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BABYMETAL 2014年ソニスフィア ~ BABYMETALを知ってから、俺は泣いてばかりいる

Posted by 高見鈴虫 on 29.2016 音楽ねた   0 comments

BABYMETALを知ってからというもの、俺は泣いてばかりいる。
言うまでもない、2014年 ソニスフィア・フェスティバルの映像である。

今更というわけでもないが、
俺はこの伝説と言われたソニスフィア、
その歴史的瞬間の全映像を、
最初から最後までの、全て通しでは、
つまりはストーリーという形では、
捉えたことが無かった。

今となっては、天才だ、神懸りだ、怪物だ、巨人だ、と、
手放しの賞賛に飾られたBABYMETAL。

スーメタル、こと、中元すず香。そしてユイ、最愛。
神バンドと呼ばれる四人のバックバンド。
その演奏のあまりの素晴らしさ、
ステージでの完成度の高さからその破壊力。
まさに神懸っているとしか表現のできない、
あまりにとてつもなく優れきったこのBABYMETAL。

日本はおろか、現存の世界中のアーティストと並べても、
あるいはこれまで地球上に存在した、
ありとあらゆる巨匠たちと比べても、
これ以上に凄いバンドは存在しない、
とまで言わしめた(言っているのは俺だけか・笑)
そんな押しも押されもしないスーパー・バンドである。

そのあまりにも絶対的なパフォーマンス。
いったい、このバンドに、ライブを滑る、
あるいは、こけた、とちった、ミスった、転んだ、
そんなことはないのか?
だったら、こいつら、本当に人間なのか?

これまで幾度となく、
そんな滑った転んだを繰り返して来た、
あるいはそんな醜態的なライブを見させられてきた俺の、
人間に絶対はありえない!という信念。
つまり、BABYMETALだって、失敗はすることはある、筈なのに、
という俺の頑な疑問に、
それでは、とお送り頂いたこのソニスフィアの映像。

この映像、最初から最後まで、通しで見なくては意味がない、
とある。

登場から一曲目、そして、三十分の構成を終えた最後まで、
それを一つの流れとして把握する、
その物語性を感じる、理解することにより、
このBABYMETALの魅力、その秘密、
強いては、
現在のその揺るぎない人気を得るに至った、
その実力を獲得するに至った、
その完成度を誇るに至った、
そのきっかけが、理由が、その過程が、
全てこのソニスフィアにおける三十分の映像に、
凝縮されている、という。

と同時に、このソニスフィアという世界有数の巨大イベント、
地平線まで埋め尽くす数万人の観客を集めるこの巨大イベントで、
こともあろうにBABYMETALは、
アウェイ、つまりは、敵、として、
下手をすれば、あるいは、十中八九、徹底的な袋叩き、
まな板の上に乗せられては、好き放題に切り刻まれる、
そんな壮絶な展開を予想されていた、と聞く。

ライブは水もの、と言われるが、
そのライブというものが、観客の前のステージ、
逃げも隠れもできないリアルなライブ・イベントであり、
全てがあからさまになったまな板の上での
ギリギリの土壇場である。

機材の故障から始まって、
ありとあらゆるアクシデントは起こりうる、
あるいは、何らかのアクシデントは必ず起きる。
それに加えて、ステージ上のパフォーマー、
いくらプロフェッショナル、と言えども、
所詮は人の子、である。
各メンバーのその日の体調から、
調子から、機嫌から、天候から、あるいは、
観客席にいる群衆、そのひとりひとりのオーラまで。
ありとあらゆる条件が、その風向き次第では、
良くも悪くも、変わる。

そう、このライブの恐ろしさは、
一度、片方に傾いたその流れが、
勢いとなり、津波となっては押し寄せ、
そして、メンバーたちの思惑、能力、情熱、
あるいは、周囲の期待、など物ともせずに、
あれよあれよと一挙に押し流してしまう、
そんな恐ろしい状況が、
時として、しかしまさにあっけらかんと、
起こってしまったりもする。

