虐待9万件 児童相談所の充実急げ
児童相談所の今の態勢はもはや限界だ。
2014年度に全国の児相が対応した児童虐待の件数は8万8931件に上った。前年度から20・5%増え、過去最多を更新した。
13年8月に被害児童のきょうだいも心理的虐待を受けたとして対応を始めたことが影響している。
親が子供の前で配偶者に暴力を振るったりする「面前ドメスティックバイオレンス(DV)」について警察からの通報が増えたことや、地域社会の関心が高くなったことも要因という。
今年7月からは虐待の通報、相談を24時間受け付ける児相の全国共通ダイヤル「189」の運用も始まった。今後、対応件数はさらに増えるだろう。
一方で、児相の要員不足は長年指摘されてきた。
厚生労働省の専門委員会が9月に公表した報告書によると、13年度の対応件数は1999年度の約6・3倍に増えたが、虐待対応を中心的に担う児童福祉司は約2・3倍の増加にとどまる。児相の負担は重くなるばかりだ。
専門委員会によると、13年度に虐待で死亡した36人(無理心中を除く)を担当した児相職員は、年平均で1人当たり109件もの相談事案を受け持っていた。きめ細かい対応を望める状況とはとても言えない。
神奈川県厚木市で昨年、当時5歳とみられる男児が父親に放置されて死後7年たって発見された事件でもそうだった。児相が一時保護しながら他のケースの対応に追われて家庭訪問を怠り、救えなかった。
被害児童を親から引き離して保護した後、再び家庭へ戻すことも児相の仕事だ。その負担はさらに大きくなるだろう。
児相や関係機関の連携は一定程度進んだ。自治体、医療機関、警察などとつくる「要保護児童対策地域協議会」で情報を共有しながら対応するところが多い。
しかし、協議会が扱う事案が増えて対応が困難になっている。情報共有自体が不十分なケースも少なくないという。
死亡事例の多くは0歳児だ。妊娠期からの母親への支援を強化するためにも、保健師や産科病院との連携はいっそう重要である。協議会の立て直しも急がなければならない。
一人親家庭の増加や貧困、不安定な就労など虐待を生みやすい社会状況は深刻である。児相の態勢充実は待ったなしだ。
安倍政権は出生率の向上を目指している。この世に生を受けたのに、虐待にさらされている子供たちを救うことにも力を注いでほしい。