| 35.パイロットライセンス パイロットのライセンスには次のような種類があります。 ☆ 自家用操縦士 : 報酬を受けない無償の運航(自家用機)を行う。 ☆ 事業用操縦士 : 使用事業(小型飛行機による宣伝、遊覧飛行等)の機長及び定期運送事業(エアライン)の副 操縦士。 ☆ 定期運送用操縦士 : 定期運送事業(エアライン)の機長。 という事で、プロのパイロットを目指すのであれば、取りあえず事業用操縦士の免許が必要になります。この免許を取得するためには 18歳以上で 200時間以上の飛行時間を必要とします。 通常は段階を追って訓練を行いますので、最初は自家用操縦士(17歳以上で 40時間以上の飛行時間が必要)の免許を取得するための訓練飛行から始めますが、事業用操縦士の免許を取るために自家用操縦士の免許が必ずしも必要なわけではありません。私は自家用操縦士の免許は取りませんでしたし、上位の免許を取りますとそれまでの免許は無効になります。 最初は小型単発機で訓練を行いますので、事業用操縦士の免許を取得しても、その限定事項の中に「陸上単発」と記載され、操縦できるのは最大離陸重量 5,700kg 以下の単発機に限られます。 次に限定事項「陸上多発」を取得するための訓練を小型双発機で行い、それが終わると事業用操縦士の免許の限定事項に「陸上多発」と記載されます。これで最大離陸重量 5,700kg 以下の単発機と多発機(何発でも OK)を操縦することが出来るわけで、使用事業のパイロットになるのであればここまでで十分です。 しかしエアラインの副操縦士を目指すのであれば、もう一つ必要な免許があります。エアラインの飛行機は常に IFR(計器飛行方式)で飛びますので「計器飛行証明」が必要になります。この訓練は通常、計器飛行を行うことが出来る小型双発機を使って行いますが、一度取得すれば、その後にエアラインで乗ることになる旅客機を操縦する場合でも引き続き有効です。 ここまでの訓練は、自費でも行うことは可能です。しかしエアラインの副操縦士になるためにはまだ足りない物があります。前にも書きましたように事業用操縦士、限定事項「陸上多発」だけでは最大離陸重量 5,700kg 以下の飛行機しか操縦できませんので、それを越える離陸重量がある旅客機を操縦するための新たな限定が必要になります(YS−11 でも最大離陸重量は 25,000kg 位です) この訓練はエアラインに入社した後でなければ、行うことは不可能です。そして最大離陸重量 5,700kg を超える飛行機については機種ごとの限定を必要とします。 事業用操縦士の免許に「計器飛行の技能のあることを証明する」という記載と、限定事項「ボーイング 767 型」との書き込みを得て、初めてエアラインの副操縦士として乗務できます。 ただし自動車の免許と違い、身体的要件は別になっていますので、航空身体検査に合格して「第一種航空身体検査証明書」を取得する必要があります。 次はいよいよ機長です。定期運送用操縦士の免許を取得するためには 1,500時間以上の飛行時間を必要としますが、これを取得すればすぐ機長というわけではなく、航空会社が独自に行う機長昇格訓練にも合格しなければなりません。 また事業用操縦士の時に取得した「ボーイング 767 型」などの限定事項は定期運送操縦士の免許にも引き継がれますが、「計器飛行の技能のあることを証明する」との記載が見あたりません。何故でしょう?それは定期運送操縦士の免許の中に計器飛行の技能も含まれるからです。 これまでの免許は国土交通省が管轄する免許ですが、パイロットは管制官と無線による交信も行いますので、郵政省が管轄する「航空級無線通信士」の免許も必要になります。この免許は過去問を含む問題集も出ておりますので、比較的簡単に取得できます。パイロットを目指すのであれば、早めに取っておいた方が良いでしょう。パイロットの勉強は大変ですので、前もって取得しておけば、その分他の勉強に時間を回せます。 最大離陸重量 5.7 t を超える航空機は機種ごとに限定を取る必要がありますので、操縦できる飛行機が全て記載してあります。 |
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| 34.法、政令、省令、告示 飛行機にも速度制限があるのは皆さんもご存知だと思います。管制圏の 3000ft 以下の空域では 200kt 、管制圏のうち 3000ft を超える空域および進入管制区の 10000ft 以下の空域では 250kt と定められていますが、ではこの速度制限はどこに記載されていますか?と聞きますと、ほとんどの方が航空法と答えます。 では航空法を見てみます。法82条の2(航空管制圏等のおける速度の制限)には、 航空機は、左に掲げる空域においては、国土交通省令で定める速度をこえる速度で飛行してはならない。 1.交通航空管制圏 2.進入管制区のうち航空管制圏に接続する部分の国土交通大臣が告示で指定する空域 とだけしか記載されていません。進入管制区に限っても、10000ft 、250kt の数値は出てきません。 