そしてBABYMETALが人間である以上、
そんな事態が、時として不可避でもあったりするのだ。

それなのに・・・

絶対にライブを滑らないバンド、
絶対にミスをしないバンド、
観るものの全てを絶対に感動させるバンド、
全てが「絶対」に彩られたこの神憑りバンドの、
そのギリギリの秘密が、
この三十分の映像に隠されている。

BABYMETALの完成は、ここから始まった。

そんな前評判の中、お送り頂いたこのソフィスフィアでの映像。

これまで抱えていたこのBABYMETALというバンドに対する疑問、
その全てを解き明かす為に、
初夏の連休中の夜を狙いすまして、
とくと拝見させて頂くことにした。

♪ ♪ ♪

夏の雨の午後である。
そう、BABYMETALのライブ、雨の日が多いと思わないか?
ニューヨークもそうだった。LONDONもそうだった筈。

そしてこのSONISPHERE 雨雲が立ち込めるこの午後、

それが、日本のロックが、そして、世界のロックの歴史が、変わった瞬間だった。

会場を埋めた数万人の人々にとって、
JAPANから来た、アイドルとメタルの融合バンド!?
なんじゃそりゃ、であった筈である。

まさにそれは、間抜けたカモがネギ背負ってやって来た、
そんな台本であったのだろう。

こちらの野外コンサートにおいては、
気に入らないバンドは、袋叩きにされ、そして引きずり降ろされる。

普段のコンサート、事前に金を払ってチケットを購入した人々、
つまりはファン、そして親衛隊の人々に囲まれた和気藹々の親善会。
その成功は、言ってみれば予定調和。
そんなコンサートは、アーティストの魅力の確認作業に過ぎず、
それは声援に始まり、そして絶賛に終わることが、
予め筋書きとして予定された上での、
出来レースに過ぎない。

がしかし、このソフィスフィアの舞台はフェスティバルである。
その数万人の人々が、なにを目的にこの会場を埋め尽くしているのか。
人それぞれの好みやら事情やらがあるように、
ステージのバンドが好きな奴もいれば、そして、嫌いな奴がいるのも当然のこと。

その好きか、嫌いか、あるいは、良いか、悪いか、善と悪との壮絶な綱引き、
それこそが、予定調和を一切廃した、この土壇場の巨大ロック・フェスでの、
ドラマ性の全てである、と断言できる。

嘗て俺自身、まさに40万人の集まった
史上最大のロック・フェスティバルの場において、
当時、押しも押されもしないエンターテイメント界の帝王であった、
あのジャスティン・ティンバーレイクが、
嵐のようなブーイングと降り注ぐペットボトルの雨の中で、
まさにステージの上、残虐非道とさえ映るほどに、
徹底的な袋叩きの末に、
情け容赦なくステージを引きずり降ろされる、
そんな壮絶な光景を目の当たりにしたことがある。

40万人の人々からの一斉の、まさに地鳴りのようなブーイング。
そして、嵐の夜に飛魚の大群に襲われたかのような、
一斉のペットボトル攻撃。

あのジャスティン・ティンバーレイクが、全身で震え上がり、
唇を戦慄かせながら、頼むから僕の歌を聞いてくれないか?と涙声で訴え、
その回答は、新たなるペットボトルと、そして罵声・怒声と嘲笑、
憎しみと嘲りと怒りの全てを込めた天地を揺るがすようなブーイングの嵐だった。

その後のジャスティン・ティンバーレイクのキャリア、
それさえもを決定することになった、この超トラウマ的なイベント。
ひとりの卓越したアーティストの、その才能からキャリアから将来からを、
徹底的にブチのめしては切り刻んみ、
ミンチにして弄んだ末ににゴミ箱の底に叩き込んでしまう、
そんな残酷極まりない修羅場が、そんなとんでもない光景が、
まさに現実に引き起こされ、あっけらかんと目撃される、
それこそが、野外のビッグイベントなのである。

