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日中韓首脳会談 協力深化を共通利益に

 隣国同士が協力することが互いの利益になるとわかっているのに、歴史認識や領土をめぐる対立がすべてに影響し、首脳らが会って話すこともできない。こんな日中韓3カ国がようやく正常化への一歩を踏み出すことになった。

     安倍晋三首相、李克強首相、朴槿恵(パククネ)大統領による日中韓3カ国の首脳会談がソウルで開かれた。約3年半ぶりの開催であり、各国で現政権に交代してからは初めてだ。

     発表された共同宣言には、難航する日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉の加速化が明記された。

    停滞招いた内向き政治

     歴史認識の問題では「歴史を直視し、未来に向かうとの精神」を土台として、3カ国協力を強化するとともに、2国間同士の関係改善に努めることが盛り込まれた。

     会談の定例化も確認され、来年は日本で開催することで一致した。

     3カ国は政治的に依然、微妙な関係にあるが、互いの摩擦を乗り越えて、今回の動きを軌道に乗せたい。

     3カ国の枠組みは、1999年の東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の首脳会議の際、日中韓の首脳だけで朝食会を開いたのに始まる。2008年からはASEANプラス3とは独立して開催され、各国が1年交代で議長国を務めてきた。

     だが、12年8月に当時の李明博(イミョンバク)・韓国大統領が竹島に上陸し、同年9月には日本政府による尖閣諸島の国有化に中国が反発して大規模な反日デモが起きた。

     さらに、靖国神社参拝や慰安婦問題など歴史認識をめぐる対立が先鋭化し、日中、日韓関係は急速に悪化した。3カ国の首脳会談は、12年5月に北京で第5回会談が開かれた後、開催が途絶えた。

     3カ国協力には、大きな潜在力があり、歴史認識や領土の問題とは切り離して、未来志向で進めるべきだ。それは自明のことなのに、共通の利益から目を背けるような内向きな態度で停滞を招いたことを各国とも反省する必要がある。

     安倍首相は、政権発足当初、「歴史修正主義者」との誤解を与えかねない言動を重ね、中韓両国の警戒感を招いた。

     中国は、日中の歴史を国際問題にしようとしたり、尖閣周辺の日本の領海に公船を侵入させたりしてきた。歴史や領土で強硬な態度を示し、そのことを習近平国家主席による国内の権力基盤固めに利用したとの指摘もある。

     朴大統領は、慰安婦問題で前進がなければ首脳会談に応じないという、かたくなな姿勢を取り続けた。

     対立があるからといって、3カ国首脳会談の開催を中断するようなことを二度と繰り返してはならない。

     昨秋以降、日中は、中国経済の減速や米中の摩擦を背景に関係改善の動きが生まれ、日韓関係にも前向きな変化が見える。今年3月には3カ国の外相会談が3年ぶりに開かれ、今回の首脳会談につながった。

     地理的にも歴史的にも近い3カ国には、多くの分野で深いつながりがある。3カ国には、環境、文化、防災など分野ごとに、約20の閣僚級会合を含む50以上の政府間協議の枠組みがある。首脳や外相の会談が開けなかった間も、他の閣僚級会合は開かれていたが、3カ国関係全体の大きな改善にはつながらなかった。

    世界の安定につなげよ

     3カ国の13年の国内総生産(GDP)の合計は、世界の20・6%を占め、欧州連合(EU)の23・6%、米国の22%に匹敵する。

     これだけの経済規模を誇る地域なのに、日中韓がともに加わる広域のメガFTAがないことは、各国が成長する機会の損失につながる。ASEANは12月末に「ASEAN経済共同体」を発足させる予定だ。北東アジア地域の遅れは明らかだ。

     中韓の2国間FTAはすでに合意され、年内の発効を目指している。

     一方、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)には中韓両国は加わっていない。TPP交渉が大筋合意に達したことが刺激になって、日中韓のFTA交渉が高い自由化水準を目指して前進するよう期待したい。

     安全保障分野でも、北朝鮮の非核化に向けた連携が不可欠だ。南シナ海の航行の自由の確保など海洋安全保障の問題についても、3カ国の場で議論していくべきだ。

     今回、3カ国の首脳会談にあわせて、安倍首相は李首相と日中首脳会談を開き、戦略的互恵関係の考え方にもとづいて関係を改善し、発展させていくことを確認した。2日には朴大統領との初めての日韓首脳会談も予定されている。

     安倍外交は、日中、日韓関係が改善できないため、他の地域に比べてアジア外交が不十分だった。ようやく外交環境が整ってきたと言える。

     歴史認識や領土の対立は、簡単に解決できるものではないが、肝心なのは、こうした難しい政治課題に国同士の関係がすべて左右される事態に陥らないようにすることだ。

     未来志向で実務的な3カ国協力の実績を積み上げ、そうした協力の深化が2国間関係の改善や、世界の安定と繁栄につながるようにしていく必要がある。3カ国が世界に果たすべき責任である。

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