それでは国土交通省令で定める速度をこえる速度では飛行してはならないとなってますので、省令を見てみますと、省令=航空法施行規則には 航空交通管制圏のうち高度 900メートル以下の空域を飛行する航空機にあっては ピストン発動機 160kt 、タービン発動機 200kt 交通航空管制圏のうち高度 900メートルを超える空域または進入管制区のうち告示で指定する空域を飛行する航空機にあっては、250kt となっています。 余談ですが、速度制限ではピストン発動機、タービン発動機となってまして、ホールディングの速度制限はプロペラ機、ジェット機と分類されていますが、その違いは? 一例として、YS−11 は速度制限ではタービ機の分類になりますが、ホールディングの速度制限ではプロペラ機の分類と言うことになります。 これで管制圏で速度制限を受ける空域と速度、進入管制区の速度制限は分かりましたが、まだ進入管制区の高度に関する数値が出てきません。 進入管制区のうち国土交通大臣が告示で指定する空域となってますので、告示集を見る必要がありそうです。 進入管制区のうち航空機の速度を制限する空域を指定する告示には、 進入管制区のうち告示で指定する空域は 高度 三千メートル以下の空域とするとなっています。 これで全部の数値がそろいました。速度制限を理解するためには色々な法規を参照する必要があるようですが、何故こんなに複雑になっているのでしょう?航空法で全てを定めておけば簡単そうですが、 そこで法規を変える手順はどうなっているかを見てみますと、 法(航空法)・・・・・国会の承認。 政令(航空法施行令)・・・・・閣議で決定。 省令(航空法施行規則)・・・・・所轄大臣の承認。 告示・・・・・官報に掲載。 航空法であまり細かいことまで定めていますと、例えば進入管制区における速度制限を航空法で 250kt と定めていますと、それを変える時には国会の承認が必要になります。 国会はいつも紛糾していますね、例えば有事立法とか。国会の先生方にはほとんど興味のない速度制限の変更が、国会の紛糾で一括廃案となると困りますので、細かいことは法ではなく省令等で定めておくのが、航空関係の法規には限らず一般的なようです。 |
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| 33.燃料消費の少ない降下計画 旅客機が巡航高度からの降下を行う場合、燃料消費を最少にするため T/D(Top of Descent)と呼ばれる巡航終了点から、エンジンをアイドルまで一気に絞って降下を開始します。T/D は Arrival Procedure を入力すると自動的に設定されますが、羽田へ西から進入する場合は SPENS/FL160 の高度制限が管制から指示されますので、パイロットが手動で FL160 を入力ますと、それに対応した T/D がこれまた自動的に設定されます。 |
SPENS 間を低高度で水平飛行をすることになり、燃料消費が増えてしまいます。 逆に降下を遅らせて C点から降下を開始しますと、SPENS 迄に FL160 に降下するためにはスピードブレーキの使用が必要となり T/D→C 間は無駄な巡航をしたことになります。 飛行機は、降下率を増やすため機首を下げて急降下しても、同時に前進速度も増加しますので、降下角度は殆ど変化しません。降下角度を増やすためには、スピードブレーキの使用が必要になります。 パイロットは燃料消費を少なくするため、T/D からのアイドルディセントを常に行えるよう、計画を立てながら飛んでいるのです。 |
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| 32.旅客機もエンジンが止まった時、グライダーの様に滑空できますか? できます。翼が付いている限りどんな飛行機でも滑空して、ある程度の距離を飛ぶ事ができます。例えばロッキード F−104 の様に翼が非常に小さい戦闘機の場合でも滑空の角度が急角度にはなりますが、機首を下げる事で一定の速度を保てば失速する事もなく滑空します。 この滑空できる高度と距離の比率を滑空比と言いますが、旅客機では 1 対 18 位になります。現在の高度が 1000m(1km)なら 18km 先まで滑空できる事になります。この時、機首の角度を調整して(速度を速めたい時は機首を下げ、遅くしたい時は機首を上げます)最適な降下速度を保つ必要がありますが、その最適な速度は B747−400 の場合、 重量 86万ポンドの時 294kt 重量 50万ポンドの時 227kt になります。この最適な速度より速くても、遅くても、滑空比は悪くなります。 エンジンが全部止まっても滑空はできますが、幾つかの問題が発生します。 @ エンジンからの予圧空気が供給できませんので、客室内の予圧が保てない。酸素マスクを使う必要があるでし ょう。 A エンジンで回している発電機が止まるので、電力の供給ができない。ただしバッテリーである程度供給できま すし、APU を始動してその発電機を使う事もできます。B767、B777 等の双発機は上空で APU を使用で きますが、B747 は上空では使用できません。エンジンが全て停止する事を考慮していないと言う事です。 B 同じくエンジンで回している油圧ポンプが止まるので、操縦のための油圧が確保できない。これも双発機では、 風車の様なタービンを機外に出し、その油圧ポンプで最小限の油圧が確保できるようになっています。 その他にも、滑空している時の降下率は 2000ft/min を超えていますので、着陸するためには降下率を減らして 500ft/min 位にする必要があります。 またエンジンのパワーが使えないため、降下率の調整ができません。滑走路の上に飛行機を持って来るのは至難の業となるでしょう。海の上に不時着するのが精一杯だと思います。 |