それはまさに、公然として行われる公開処刑。
数十万人の目撃する、まさに、虐殺、であった。

ちなみにそのトロンとでの野外フェスティバル。
その日、地元の利を得たRUSHがとんでもないライブを披露した後、
夕暮れの中に登場したAC/DCが、40万人の大群衆を完全に掌握。
完膚なきまでに魅了し、ぶっ飛ばし、叩きのめし、
その三十年にも及ぶAC/DCの歴史の中で、
これ以上はあり得ない!と言わしめた、伝説的な公演を披露した。
と同時に、
遅ればせながら登場したローリング・ストーンズは、
まるでダレダレの抜け殻の養老院的自己コピーバンド。
あのストーンズが、嵐のようなブーイングを浴び、
ミック・ジャガーが身を震わせながら、
唖然としてその群衆を前に立ち尽くした末に、
そしてアンコールもやらぬうちから、
その大群衆が、その目の前から、津波が引くように、
ぞろぞろと帰り始めた。

そう、野外コンサートではなんでもある。
そして、こんなまさに、とてつもない光景を目にすることも、ある。



7月5日 雨の土曜日。その昼過ぎ。そんな間の抜けた時間。
だれもそんな時間にロックなど見ようとは思わないだろう。
まあ前座の糞バンドがちゃらちゃらやっている間、
トイレを探したり、今のうちにドリンクをゲットしたり、
あいつ、遅いなあ、やら、いい女いないかな、やら、
巻いてきたジョイント、もう一本め、つけちゃおうかな、
やら、まあそんなものだ。

そんな中に登場した、このジャパニーズのアイドルのメタルの、融合バンド?
なんだよそりゃ、とせせら笑い。
それはまさに、前座も前座、本命を待つ間の暇つぶし。
まあここらでちょっと、景気づけの遊び半分に、ペットボトルでも投げつけて、
思う存分に痛ぶっては騒ぎ回ってやろう。

そんな中に登場したのが、BABYMETALだった。

メンバーは明らかに緊張していた。
正直、こんな情けない姿の神バンドを見たことがない。
紙芝居の間、まさに、まな板に乗せられた鯉、の心境だったのではないだろうか?
イントロが始まっても、音が締まらない。
登場したBABYMETAL、表情が固い。
ユイの髪に旗が引っかかる。
そして、最愛、他の三人が踊りを始めているのに、ひとりで完全に外している。
ポジションが決まらない。
メンバーの全員がてんでバラバラだ。
まさに、考えうる限り、最低最悪の滑り出し。
ひどい音だ。そう、野音の音だ。
広い空間の中、風に音が散らばってしまって、
とっちらかったまま全然締まらない。
おい、ちゃんとサウンドチェックをやったのか?
そんな中、演奏中だというのにメンバーの視点が定まらない。
辺りをキョロキョロしているばかりで、明らかに挙動不審だ。
凄い人だな。何万人いるんだ。地平線まで人ばかりじゃねえか。
それにしてもこのモニター、全然聞こえねえんだけど、
とそんな中で、まさに心ここにあらず。

LEDAさん。このお祭り男。ひとりではしゃいでいる。
英樹さん、ぜんぜん左手が返っていない。音が固い。通らない。
それは劣悪なサウンド・システムのせいだけじゃないだろう。
ミキオさんのギター、いい音で鳴ってるが、リフが滑ってる。
ベースのボーさんだけが、
おい、てめえら、しっかりしねえか、と睨めつけているようだ。
やばいな、こいつら完全に持って行かれている。

これは・・・滑ったな・・

これは明らかに、滑ったライブの典型的なパターンである。
そんな夢心地のまま、たったの30分、
それはまさに、やることなすことが悪い方にしか転がらず、
指の間から砂が落ちるように、
サラサラと、あっという間に流れ去ってしまう。
滑ったライブとはそんなものなのだ。

