万引き被害 深刻な実態を知ろう
小売店での年間の万引き被害額は約4600億円にも上るという。
NPO法人「全国万引犯罪防止機構」の推計だ。都道府県の中で最も人口が少ない鳥取県の年間予算額より多く、振り込め詐欺など特殊犯罪による被害額の10倍近い。驚くべき数字である。
警察庁によると、万引きの認知件数は減少傾向にあるものの、年間12万件を超え、刑法犯全体の1割に達している。埋もれた被害はさらに多いとみられる。
近年は高齢者による犯行が増え、検挙者全体の3割を超えている。その半数が1人暮らしというデータもある。関係機関が連携して福祉面でのサポートを検討する必要がある。
犯人がネットオークションで盗品を販売する例も増えている。盗品かどうか、買う人が確認するのは難しい。盗品情報をデータベース化し、ネット業者にも協力を得てチェックできる仕組み作りを進めるべきだ。
同機構によると、店側も対策を取ってきた。有効なのは客への「声かけ」だ。万引き犯に店員の目を意識させ、犯行を思いとどまらせる効果があるという。
商品にタグをつけ、レジで店員が外すシステムを取り入れている店もある。タグが付いたまま持ち出そうとするとブザーが鳴る。だが、設備に一定の費用がかかるため、小さな店でも設置できるよう、コストを下げる研究が進んでいる。
東京都内の大手書店は昨年2月に顔認証システムを導入した。過去に万引きをするなどした人物の顔を監視カメラが撮影した時、写真をデータベースに登録する。似た人物が再び来店してカメラが顔をとらえると、過去の顔写真とともに2枚の写真データが保安員のスマートフォンに送られる。
保安員が2枚の顔写真を見て同一人物と判断すれば行動を監視する。これまで約500人を登録し、70人以上の万引きを見つけて警察に通報した。効果は上がっているが、こうまでしなければ被害を減らせない現状はあまり知られていない。これも大手でなければ導入は難しい。
悪質な犯罪だという共通認識が社会にあるだろうか。東京都や警視庁などでつくる「東京万引き防止官民合同会議」によると、アンケートに対し、大半の人が「悪質」と答えた。
ただし、計画性がなくて被害額も少なく、万引きした商品を客が買い取った場合、「罪はさほど重くないと多くの人は考えている」という。万引きを許さない意識がまだ十分とは言えない。
万引きは小売店にとって死活に直結する。対策を進めるためにも、まず深刻な実態を広く知ってほしい。