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| 31.CAT V 日本の空港では現在、成田、釧路、熊本において CAT V による完全自動盲目着陸が可能となっています。 CAT V による着陸と CAT U/ CAT T による着陸との相違点は、着陸可能な視界が違うのはもちろんですが、最大の相違点は、パイロットが滑走路を視認しないまま着陸するか、視認しながら着陸するかの違いです。 現在運用されている CAT V には CAT Va と CAT Vb があり、 CAT Va : 通報された RVR が 200m 以上 350m 未満。 CAT Vb : 通報された RVR が 50m 以上 200m 未満、となっておりますが、CAT Vb の最低値は当面の間 100m として運用しています。 完全自動着陸でも、ある程度の視界が必要な理由は、機上装置、地上施設の性能上の問題ではなく、視界が 100m 未満では着陸後の地上滑走、事故発生時の緊急車両の走行、救難業務等が困難であるためです。 飛行機や地上の施設の能力は、視界 0m でも着陸可能な CAT Vc に適合していますが、前述した理由により実際に運用される事は当面ないでしょう。 日本では地上施設の認定上 CAT Va による運航までしか行われていませんが、米国、英国、ドイツ、イタリア、オーストリアにおいては CAT Vb まで可能になっています。 CAT V では滑走路が視認出来ない事による進入復行は想定されていませんので、DA 、DH は設定されませんが、それに代わるものとして AH(Alert Height)が設定されています。 この高さにおいて機上または地上の機器に重大な故障がなく、進入コースからの逸脱もなければ滑走路視認の有無にかかわらず進入を継続して着陸する事が出来ます。 AH は通常、滑走路接地帯高(または滑走路末端高)から 100ft の高さに設定されます。 パイロットが滑走路を視認しないままの着陸になりますので、自動操縦装置等には当然高い信頼性が要求されます。 CAT V において使用される Fail Operational Automatic Landing System には 10-9 (10億分の1)以下という非常に低い故障率が求められています。 CAT V が可能な空港ではいつでも CAT V による着陸が行えるわけではありません。 天候がある決められた値以下になると SSP(Special Safeguards and Procedures)が発令され、滑走路の周囲に設けられた Critical Area 、Sensitive Area からの車両等の排除が行われ、その後 CAT V が可能な状態となります。 車両等の排除は ILS の電波の障害とならないようにするためです。 また CAT V は積雪のある滑走路では行う事が出来ません。横風制限も 10kt までです。B747−400 ではエンジンが1発不作動でも CAT V は可能です。 パイロットも当然 CAT V の訓練をシミュレータで行う必要がありますが、それが終われば CAT Vb までの着陸が行えるようになります。 |
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| 30.METER の解読 RJSS 031200Z 02006KT 330V070 9999 -SN FEW020 BKN025 BKN030 05/M00 Q1024 これは 2002年2月3日 仙台の実際の METER(定時航空実況気象通報式)です。 解読していきますと、 RJSS : 仙台 031200Z : 3日、1200時 UTC(日本時間 2100時)の観測。 02006KT : 観測前 10分間の平均風が 20度(真方位)の方向から 6KT(3m/sec 11km/h) 330V070 : 風向が 330度から 070度の間で変動していている。 9999 : 卓越視程が 10km 以上。 −SN : 現在天気、弱い雪が降っている。 