へえ、BABYMETALでも、神バンドでも、
こんなことがあるのか。
思わず笑ってしまった。
がしかし、こりゃ酷えな。。。

さあ皆さんお待ちかね、ペットボトル・シャワーのお時間です。

この、アイドルとメタル、なんて舐め腐った東洋の猿ども、
この際、徹底的にミンチにして、足腰立たないどころか、
全員が全員、この先、二度とメタルなんてことをほざくことがないように、
殲滅し尽くしてやろうじゃねえか。

と、そんな中、ステージにただ一人。
遠目に見ても、その凛として揺るぎのない姿。
ざわついた、まさに地平線まで広がる大海原のような、
その信じられないほどの大群衆を前に、
きっとして睨めつけるように、たった一人で仁王立ち。

そしてこともあろうに、
そんな怒れる神そのもののような不穏な大群衆の前に、
なんと脳天気にはしゃいだ顔をして、ケラケラと笑っているではないか。

なんだよいったい、この小娘ちゃんは。。。

そのしなやかな身体。
そのあまりにも細く長い手足。
小枝のよう、というよりはまるで鞭のような。
そしてそのあまりにもハツラツとした表情。
ぞっとするほどの輝きを湛えたその黒く大きな瞳。
まるで初めて塗ってみた口紅で、
鏡を前に人知れず大人のポーズを決めてみた、
そのツンとすました表情。
と見るや、
いきなり弾けるような笑顔をふりまいては、
きゃっきゃとはしゃぎながら飛びまわり跳ねまわり。

そんな一人の少女のあまりの傍若無人なハイパーぶりを、
唖然として見つめる大群衆。

がしかしこの少女、
そんな人々に見つめられるステージの上が、
まるで面白くてしょうがない、という風に、
思い切り弾けまくっては、歌って踊って翔んで跳ねて、
生命の躍動そのもののように、
一人勝手にはしゃぎまくっている。

そのステージを埋め尽くす爆音。
ベースもバスドラも、ギターのリフも、
好き放題にとっ散らかっては散らばりまくり。
ただ轟音となってぶち撒かれたそんなカオスの中で、
その少女の澄みきった歌声だけが、
雨雲の空に向けて高らかに響き渡っては空気そのものをビリビリと震わせ、
しなやかな四肢をこれ以上なく振り回しては、
その姿、まさに春の野の子鹿のよう。

この子、本当に嬉しそうだな。
生きているのが、そして、この雨空のステージに立っていることが、
本当に嬉しくて嬉しくて堪らない、といった風。

こんな笑顔、見たことがない。まるで目の潰れそうなその輝き。

その弾けた笑顔に、観客がそしてメンバーが呆気に取られ、
そして知らず知らずのうちに見惚れては飲み込まれていく。

その少女の姿は、まさに天使。
まさに、生きることの喜び、そのものだった。

人々は長く長く忘れていた筈の、そんな手付かずの輝きを、
あるいは、生きる喜び、
その、人間という種に必ず存在する、善なるパワーそのものの、
神々しいとまで言える、その絶対的な輝きを、
まさに、目の当たりにしていたのだ。

カオスと化したステージの上、
そんな少女の圧倒的な善なるパワーが染み入るように広がり続け、
そしてメンバーの緊張がみるみると溶けていく。

そうだ、楽しまなくっちゃ。そうだよ、ビビることなんかなにもねえんだよ。
人生は祭りだ。そう、これはフェスティバル、お祭りなんだ。
どうせなら思い切り弾けてやろうぜ。

雨が降りだした中、そんなことなどまったく構わず、
三人の少女たちがステージ一杯に問答無用に跳ねまわる。

そのあまりにも華奢な身体、しなやかな鞭のようにしなる手足。そして、弾ける笑顔。
まるで絵に描いたような美少女たち。
世界の喜びそのもののような、
これ以上なく幸せそうな少女たちの笑顔。

