くい打ち不正 業界で深刻さの共有を
旭化成建材による建物のくい打ち施工データの改ざんは、深刻さを一層深める事態になってきた。
施工不良によって傾いた横浜市のマンションの担当者について、同社は現場に関与した43件中19件でデータ不正が見つかったと公表した。
さらに、過去に同社が実施したくい打ち工事3040件を調べたところ「複数名によるデータ流用などが確認された」という。データ不正が特定の個人にとどまらず組織の中で常態化していた可能性が出てきた。
国土交通省は同社に立ち入り検査に入った。くい打ち工事の施工実施体制や安全性をチェックする仕組み、法令を守らせるための指導や研修の実施状況など、さまざまな観点からの点検が必要だ。
住まいへの国民の信頼を根底から揺るがしている。同社はもちろん、国も調査を尽くし、再発防止の徹底に取り組むべきだ。
不正があったのは、くいを打ち込んだ際の地盤の強度を示す電流計などのデータだ。データの不正がすぐに建物の欠陥に結びつくわけではない。それでも、不正のあった建物の住民や利用者の心配は、察して余りある。中には学校も含まれる。
同社はくい打ち工事はチームで実施しているため、データ流用は工事の欠陥ではなく、施工報告書作成段階での不正との見方を一応示した。
ただし、実際に建物が傾いた事実は重い。データ不正があった建物の安全性の独自調査に乗り出した自治体もある。安全性の確認について同社は責任をもって対応すべきだ。
問題の背景に、工期の順守などを元請けが下請けに強く迫る建設業界の体質を指摘する声がある。だとすれば、不正は旭化成建材だけなのか。そんな疑問がわく。
国交省は、この問題を受け、近く有識者会議を発足させ、再発防止を話し合う。下請けの多重構造は、議論の焦点の一つになるだろう。
今回のデータ不正には、複数の元請け会社が存在する。元請け会社は建設業法上、下請け会社を監督する義務がある。だが、元請けと多くの下請け会社が絡み合う中で、法令違反や不正に対するチェック機能が十分に働いてこなかったのではないか。元請けや事業主体の会社の監理責任を一層明確にすべきだろう。
また、データ不正のようなケースでの罰則を含む規制強化や、第三者によるより厳格な検査の必要性についても検討してもらいたい。
日本建設業連合会は、元請け向けに、くい打ち工事の監督や施工記録のチェックを強化するための指針を作成する。不正を防止するには、今回の事態の深刻さを業界全体で共有し、体質を改善する必要がある。