FEW020 : Few 少しの雲(1/8 〜 2/8)があり、雲底高度は対地 2000FT BKN025 : Broken 隙間のある雲(5/8 〜 7/8)雲底高度は対地 2500FT BKN030 : Broken 隙間のある雲(5/8 〜 7/8)雲底高度は対地 3000FT 05/M00 : 気温 5℃/露点温度 −0℃ Q1024 : 高度規正値(QNH) 1024ヘクトパスカル 地点は、北海道 : RJC□ 東北 : RJS□ 関東 : RJT□ 中部 : RJN□ 近畿中国 : RJO□ 九州 : RJF□ 沖縄 : RO□□ 一部例外あり、RJAA 、RJBB この他の風の通報として、02015G28 : 風向 20度 15KT Gust(突風) 28KT VRB02 : 風速が 3KT 以下 卓越視程 5000m までは 100m 間隔、5000m 〜 9999m までは 1000m 間隔、10km 以上 9999 現在天気の主なものは、BR : もや、 FU : 煙、 HZ : 煙霧、 RA : 雨、 DZ : 霧雨、 FG : 霧、 SN : 雪、 GR : ひょう、 SH : しゅう雨、 TS : 雷電等があり、 組み合わせる場合もあります、+TSRA : 強い雷雨、 その他の雲量は、 SCT : Scattered 散在(3/8 〜 4/8) OVC : Overcast 全天を覆う(8/8) 雲高は、対地高度を 100m 単位で報じ、雲底高度不明または観測出来ない場合は : SCT/// 天空不明だが鉛直視程が観測出来る場合は : VV002 積乱雲または塔状積雲が存在する場合は、 SCTCB030 または BKNTCU030 と雲の種類(CB/TCU)を入れて報じる。通常は最大3層の雲まで報じるが、積乱雲、塔状積雲がある場合は最大4層まで報じる。 視程、雲量の代わりに CAVOK と報じるのは、視程 10km 以上、雲底 5000FT 以上、降水雷電等がない。 気温と露点温度の差が小さいほど天気が悪く(雲が多く)なります。 高度規正値(QNH)とは、その空港の気圧値から計算した海面気圧値です。日本では inch でも報じます、 1013ヘクトパスカル=29.92inch |
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| 29.着陸のための最低気象条件 空港の天気が悪い時「J社の飛行機は着陸したのに A社の飛行機は着陸出来ず、何処かよその飛行場へ行ってしまった、きっと A社のパイロットは下手なのだろう」という会話を聞くことがあります。しかしこれはパイロットが下手なのではなく、非常に細かく決められた着陸のための最低気象条件に従って操縦しているためです。 最低気象条件を決定する要素としましては、 飛行場周辺の障害物、地形及び気象特性。滑走路の巾および長さ、飛行場の施設。航空保安施設の機能および精度等もありますが、これらの要素は全てのパイロットに公平に課せられた条件ですので、その飛行場での着陸の可否に影響するのは、操縦している飛行機の性能とパイロットの経験です。 左は成田の最低気象条件の表です。機長の経験による資格は |
ILS 16 で一番経験の浅い機長の最低気象条件である BASIC 1 を見てみますと、430 - R/V1600m となってますが、これは 着陸のため降下できる最低高度(DA)が 430ft で 視程と RVR は 1600m であることを示しています |
次に経験のある CAT T/ U/ V 機長の最低気象条件を見てみますと、CAT T では DA 330ft(対地 200ft)RVR 550m または 視程 800m まで着陸可能です。RVR が観測されている場合はそちらが優先されますので、視程が 800m 未満(例えば 0m でも)であっても RVR が 550m 以上あれば進入を開始することが出来ます。 CAT U では RA(DH とも言います、CAT T の DA は気圧高度計が指示する海面からの高度でしたが RA は直下の地面からの垂直距離で、電波高度計を使って測定しますので対地高度になります)101ft 、RVR の測定機器は 2基必要ですので、接地帯付近の RVR が 350m 以上、その他が 200m 以上であれば進入を開始することが出来ます。CAT U/ V の場合、視程は関係しません。 CAT V では RVR の測定機器 3基が必要で Touch Down 200m 、Mid Point 200m 、Stop End 100m 以上で進入が開始出来ます。CAT T/ U では DA または RA の高度に達した時、滑走路や進入灯が視認出来なければ進入復行を行う必要がありますが、CAT V では滑走路の視認の有無にかかわらず着陸可能です。この点が CAT T/ U と CAT V の最大の相違点です。 CAT U までは最終的にパイロットが滑走路を視認して着陸しますが(CAT T までは Manual Landing も可能ですが、CAT U/ V では全て Auto Lading を行います)CAT V では視認出来ないまま着陸するのが普通です。という事は進入コースからの逸脱をパイロットがモニター出来ないわけで、地上および機上の機器の信頼性が桁外れに高くないと出来ない進入方式といえます。 滑走路が見えなくても着陸出来るという事は RVR 0m でも良いはずですが、着陸後の地上滑走が不可能ですし、事故の時の救難活動にも支障がありますので、下限値が定められています。 CAT V でも RA が CAT Uと同じ 101ft となってますが、これは AH(Alert Height)と呼ばれる高度で、この高度に達した時、地上と機上の機器に重大な故障がなければ進入を継続出来ます。