そのあまりにもあっけらかんとした少女たちの笑顔に、
雨に叩かれた群衆がみるみると包み込まれ、
群衆に笑顔が広がる。雨の中で心が洗われて行く。

そしてステージが一つになった。
散らばるばかりだった轟音にスネアの骨が入り、
ギターがベースが、踊り始め、
そして、ステージにロックの神様が降り立っていた。
群衆が揺れた。人々が弾けた。数万人の群衆が、一つになった。



多くの人びとが、この2014年7月5日、
この英国 ソニスフィア・フェスティバルを、「伝説」と呼ぶ。

このBABYMETALのたった三十分のステージ。
このわずか三十分のパフォーマンスが、
長らく、ガラパゴス的な島国に密閉され続けた
日本のアイドル、あるいは、日本のロックという歴史に、
まさに、風穴ぶちを開けた。
すべてを、一瞬のうちに、覆した。

この会場にいた、地平線まで埋め尽くす大群衆が、
まさに、BABYMETAL、
日本からやってきた、このアイドルとメタルの融合、
という徹底的に訳の判らないバンドに、
完全にぶっ飛ばされ、ノックアウトされた。
そしてニュースが、そして映像が、世界中を駆けまわった。
日本という国の持つ底力を、その真の姿を、その可能性を、
世界中に知らしめる、まさにBABYMETAL旋風、
その誕生の瞬間だった。

そしていま、その2年前の映像を改めて観るにあたり、
その奇跡を巻き起こしたのが、当時わずか16歳の少女、
スーメタルこと、中元すず香という、まさに、天才の中の天才少女。
その後、世界の音楽界の全てを塗り替えることになる(であろう・笑
BABYMETAL 
そして不出世の天才歌手、中元すず香、
その誕生の決定的な瞬間だった。

いやあ、いままでいろいろなものを観てきたが、
この中元すず香のこの表情。
これほどまにで神々しい、これほどまに美しい、これほどまでに輝かしい、
まるで目の潰れそうな光景を、この歳になるまで、見たことがなかった。

この映像を見て、まだ、BABYMETALを紛いもの、という奴がいたら見てみたい。
この映像を見て、いまだに、中元すず香にノックアウトされない人間がいたら、
そいつらはサルどころかモグラ以下だろう。

武道館のLIVEも良かった。
LONDONのDVDは、それこそ一日中観ている(前田さん、お世話になってます!)
だが、
このソニスフェアにおける中元すず香。
いやあ、ぶっとんだ。こんな女の子、どころか、こんなロッカーどころか、
こんなアイドル、どころか、こんな美しい人間、あるいは生物を、
俺は、見たことが、無い!

数億年経って、人類なんてものがとっくの昔に滅びてしまった後に、
新しくやって来た異星人がこの映像を見たらいったいどう思うのだろう。

その昔、ヒト化ヒト属という生物がこの惑星にいた。
その生物は例えようもなく美しく凛々しく神々しく、
恐ろしいまでの生命力に満ちた生物であった、らしい・・・

BABYMETAL、そして中元すず香。
この不出世の天才の中の天才と、
同じ時代に生きることのできた喜びを、
改めて噛み締める。

ああ長生きして良かった。
あの時に死ななくて、本当に良かった。



改めてロックを聴く理由ってなんだろう。
あるいは、コンサートに行く理由ってなんだろう。
俺たちはなにを楽しみに、あの会場に足を運ぶのだろう。

だって、音を聴くだけなら、CDやDVDを買えばいいじゃないか。
何度も繰り返して楽しめるし、その方がお得だ。

世界的に有名な大御所の、その芸術的な手腕を堪能するため。
とりあえず思い切り騒ぐため。ただでかい音が聞きたいから。

そんなライブという状況において、
俺が一番愉しみにしていることは、と言えば、
化けること、だと思う。

よく言われることだが、ステージには魔物が住んでいる。

その魔物は、とんでもなく気まぐれで、そしてとてつもなく意地悪。
期待した筈の大御所のパフォーマンスが、まさに欠伸が出るぐらいに退屈であったり、
まるでステージそのものが風景のように遠く思えて、
とっちらかった音からそのわざとらしいアクションからが全てが空回り。

