● 茶番の消費増税延期と財政出動 アベノミクスはなぜ失敗したか?
安倍総理は、消費増税の2年半後(2019年10月)への先送りを決断したようだ。理由は「世界経済の危機リスクが迫っている」からだという。
最も財政再建の必要な国が、客観的事実とは異なる認識の下で、消費増税を先送りし、それだけならまだしも、財政出動という小泉内閣以降葬られてきた政策を復活する。全てサミットの議論のせいにしてのことだ。これ以上の茶番劇は見当たらない。
2015年度の経済成長は実質0.8%、16年1-3月期の成長は年率1.7%と、わが国はほぼ潜在成長力並みの経済成長を達成してきた。世界経済についても、原油価格の動きや米国経済の動向を見ても、とても危機前夜とは思えない。
それにもかかわらず「消費増税の先送りプラス財政出動」というのは、「消費増税のできる経済環境を整える」はずのアベノミクスが失敗したことを、自ら認めたということと判断せざるを得ない。安倍政権に必要なことは、なぜアベノミクスが失敗したのか、リフレ派の政策をもう一度見直し反省をした上で、次の手を考えることではないか。
この原因解明への真摯な対応は見られず、反省がないまま、さらなる金融政策と財政追加という旧来の政策に戻ることこそ、本当の経済リスクを引き起こすだろう。
筆者は、アベノミクスの失敗の要因をひとことで言えば、「金融政策や財政政策が時間を稼いでいる間に、経済の実力を向上させる政策が行われなかったこと」に尽きると考えている。2012年12月から始まったアベノミクスだが、最初の1年は異次元の金融緩和の効果により円安が起き輸出企業の企業収益が改善、それが株高につながり資産効果も生じ、折からの訪日観光客の増大も加わり、長年デフレ下にあったわが国経済・社会の景色を一変させた。このことは評価したい。
しかし問題は、異次元の金融政策や財政政策が時間を稼ぐ間に、第3の矢である成長政策、つまり供給側の改革が行われなかったことだ。わが国が潜在成長力並みの成長(実力通りの成長)を遂げているにもかかわらず、消費の伸び悩みなどからくる経済の停滞感が生じているのはなぜなのか、それに対する処方箋が、さらなる金融政策の深堀りと財政需要の追加でいいのだろうか、という点こそが問われなければならない。
わが国の経済停滞の原因は、構造的な問題である。高齢化の進展による労働人口の減少、経済基盤が確立せず結婚や子づくりに踏み出せない非正規雇用者などの若者の増加、経済の先行きに確信が持てず設備投資や賃金引き上げを行わない企業経営、といった課題は、2年前に行われた消費増税とは直接関係はないものである。
● 経済停滞の原因は構造的問題 究極の構造改革は税と社会保障改革
筆者は、税・社会保障改革こそが究極の構造改革(供給側の改革)であるという観点から、安倍政権下でのこの分野における3年間の不作為に焦点を当ててみたい。
まず、女性労働力の活用という面で現実に目を向けるなら、「103万円の壁」の要因となっている配偶者控除の抜本的改革と、「130万円の壁」となっている社会保険料負担の問題の2つを突破することが、最大の課題だ。
図表1を見ていただきたい。妻の所得(給与収入)に応じた世帯所得(可処分所得)の関係を見た内閣府の資料である。103万円のところと130万円のところに大きな段差が見てとれる。これが女性労働(パート)の障害になっている最大原因であり、ここに対して政策を行うことこそが構造改革である。
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