着陸を行うか中止するかの最終決断を下す高度なのです。 着陸のための進入開始は雲高に関係なく RVR または視程がその機長に適用される最低気象条件以上であれば開始出来ます。また進入開始後、最低気象条件を下回る報告があっても DA または RA まで着陸のための進入を続けて良いことになってます。そして DA または RA で滑走路、進入灯などの決められている物件が視認出来、必要な視距離が確保され、安全に着陸出来ると機長が判断したらそのまま着陸出来ます。 なお管制機関は気象条件に関係なく航空交通の状況のみを考慮して進入許可を発出しますので、進入開始の判断は全て航空会社(機長)の責任に委ねられます。 最低気象条件未満になった場合の対応が進入開始点以前と以降では大きく違ってきますので、進入開始点が重要になってきますが、ILS では 進入開始高度(成田の Rwy16 であれば 2,800ft) と Glide Slope が交わる地点になります。 但し、英国および香港では飛行場標高から 1,000ft の高度に達する前に最低気象条件未満になった場合は進入を継続してはならず、またフランスでは Outer Maker 以前に最低気象条件未満になった場合は進入を継続してはならない決まりになってます。 国の規程では CAT T の気象条件の上限は設けられていませんが、会社の規程では RVR または視程が 1,200m までと上限があります、何故でしょうか?それは CAT T を行う場合、横風は 10kt までと制限されていますので、上限がないと ILS で着陸する場合、常に 10kt の制限値が有効になってしまうからです。 CAT の下の列にある[C][D]は飛行機の Category を表しており [C」とは Vref 121〜141kt 最大着陸重量 6万ポンド〜15万ポンドの航空機で A320 B737 が該当し、[D]とはそれ以上の B747 B777 B767 が該当します。ILS では差はありませんが、VOR 、ADF では旋回半径等を考慮して視程に少し差を設けてあります。 その他、機種による最低気象条件の違いとして B747 より古い飛行機は CAT V による進入が出来ません。もっとも日本で CAT V による進入ができるのは成田 Rwy16 、熊本 Rwy07 、釧路 Rwy17 だけで、関空、羽田も CAT U までしか出来ません。 |
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| 28.Rump Control と Ground Control、ATIS
受信証の通報先 飛行場管制所(Tower 、Ground 、Delivery)のうち Ground Control の業務分担は AIP と管制方式基準の記述を要約しますと 「Apron を除く走行地域を管制する」となっております。次に走行地域の定義を見てみますと「航空機の離着陸及び地上移動のために使用される飛行場内の地域であって、エプロンを除くものをいう」となってますので、走行地域とは Runway と Taxiway を指すことになります。という事で成田などに設置されている空港公団運営の Rump Control は走行地域を除く Apron が管轄地域となります。 羽田においては Taxiway と Apron の境界を試験的に赤線で表示してありますが、成田では Gateway の外側が Taxiway(走行地域) 内側が Apron となります。 |
Gateway(GWY)には HN/GWY TN/GWY UN/GWY P6/GWY P5/GWY 等があり、その外側が Taxiway(TWY) 内側が Apron です。 34番 SPOT の下に APRON TWY D 等と表示してありますが、これは JEPPESEN 社の表記ミスです。 もしここが TWY なら Rump ではなく Ground の管轄になります。Rump Control が指示を出す場合も ” Taxi Via Apron D” と言うだけで、絶対 Taxiway という言葉は使いません。 次に ATIS の受信証の通報先ですが、AIP には「パイロットはターミナル管制機関との最初の交信において受信証を通報すること」となってますので、ターミナル管制機関の定義が問題ですが、「ターミナル管制機関とは飛行場に設置されている管制機関で進入管制所、ターミナル管制所、飛行場管制所及び着陸誘導管制所の総称をいう」と定義されています。 到着機は進入管制所またはターミナル管制所に通報すればよいので分かり易いのですが、出発機はどうでしょうか。最初にコンタクトするターミナル管制機関のうちの Delivery に通報すればよいのでしょうか? 違います。AIP の但し書きには「管制承認伝達席と交信する場合は通報の必要がない」となってますので、Delivery の次に交信する Ground に通報するのが正しい事になります。 Rump はターミナル管制機関ではありませんので、もちろん通報の必要はありません。 GWY の手前で Ground にコンタクトしたときに受信証を通報するのが正しい方法ですので、その場合、Ground は QNH 等の情報をパイロットに与える必要がなくなるのですが、こちらが受信証を通報しているにもかかわらず QNH 等を言ってくる管制官が居ます。これは恐らく殆どのパイロット、特に外航、が受信証をここで通報しないので、つい口癖になっているのだと思います。 |
