あいつら、ちょっとたちが悪いね」
中国人女子 「うん。少し怖かった」
俺 「遅い時間は危険だから、あまり出ないほうが良いかもね」
なんとか彼女を助けることができた。
良いことをした後は気持ちがいい。
トゥクトゥクを走らせてると夜風がすごく気持ちよかった。
バンコクの夜の街並みを見るとなぜかウォンカーウェイ監督の「恋する惑星」を思い出す。カメラマン、クリストファー・ドイルの映像と夜のバンコクが妙にオーバーラップしてしまうのだ。
10分ほどチャオプラヤー川沿いの道を走ると、彼女のホテルの前に着いた。
ホテルは俺の安宿とは随分違っていて、一泊一万円以上はするに違いない高級ホテルだった。
今の俺には手の届かない世界に住んでるお嬢様のように感じた。
中国人女子 「……あの、明日の夜って何か予定あります?」
俺 「え? 特にないけど」
中国人女子 「一緒に晩ごはん食べませんか? 今日のお礼もしたいし」
俺 「いや、お礼はしなくていいけど」
中国人女子 「食べましょうよ」
俺 「うん……いいけど」
中国人女子 「よかった。明日の夕方6時ごろはどう?」
俺 「大丈夫だよ。ここに来れば良い?」
中国人女子 「え、迎えに来てくれるの?」
俺 「いいよ。それが一番確実だし」
中国人女子 「ありがとう。今日は本当にありがとうございました。明日、6時にここで」
こんな謎の流れで名前も知らぬ中国人女性とデートをすることになった。
俺は「恋する惑星」の冒頭のワンシーンを思い出した。
「その時、彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」
翌日夕方、バイクタクシーを拾い二人乗りし、GoogleMapでドロップした場所を頼りに彼女のホテルに向かった。
少し迷ったが6時きっかりに約束のホテルのロビーに着いた。
5分待っても彼女はロビーに現れない。
「時間きっちりに来るのは日本人ぐらい」
ふとセブ島の英語学校を思い出した。始業5分前から席についているのは、中国・台湾・韓国人がいる学校では日本人だけだった。しかし、彼女は15分待っても現れない。若干テンションが下がっていると、ドアから彼女が荷物をたくさん持って現れた。
中国人女子 「ごめんなさい。買い物してたら道に迷っちゃって。一旦、部屋に戻って用意するから少し待っててもらっていい?」
俺 「いいよ」
中国人女子 「急ぐから、ごめんね」
そう言い、さらに15分待つと完全に衣装チェンジした彼女が現れた。
中国人女子 「遅くなってごめん」
俺 「どこに行く? 俺、この辺だったら安い屋台かローカルなお店なら知ってるけど」
中国人女子 「友達においしいお店聞いてるの。そこに行きたい!」
スマホを取り出し場所を確認する。二人でトゥクトゥクに乗り、彼女の行きたい店に向かった。
途中、場所がわからなくなるとスマホで中国人の友達と話し始めた。
そして、ドライバーと電話口の友達が直接話すように促す。
なんとかお店に到着するとトゥクトゥクとの金額交渉も彼女が始めた。
なかなかたくましい。
お店は老舗の高級中華料理屋だった。
入り口には生簀があり海老や蟹などが泳いでいる。
「俺がいつも行くローカルなタイ料理屋台の何倍するんだろう?」
席に着き、メニューを見るとビクっとした。
日本の高級中華料理屋と変わらない金額だ。
俺はビールを頼み、「一緒につまむから、そっちが頼んで!」と言い、自分の料理は頼まないで少しでも安くすます作戦に出た。しかし、彼女は海老や蟹など高級料理をバンバン頼んでいる。
二人 「乾杯~」
彼女の名前はキャン。香港近くの郊外の街に住む27歳の独身女性だ。
キャン 「おいしそう~」
そう言うと、キャンは海老や蟹をばくばく食べ始めた。どうやら自分の地元の料理らしく、海老の皮の剥き方や蟹の食べ方が上手だった。俺は「なんでタイのバンコクに来てるのに自分の地元の中華店に来るのか?」と少し不思議に思った。逆の立場だったら、旅先で日本料理屋やラーメン屋に入るのと同じである。わからなくはないが俺にはない感覚だ。
結局、ほとんど彼女が料理を平らげてしまった。
食事が終わったのでお会計をしようとすると、彼女は細かくレシートをチェックし始めた。
そして、店員と中国語で会話を始め、少し値切った。
さすが中国人同士。というかキャン、すごい。
キャン 「ここ、私が出すからいいわ」
俺 「え? なんで? ダメだよ」
キャン 「昨日、助けてもらったし。ね?」
俺 「え? 出すって」
キャン 「いいよいいよ。次出して!」
結局俺は彼女に奢ってもらうことになった。
「日本で女性に奢ってもらった経験なんてあったっけな……」
俺はおそらく初めての経験に、少々面食らった。
キャン 「屋台街に行きたいんだけど、友達に聞いたいい場所があるからそこに行こう!」
そう言うとまたスマホで中国人の友達と中国語で話し、場所を確認し始めた。
俺 「なんでバンコクなのに中国語なの?」
キャン 「バンコクに住んでる華僑の中国の友達がいて、その子にいろいろ聞いてるの」
華僑ネットワーク、凄い。
屋台街に到着すると、彼女はスマホで風景写真を撮り始めた。
俺は席に座り、ビールを頼もうとすると……。
キャン 「私、もう写真撮り終えたから次の場所に行きたいな」
俺 「え? ここで飲んだり食べたりしないの?」
キャン 「さっきの店でお腹一杯食べたから、もうご飯はいいかも」
俺 「……」
キャン 「あ、でも食べてもいいよ」
俺 「いや、次の場所行こう」