いったい俺が、なんでこんな場所に居るのか、
なんでこんなどうしようもないものに金を払ってしまったのか、
いったいなにを期待してこんなところまでやってきたのだ。

そんな滑ったライブを、これまで何度となく観てきた。

と同時に、そう、ステージの魔物は気まぐれで、
そして、時として、とんでもない悪戯を仕掛けたりする。

ジャパン、なんていう国からやってきたこのとんでもなく外しまくった奴ら。
小娘三人と白塗りのバックバンド、そんなちんどん屋みたいな奴ら。
ふざけやがって。このチャイニーズ、どこまで間違えていやがるんだ。
そんな、まるで冗談みたいなバンド。
案の定、ざまあ見やがれ、この大群衆をまえにすっかり怯えきりやがって、
さあ、どこであの幼気なおサルさんたちに、このペットボトルを命中させてやろうか。

そんなネガティブの塊のような場所に転がり出されたこの可哀想な生け贄たち。

そんな連中が、
まさか、ひとりのとんでもない天才の持つそのパワーに、
数万人の人々が一挙に飲み込まれ、
群衆のオーラが悪から善に、一瞬のうちにひっくり返り、
ステージそのものが完全に別の次元へと移行し、
降来した神々の乱舞を目の当たりにしながら、
数万人の群衆が踊り狂うことになる、

そんな奇跡のような、まさに大逆転のその瞬間。

風に散っていた音が、一曲ごとに束ねられて、締まり、
そしてみるみるとパワーを秘めては紅く熱を持っては膨れ上がり、時空を捻じ曲げていく。
そのパワーが津波となって押し寄せ、群集を包んでいく。

さっきまで、まるで怯えた子猫のように震え上がっていた奴らが、
いまや、ステージ一杯に弾けまわり、飛びまわり、走り回り、
それに飲み込まれた大群衆が、一挙にうねり始める。

ステージの人々の、緊張が、その壁をぶち破り、開放され、
音が、表情が、踊りが、熱を帯び、みるみると輝きを増し、
その熱気の中に、ステージのヴァイブレーションが、会場一杯を包み込み、
観客の興奮が、熱狂が、ステージと呼応を繰り返しては、
この空間の全てが一つになる。

それこそはまさに、死から蘇生への決定的な瞬間。
人の持つ、精神、というものの、そのパワーそのもののが発現した光景。

それを人は、感動 と呼ぶ。

そんな「感動」の風景はやはりライブでしか味わえない。
なせならそこにいた全ての人々が、その熱狂の紛れも無い「主役」であるからだ。
そしてその場にいた全ての人々が、まさにそんな感動的な光景を目の当たりにした、
まさに、歴史の目撃者、になる訳だ。

世界最大のロックフェスティバルに、まさに、間違えて転がり出てしまった、
この幼気な、東洋のおちゃらけた糞バンドが、
ひとりの天才少女。その正真正銘の天才のオーラの中に包み込まれ、
そして、ステージの上、全ての人々が見守るその前で、
みるみると脱皮を繰り返しては、、まったく別の人々へと生まれ変わってしまう。

ロック史上、まったく例を見ない程に衝撃的なこの三十分の奇跡。

その主役はまさに、スーメタルこと、中元すず香、その人であった。

BABYMETALは、どころか、世界はこの人の為にある、というぐらいにまで、
この三十分の劣悪なファンカムの映像は、しかし、生々しい臨場感を持って、
一つのバンドが、その死から蘇生へと転化する、その奇跡の瞬間を映し出していった。