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| 27.Reclear 運航方式 乗客や貨物が多く、離陸出来る最大重量を超える恐れがある時、搭載燃料を減らすために航空会社によっては Reclear 運航方式と呼ばれる運航が行われる場合があります。 その概念を理解して頂くために、簡単な例を取ってみます。説明を簡単にするため数字は簡略化してあります。 ニューヨークから成田までの便で 30万ポンドの燃料をエンルートで消費するとしますと、予備燃料として、その 10%、3万ポンドを積むよう社内規定で定められています。更に代替空港、羽田までに必要な燃料が 2万ポンドとしますと合計 35万ポンドの燃料を積む必要がある訳です。 搭載燃料を減らすために、目的地を成田ではなく千歳にしますと、エンルールで消費する燃料が 28万ポンドに減るとします。 その 10%、2万8千ポンドの予備燃料と千歳の代替空港、函館までの燃料 2万ポンドを入れても合計 32万8千ポンドで済む計算になります。 目的地を成田にした場合との差 2万2千ポンド、乗客の数にして約140名分に相当します。これは非常に大きな差です。 乗客の方には目的地は成田と案内しますし、管制から発出されるクリアランスも成田までです。これはあくまでも社内の飛行計画上の目的地が千歳なのです。 ニューヨークを出発して千歳上空まで来た時、28万ポンドの燃料を消費しているはずですので、残りは 4万8千ポンド。 その時点で新たに千歳から成田への飛行計画を作成しますと、必要燃料は 2万ポンド。予備は10%ですので 2千ポンド、羽田への 2万ポンドを入れて合計 4万2千ポンドあれば千歳から成田まで飛べることになります。 4万8千ポンド残っていますので本来の目的地である成田までそのまま飛行を続けることが出来るという手品の様な運航方式が Reclear 運航方式です。 基の数字が小さくなると、その 10%も小さくなるところが、この手品の種明かしです。 ただし上空の向かい風が強かったり、予定どうりステップアップ出来ずに消費燃料が多かったりすると、Reclear 失敗となり実際に千歳に着陸せざるを得ない場合もあります。 上記の例では、千歳までに 28万6千ポンドを超える燃料を消費してしまいますと、残燃料が 4万2千ポンド未満となってしまい、成田までの飛行を続ける事が出来なくなりますので、燃料補給のため、千歳への臨時着陸を行う事になります。 |
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| 26.速度制限と管制指示、どちらが優先 航空法第82条の2として「航空機は、左に掲げる空域においては、運輸省令で定める速度をこえる速度で飛行してはならない」とあり、その空域は航空交通管制圏と進入管制区のうち運輸大臣が告示で指定する空域となっています。 告示集には、進入管制区のうち航空機の速度を制限する空域を指定する告示、として 航空法第82条の2第2号の運輸大臣が告示で指定する空域は、進入管制区のうち高度3千メートル以下の空域とする。と書かれています。 そして航空法施行規則第179条には「進入管制区のうち運輸大臣が告示で指定する空域」では250kt と規定してありますが、例外として運輸大臣(代行者としての管制官)から離陸若しくは着陸の順序、時機若しくは方法又は飛行の方法等を考慮して、規定する速度を超える速度で飛行することを指示された航空機はその指示された速度が制限速度になると定められています。 その他、航行の安全上やむを得ないと認められる事由により規定する速度を超える速度で飛行する必要のある航空機は当該航空機が安全に飛行するために必要と認められる適当な速度で飛行してよいとされています。 これはどんな場合を指すかと言いますと、強いタービュランスのある空域を飛行する速度として奨励されている Turbulent Air Penetration Speed で飛行する場合で、この速度は機種によって違いますが、だいたい 270〜310kt 位が奨励されています。 もう一つは、国際線の飛行機が Heavy Weight で離陸し、上昇しながら Flap を上げていく時、Flap を完全に上げてしまう為にはどうしても 250kt 以上に加速する必要がある場合です。 −400 が 85万Lbs で離陸したとしますと、Flap を完全に上げるためには約 260kt まで加速する必要があります。 その後、10,000ft までは 280kt で上昇し、10,000ft を超えてからは 350kt で上昇を続け、高々度になると Mach 0.85 位で上昇します。 上記の場合(Turbulence & Heavy Weight)制限速度を超えることに関する管制官の許可は必要としません。 