結局、屋台街では何も食べないまま次の場所に移動となった。
その後、わずか2時間の間に屋台街、公園、ナイトマーケット、ディスコと彼女の行きたい場所をすべて回った。
キャンは写真さえ撮ってしまえば、もうその場所には興味がなくなるようだ。
キャン 「ゴーゴーボーイズのお店に行きたい!」
俺 「ゲイがいっぱいいるお店だよ」
キャン 「一回、行ってみたいんだ」
俺 「……うん」
キャン 「ね? 行こ!」
キャンは場所もバッチリ調べていて、ソイにあるゲイストリートに向かった。
キャン 「ふふふふふふ。面白い~」
俺 「ここ、写真撮ったら怒られるかも」
キャン 「オッケー。気をつける」
二人で激しいゲイの客引きを追い払いながら、200メートルぐらいの小道を通り抜けた。
キャンは怯えながらも途中から大爆笑していた。
キャン 「戻って、お店に行こうよ」
俺 「行きたいの?」
キャン 「行きたい~」
二人で通り抜けた道を戻り、男の子たちがダンスするお店に入った。
いわゆる新宿二丁目にもあるような、ダンスをしながらお酒を飲むゴーゴーボーイズのお店だ。
ゲイ 「いえ~い!」
キャン 「ふふふふふふ(笑)」
ゲイ 「どこから来たの?」
キャン 「中国」
ゲイ 「そちらのお兄さんも中国?」
俺 「俺は日本です」
ゲイ 「中国人と日本人のカップルなんて珍しい~」
英語になってるだけでノリは日本のゲイバーのノリと全く変わらない。
「なぜ言葉は違うのに同じノリなのか」「ゲイの人のノリは万国共通なのか」という興味深いテーマが頭をよぎったが、今回の旅でこのテーマを追求するのはやめよう。
やがて、ゲイたちが強引にテキーラを進めてきた。
シェムリアップの夜の街に撃沈したテキーラだ。
どうやら酔わせようとしているらしい。
俺は必死に抵抗した。
俺 「無理無理無理無理無理無理」
ゲイ 「ダメダメダメダメダメダメダメ」
そう言うと彼ら(彼女ら?)は俺にテキーラを一気させ始めた。
盛り上がるゲイ軍団。
それを見て笑うキャン。
やがて魔の手はキャンのほうにも回った。
「中国人の子、一気~」
キャンは楽しそうにテキーラを一気をしていた。お酒も強そうだ。
1時間ほど盛り上がったところで、キャンがこう言ってきた。
キャン 「そろそろ遅いし帰らない?」
俺 「うん。俺、結構酔ったかも」
キャン 「ふふふふふ~。私も」
俺 「すみまーせーん。お会計お願いします」
キャン 「もう済ませたわ」
俺 「え? いくらだった?」
キャン 「いいのいいの、おごるわ。出会った時、奢ってくれたし」
俺 「えっ、ダメだよ」
お金を払おうとするが受け取ろうとしない。
キャン「じゃあ、帰りのトゥクトゥク代を払って。ね?」
そう言って強引に納得させられた。
トゥクトゥクに乗り、ホテルまで送っていると、キャンはスマホを見ながらケラケラ笑い出した。
俺 「どうしたの?」
キャン 「良い動画が撮れたわ~。あなたがゲイに一気させられてる~」
俺 「え? 撮影してたの? 撮影禁止なはずなのに。よくバレなかったね」
キャン 「ふふふふふふふ~」
トゥクトゥクの車内で夜風を浴びながら、隣に座っている彼女の横顔を見た。
目まぐるしく移り変わるライトに照らされた彼女は、クリストファー・ドイルの映像の中に出てくる登場人物のようにどこか幻想的だった。
そして俺はまた、「恋する惑星」の冒頭のシーンを思い出した。
「その時、彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」
思えば、ローカルな屋台で荒くれ者からなんとか助けだし、トゥクトゥクで一緒に帰ったところから二人の関係は始まった。そして、まもなく出会ってから24時間が経とうとしている。
「その時、彼女との距離は0.1ミリ。24時間後、僕は彼女に恋をしなかった」
恋をするには十分すぎるほどの出会いから始まった2人なのに、
なぜか俺の胸は高鳴らなかった。
文化の違いか? 貧乏旅行とセレブ旅行という格差が原因か?
それとも、恋愛をするのに臆病になっているのか?
どれも当たっているような気もするし、まるで関係ないような気もする。
でも、きっと彼女も同じ思いだったのだろう。
キャン 「私、明日には中国の家に戻るの。楽しかったわ。ありがとう。ふふふふふ~」
彼女と別れてからも、チャーミングで好奇心たっぷりな「ふふふふふ~」という彼女の笑顔がしばらく頭にこびりついて、しばらく離れなかった。
そして俺は、同じく笑顔がチャーミングな黒人オーナーのゲストハウスに戻り、死んだように眠り続けた。
次号予告「バツイチおじさんの恋する惑星はどこに!? 東南アジアを離れ目指した場所とは!?」を乞うご期待!
●後藤隆一郎(ごとうりゅういちろう)
IVSテレビ制作(株)のADとして「天才たけしの元気が出るテレビ!」(日本テレビ)の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」「トリビアの泉」「学べる!ニュースショー!」など数々の番組制作に携わる。現在はディレクターを休業し、「大体1年ぐらい」という期間限定で花嫁探しの旅に一人で挑戦中。バツイチ、46歳、通称ごっつ。
― 英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅」―
日刊SPA!
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