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消費税と軽減税率 「欧州型」で制度安定を

 生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率の導入に向け、自民、公明両党が協議を約1カ月ぶりに再開した。だが、軽減税率をめぐって、税収減の規模を小さくすることにこだわる自民と、痛税感を和らげる効果を重視する公明との隔たりは大きいままだ。

     何のための軽減税率か、あるべき消費税の姿は何かという原点を再確認しなければならない。その場合、さまざまな角度から参考になるのは、軽減税率が定着している欧州の先行例である。入り口論に終始せず、全体像を共有したうえで細部を詰めていかなければならない。

    幅広い品目を対象に

     欧州では、消費税にあたる付加価値税の税率が20%台となっている国が多い。そして、ほとんどの国が当初から生活必需品の食料品などに軽減税率を導入し、新聞・書籍も対象である。また、事業者が正確な納税をするために欠かせない明細書「インボイス」をやりとりしている。

     こうした欧州の制度にならって、確認すべき軽減税率の原点は「暮らしに深くかかわる品目への課税は低く抑える」という低所得者への配慮とともに、消費税を持続可能な税として定着させることにある。

     欧州の大半の国はそれぞれの事情に従って、食料品などで対象と対象外を線引きしている。決定の段階で、「持ち帰りは軽減税率だが、店で食べれば基本税率」といった紛らわしさや釈然としない面があっても、時間とともに売り手も買い手も線引きを受け入れていく。

     そして生活必需品の税率は動かないので、1%程度の小刻みな基本税率引き上げにも抵抗感は薄く、すんなり移行しているのが実情だ。

     わが国の消費税は、高齢化に伴って膨らみ続ける社会保障の貴重な財源である。2017年4月の10%への引き上げにとどまらず、今後、段階的な引き上げが避けられそうにない。そう考えると、痛税感を和らげる効果のある軽減税率は消費税の持続性を高めるうえで不可欠である。

     さらに、個人消費の落ち込みという経済へのマイナス作用を抑えるためにも軽減税率は欠かせない。政府は昨年、8%への引き上げに伴って、低所得者約2400万人に1万〜1万5000円の給付金を配ったが、消費低迷は防げなかった。この段階で、軽減税率の重要性ははっきりしていたと言える。

     こうした点をふまえれば、自然と軽減税率の対象とすべき範囲が見えてくるのではないか。

     税収減を埋める財源を探すことは大切だが、そこから議論を始めるのではなく、導入の狙いに沿って幅広い品目を議論の俎上(そじょう)に載せ、財源確保に知恵を絞るべきだろう。

     27日の与党の議論では少なくとも4000億円の財源が確保できることで一致したが、この額だと対象は生鮮食品にとどまる。それで十分か、加工食品はだめなのかという問題提起があっておかしくない。

     品目拡大を可能にする新たな財源を求める時、浮上している「たばこ税の増税」も一つの選択肢となるだろう。また、消費税の使い道である年金や医療などの社会保障費の中身も、聖域化せず見直す必要がある。

     一方、欧州の多くの国は「知識には課税しない」との原則で新聞・書籍も軽減税率の対象にしてきた。日本でも導入が望ましい。

    インボイスは不可欠だ

     もう一つの焦点が、取引するモノやサービスごとに、適用される消費税率と税額を書いたインボイスを取り入れるかどうかだ。税率が複数になれば、正確な納税のためには欠かせない。経済協力開発機構に加盟し、付加価値税を導入している国で、インボイスがないのは日本だけだ。

     ところが、「事務負担が増す」との反対が中小企業などに強く、自民も消極的だ。だが、そもそも消費税創設時にインボイスは必要だったのである。消費税には、納税額の詳しい計算を省く簡易課税制度や、売上高が少なければ納税しなくてよい免税点制度があり、消費者が払った税が事業者の懐に入る「益税」が問題視されてきた。その額は年間1000億円超との見方もある。

     軽減税率を導入するなら、なおのことインボイスは欠かせない。現状のままだと、消費者が基本税率の10%相当額を払っても、事業者が軽減税率の8%だとごまかすことが可能になるからだ。インボイスがあれば、こうした不正は防げる。

     会計ソフトが広く普及した今、新たな事務負担といっても手作業に追われて青息吐息というものではないはずだ。それで税の公平性と透明性が確保できるならば、理解を得られるだろう。先行している欧州で、事務が煩雑になって事業活動が滞った、市民生活に混乱をきたしたという話は聞かない。

     与党の議論では、既存の伝票類を生かして軽減税率の取引に印をつける「簡易型」で負担軽減を図る方法が浮上している。こうした方法では、公平さを保つのに心もとない。

     やむを得ず、その線で決着を図る場合でも、少なくとも欧州型の厳格なインボイスに移行する時期を明示し、宿題を先送りしない姿勢が肝心である。

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