本題の速度制限と管制指示の関係ですが、AIP にも管制機関から制限速度を超える速度で飛行することを指示された場合は、当該速度で飛行する事が出来ると明記してありますので、法規的には速度制限より管制指示が優先する事は明白です。 しかし、AIM−Japan には「パイロットの要求に対応する以外には通常管制官が制限速度を超える速度を指示することはない」と記載されています。「指示することはない」としている根拠がはっきりしませんが、恐らく管制方式基準に書かれている次の文言が根拠だと思われます。 「航空機が速度制限のある空域を飛行する場合において、不法妨害、急病人の発生その他のやむを得ない事由により速やかに着陸する必要があり、かつ航空交通の安全上支障がないと認められるときは、管制官は、当該機からの要請により制限速度を超える速度を制限速度として指示する事ができる」 管制官の指示が優先すると明記してある、航空法、航空法施行規則、AIP より下位の法規である管制方式基準(実際は法規ではなく単に管制の手法を定めた手順書です)に記載してある事を根拠に「指示することはない」と言い切るのはちょっと疑問ですし、また「当該機からの要請により超える速度を指示することができる」と書いてあるだけで、それ以外の事由で超える速度を指示することを禁止している文言とも言い切れないと思います。 |
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| 25.B747−400/400D の Thrust Rating 縦軸に推力 % 横軸に高度 ft を表示してあります。 T/O=G/A(Toke−off = Go−around)には 5分間の使用制限があり、連続して使用出来る最大の推力は MCLT=MCT(Maximum Climb Thrust = Maximum Continuous Thrust)です。 普通の飛行機は MCLT<MCT で、MCT をより高い推力として設定してあるのですが、普通でない(パワーが有り余っている)−400では同じ推力としてあります。 国際線用の −400 では、 T/O、T/O1、T/O2 CLB(MCLT)、CLB1、CLB2、を使用し、 国内線用の −400D では、 T/O、T/O2、T/O3 CLM(MCLT)、CLB2、CLB3 を使用します。 CLB1 は 10,000ft までは CLB(MCLT) の 90% の推力ですが、それ以降は Derate 率が減少していき、30,000ft で CLB と同じ推力になります。 CLB2 と CLB3 は 35,000ft で CLB と同じ推力になります。 MCRT(Maximum Cruise Thrust) |
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| 24.成田 ILS Rwy16 の Procedure 変更 大きい方が現在使われている新しいチャートで、その下にある小さい方は現在は使われていないチャートです。 両者の違いは、新しいチャートには D4.1 の地点の通過高度の記載がありませんが、古い方には GS1456 と表示されています。 DME 4.1マイルを GS On Path で通過すると、通過時の高度は1,456ft という意味です。 古いチャートが有効な頃は、ILS コースにレーダー誘導する時、2,000ft まで降下させて PERCH Point と D4.1 の間で ILS コースに会合させるショーカットアプローチを行う場合がありましたが、新しいチャートが有効になってからは D4.1 地点での高度確認が出来ませんのでショートカットアプローチは出来なくなりました。 ILS Apch を行う時、GS の疑似電波を Capture し、通常より低い進入となって滑走路手前の丘に激突といった事故を防ぐため、必ず進入の途中で通過高度の確認をする必要があるからです。 |
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| 23.Bank Angle 15度の制限はどこまで必要か 599,600lbs を越えている時は Flap Up 後 Flap Up SPD+20kt(Vref30+100kt)に加速するまで Bank を 15度に制限すると記載されています。 そのため 60万lbs を越える国際線の運航では Flap1 から Flap Up に上げるタイミングと旋回が重なった場合は Flap を上げるタイミングを遅らすか、MCP の Bank Limit Selector を 15度に Set する必要があります(この Bank Limit Selector は LNAV では使えませんので HDG SEL Mode にする必要があります) この Bank 15度の制限が本当はどこまで必要なのかを検証してみますと、 旅客機が Full Maneuvering するためには 1.3g(40度 Bank に相当)の Margin が必要ですので、 Flap Up SPD(Vref30+80kt)の時すでに Flap Up の Stick Shaker 速度に対して 1.3g の Margin があれば Bank の制限は受けないことになります。 