ロックっていいな。バンドっていいな。コンサートっていいな。フェスティバルっていいな。
俺たち、生きていて本当に良かったな。

俺達が生きている意味ってなんだ?
その根源的な疑問に、この映像の中元すず香が、あっさりと答えてしまった。

生きるってなにかって? BABYMETALを観ることよ。

という訳で、BABYMETALを知った人々。
朝から晩まで、BABYMETALを観ては感動の涙にくれるばかり。

生きることとは、BABYMETALと見つけたり。



その後、あまりの衝撃の中で、この公演を巡るエピソードが蘇り始めた。

なんとあの公演の直前まで、スーメタルは「寝ていた」そうである。
寝ぼけたままステージにひっぱりだされ、
その袖から、なあんだ、あんまり人が入ってないな、と肩透かしを食い、
そうやって転げ出たステージの上、
ぽかーんと口開けている人々の顔が面白くて、
いっちょう、驚かせてやろうか、と思った、という。

このまさに、傍若無人といえる程の、まさにそれ、小娘の悪戯心、そのものじゃないか。

そうガキってさ、俺らガキの頃とかさ、
後先、とか実はあんまり考えてなくて(俺だけか?
もう毎日毎日、その目新しい発見に、生きていることが面白くて面白くて、
現実を現実としてそのまま手放しに受け止めては、
さああ、やっちゃろかい、思い切り馬鹿騒ぎさせてもらおうか、
なんてことばかり考えていた、
そう言えばあったよな、そればっかりだったよな(俺だけか?

新宿ロフトのステージに、なにからなにまで、
片っ端から身体中にくっつけて貼り付けてぶら下げて、
そんなちんどん屋が腰抜かすような出で立ちで、
あああ、騒ごうぜ、ぶっ飛ばそうぜ、ぶっ殺そうぜ、とはしゃぎまわていた、
あの超人的な馬鹿パワー。

或いは、
あの深夜の江ノ島で、パトカーごとひっくり返して火をつけてしまった、
あの糞ガキどもの、後先どころか、なにからなにまでなにも考えていなかった、
まさにそう、いま、いまをいまとして生きる、その圧倒的な悪ガキ・パワー。

中元すず香に見たあのとんでもない輝きは、
神がかり、とか、才能とか、それ以前に、
つまりはそう、そんな、どうしようもなくも抑えに抑えられない、
そんな火事場の馬鹿パワー、そのものだったのではないだろうか。

そう、それを人は、若さ、という。
つまりは、身体中に、エネルギーが、漲っている訳だ。

大人はそれを忘れてしまった。
それを、忌み、時として恐れ、
そんなガキどもの馬鹿パワーに、老人じみた安息が乱されるのが、
疎ましくてならないようだ。

全ての遊びという遊びを奪われた子どもたち。
手足を縛られ、口を塞がれ耳にイヤモニを、目にゴーグルをハメられては、
箸にも棒にもかからない、まさに電話帳を逆さに読むようなお題目を、
来る日も来る日も暗記させられては、上だ下だ勝った負けたと炊きつけられ。

そんな現実を生きる人々にとって、
まさにこの、5万人を前に、いっちょう驚かせてやろう、と飛んだりはねたりを繰り返した、
このまさに、一世一代の馬鹿パワー、その炸裂する様に、

改めて、回りの子どもたちの、あるいはこの社会の、
病理の根源がどこにあるのか、考えてみたくもなった。

あのさあ、おさん、生きるって、もっともっともっと、楽しい事の筈じゃなかったのか?

なんでそこまで、わざと自分自身に不幸を強いなくてはいけないの?
なんのために?どうして?どんな理由で?まったく訳判らない。

この一六歳の中元すず香の神々しいばかりの笑顔に、
そんなことを考えてしまうのは、
つまりは俺自身が不幸のどん底、不機嫌極まりない、生きることが辛くてしかたがない、
そしてそれを、周囲にこれでもかと強要する、そんなどうしようもない人間のひとり、
であることを自覚した上でのことなのだろう。

目覚めよ人類。BABYMETAL RESISTANCE。
生きる、ということが、それほどまで辛くつまらないもの、
そうあらねばならない理由など、どこにも無い筈、じゃないのか?

幸せになろうぜ、思いっきり、幸せになるために、努力をしようぜ。

その人生を取り戻すテーマソングは、勿論、BABYMETAL DEATH!



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません

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