小谷:この春開校した高校、「N(エヌ)高等学校」が教育の在り方に一石を投じる取り組みとして注目されています。およそ1500人の生徒を集めてスタートしました。「ニコニコ動画」のドワンゴを傘下に持つ、カドカワが設立した通信制高校です。最大の特徴は「ネットで完結する」ということ。授業はスマートフォンのアプリで生配信され、「部活動」もネットで行います。さらに、高校卒業の資格を得るための授業は最小限に抑え、「プログラミング講座」や「大学受験対策」などを揃えた課外授業を充実させる独自の方針も注目されています。カドカワの川上社長が「本気」だというこの取り組み、狙いはどこにあるのでしょうか。日経スタジオには日本経済新聞の村山恵一論説委員がいます。村山さんは、この「N高等学校」のNはネットの「N」と解釈していらっしゃいますか?
小谷真生子メインキャスター
村山恵一・論説委員(2016年5月23日放送)
■授業は原則ネットで
「ネットという意味もあると思うし、さきほどご紹介のあったニコニコ動画のNかもしれないし、いろんな意味が込められているのではないでしょうか。このN高等学校は学校教育法に定められたれっきとした高等学校で、通信制高校の扱いになります。最低3年間在籍し、必要な科目を履修すれば高校卒業資格が得られます。入試はなく原則、書類選考のみです。普通の高校との最も大きな違いは原則、ネットで授業を行うということです。先日開かれた入学式を私も見に行きましたが、バーチャル技術を取り入れて遠隔地と結んでの非常にユニークな形態でした」
小谷:ユニークな取り組みですが、カドカワの狙いはどこにあるのでしょうか?
「カドカワの川上社長は『今の教育の矛盾点をあぶりだす』と言っています。つまり、今の学校教育へのアンチテーゼです。これには2つポイントがあります。1つは今の学校教育の制度疲労の象徴とも言える不登校問題。もう1つはIT(情報技術)社会で求められる人材育成をこの学校で行っていく、ということです」
小谷:ポイントの1つ目からうかがいます。N高等学校はすべてネットで完結する、とありましたが、学生のみなさんは学校には登校しないのでしょうか?
■既存の教育へのアンチテーゼ
「原則として学校生活は、ほぼすべてがネット経由です。N高校は必ずしも不登校の生徒のためにつくられたわけではありませんが、今の学校から疎外された子どもたちがネットの世界に救いを感じている部分は少なくないのではないでしょうか。不登校が社会問題化して久しい今、ニコニコ動画などを運営するカドカワには『若者たちの気持ちを最もつかんでいる我々が本気を出せば、従来の学校にはないものがつくれる』との思いがあります。この点について、開校から2カ月近くがたった生徒の反応を、学校側に聞いてみました」
VTR「生徒には『スラック』というチャットツール、アカウントを生徒全員に配布して使ってもらっています。実際ネットで仲良くなると、大体のお子さんは『会いたい』とか『話したい』とか『直接の交流をしたい』というふうに心境が変化していきます。予想を超える反応でした。既存の学校は、考え方・趣味などがばらばらな子たちが1つのクラスに振り分けられ、直接的なコミュニケーションをほぼ唯一のきっかけとして仲良くなる。その一歩を踏み出せない生徒さんもいるのかなと思います。そういう意味では、ネットをきっかけに「友達になりうる生徒」を見つけられるツールとしては、うまく機能しているのかなと思います」(N高校ネットコミュニティ開発部の秋葉大介部長)
「このようにネットを入口にして、リアルの友達をつくっていくという形ができてきているように見えます。ネットに慣れ親しんだ子どもたちにとってN高等学校というのがひとつの選択肢になりつつあることは確かかなと思います」
小谷:もう一つの狙いである「IT社会で求められる人材の育成」とはどういうことでしょうか?
■課外授業でプログラミング
「N高等学校のもう一つのユニークな点は、卒業のための勉強は最小限に抑えて、自分が受けたい好きな課外授業の時間をたっぷりとれることです。様々な課外授業の中で注目したいのはプログラミングを教える授業です。授業に本格的に取り入れるのは珍しく、これも今の教育に対するアンチテーゼと言えます。ネットはもちろん、小型無人機(ドローン)やロボットなど、ITが世の中に浸透し求められている人材やスキルが変わっています。ところが教育現場は対応できていない、というのが現状ではないでしょうか。政府は先週まとめた成長戦略の素案で小学校でプログラミング教育を必修化することを決めましたが、少し先の話です。N高校はそういった問題にまっ先に対応した学校と言えます」
小谷:この取り組みは成功すると見ていますか?
「始まったばかりで判断は難しいですが、ITと教育は本来相性の良いものだと思いますので、こういった取り組みが刺激になり、既存の学校や教育関係者が何か新しいことに取り組んでみようと思うきっかけになればよいと思いますし、そういった動きに注目したいと思います」
小谷:実際、アメリカなどでは大学で成功していますしね?
「そうですね。海外はどんどん進んでいくので日本も負けてはいられないと思います」
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