制限を必要としない最大離陸重量を計算してみますと、実際は 76万Lbs であることが分かります。 76万Lbs の Flap Up での Stick Shaker 速度は、高度 5,000ft で 219kt Vref30 は 170kt です。 Vref+80kt は 170kt+80kt=250kt、 この時の Margin は (250/219)2=1.303g となり Full Maneuvering が可能です。 最大離陸重量の87万Lbs での Margin は、 Stick Shaker 速度は同じ条件で、233kt、 Vref は 183kt ですので、Vref+80kt は 263kt (263/233)2=1.27g となり、Full Maneuvering 出来ませんので 15度の Bank 制限が必要になります。 もし Vref30+90kt まで加速すれば、(273/233)2=1.37g となり、制限は必要ありません。 以上のことから離陸重量が 76万Lbs 以下であれば Bank 15度の制限は必要ないことになります。それ以上の重量の場合でも Vref30+90kt 以上で Flap Up を行えば、Bank 制限を受けずに運航することが出来ます。 もともと、599,600Lbs の数字には何の根拠もありません、国内線用−400D の最大離陸重量に合わせただけです。少し前の規程ではこの数字が 610,500Lbs になってました、まったく丼勘定な数字なのです。 |
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| 22.離陸できる最大重量が Dry Rwy と Wet Rwy で同じというのは間違いでは @ 離陸滑走を開始して、V1で ENG が1発不作動となり、離陸を中止して完全に止まるまでの加速停止距離と、 V1で ENG が1発不作動となり、離陸を継続して35ft の高さに達するまでの離陸距離が等しくなるようにV1を設定した時の水平距離。 A 全ENG で離陸して35ft の高さに達するまでの離陸距離の 15%増しの水平距離。 図にすると左の様になります。 V1は最小 VMCG〜最大VR の間に自由に設定できますが、通常は加速停止距離と離陸距離が等しくなる様にV1を設定します(Ballanced Field Length) 4発機では図の様に全ENG の離陸距離の15%増しの方が長くなりますので、こちらの方が必要滑走路長と言う事になります(Required Field Length) 次の図は Rwy が Wet の時を表しています。 Wetの時、離陸距離は変わりませんが、ブレーキの効きが悪くなるため加速停止距離が延びます(赤い点線)そのため離陸距離と加速停止距離を等しくするにはV1を小さくする必要があります。 その結果必要滑走路長は延びる事になりますが、それでも全 ENG 離陸距離の15%増しよりも短くなっています。 B747の離陸性能は全 ENG の離陸距離の15%増しの方で決定されるため Rwy が Dry でも Wet でも最大可能離陸重量は変わらない訳です。 |
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21.離陸できる最大重量の算出
IAD(ワシントン・ダラス)の滑走路 19L(滑走路長 11,500ft)離陸推力 TO、離陸フラップ F20、気温28度から算出された離陸可能重量は861,900Lbs それに幾つかの修正を加えます。 滑走路の状態による修正は今回のように Dry 又は Wet では必要ありません、滑走路上に雪や氷がある場合は修正します。 風が 290/4kt ですので、Tail Wind 成分は1kt となり −5,900lbs 気圧が高いので +4,000lbs Air CON は On ですので修正無し、Off にすると +4,400lbs エンジンの防氷装置は Off、On すると −5,300lbs 機材の部分的故障による修正は無し。 故に最大可能離陸重量は 860,000Lbs となりました。 右側の CLIMB とは離陸後の上昇性能による重量制限ですが、通常は滑走路の長さによる制限 FIELD により制限を受けます。 成田の最大可能着陸重量は 870,000lbs となっていますが、これは性能上可能な数値を表示してあるだけで、当然、最大着陸重量 584,000lbs が着陸できる最大重量になります。 耐空性審査要領の規程では最大離陸重量でも 360ft/min 以内の降下率で接地すれば強度的には保証される事になっています。 最大着陸重量では 600ft/min まで保証されています。 実際の離陸重量は 833,800lbs でしたので、無事離陸する事が出来ました。 但し、T 類の離陸性能は V1(実際には1秒手前の Vef)でエンジンが1発不作動になる事を前提にした性能計算ですので、故障しない保証があれば 100万Lbs でも離陸可能でしょう。 |
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