風を動力にして動くアート「ストランドビースト」いや、これは生き物だ
風が吹くと命が灯る、そんな生き物。
こちらはオランダのアーティストであるテオ・ヤンセンが制作した「ストランドビースト」という作品。風を動力として動く巨大な制作物で、ストランドビーストとはオランダ語で「浜辺の獣」を意味するそうです。こうした"動き"を取り入れた芸術作品はキネティック・アートなんてよばれています。現在サンフランシスコでは、彼の個展「Strandbeest: The Dream Machines of Theo Jansen」が開かれて、実際に本物のストランドビーストを見ることができますよ。
ストランドビーストの構造はポリ塩化ビニール(PVC)製のパイプを結束バンドでつなぎ合わせたというとてもシンプルなもの。それを何本もつなぎ合わせることで巨大な獣にしていきます。そして、いくつかの羽のようなものをもち、風を動力として動き出します。
動画を見ると、想像してたよりずっと動く!って思いませんか? まるで生きた動物のように、意思をもって前に進んでいるようにみえます。というのも、テオ・ヤンセンは物理学のバックグランドを持っていて、20年以上前にストランドビーストを作り始めたときから、徹底してその「設計」をこだわっているようです。風を受けて前に進む、という仕掛けを生きたもののように動くということを目指して作っているのです。
今回の展示会で実際に本人と話をしたというio9の記者は、彼の興味は「命がどのように始まり、またどのように進化し変わっていくのか」という点に調査対象を移行させたことを記しています。実際に彼は現在、生物進化などを研究しています。
ヤンセンは毎年夏に、故郷であるオランダのとある浜辺で新たなストランドビーストを公開しています。彼の流儀でいうならこれは新たな生命の誕生なのでしょう。ストランドビーストにはそれぞれユニークな名前が付けられているということも、それぞれが固有の意思をもった生物であるということを示しているのかもしれません。
そして彼は「秋にはビーストたちはいちど死に、墓場へと誘われる」と語ります。今回の展示会のように、人の力や圧縮空気によってビーストたちに再度いのちが宿ることもあります。科学とアートを掛け合わせたストランドビーストを通してヤンセンは「生命」ついて考えているのです。
キネティック・アートという領域そのものが"動き"というものを軸としてさまざまな発展を遂げてきました。そこには科学やテクノロジーへの研究がともなっていて、機械工学を取り入れた彫刻や音響や映像などを吸収したデジタルアート、より機械的な仕掛けをともなうインタラクティビィティーへとすすんでいきます。そのキネティック・アートの領域でありながら、ヤンセンは機械的な装置を使わずに動かしているということも特徴のひとつです。
デジタルなものが溢れるこのご時世に、浜辺でひとり大量のビーストたちに囲まれながら風に吹かれるヤンセンの姿は時代に逆行しているようで、でもはるか先の生命をみつめているようで不思議な感じがします。
ちなみにヤンセンの展示会は以前に日本でも開催されていました。彼を追ったドキュメンタリー作品も日本版が出ています。「大人の科学マガジン」では特集が組まれ、組み立てて作れるミニ・ビーストが付録としてついてくるんです! これストランドビーストの構造もわかるし、組み立てるの絶対楽しいだろうなあ...。オランダの浜辺は遠いけど、ちっちゃなビーストを誕生させたいですね。
source: San Francisco’s Exploratorium, STRANDBEEST
Cheryl Eddy - Gizmodo io9[原文]
(横山浩暉)
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- 大人の科学マガジン Vol.30 (テオ・ヤンセンのミニビースト) (Gakken Mook)
- 学習研究社