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首相と米戦闘機 発信には細心の注意を

 安倍晋三首相が神奈川県沖の相模湾で米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンに乗艦し、艦内を視察した。現職の首相が米空母に乗艦するのは初めてで、艦載機FA18(スーパーホーネット)の操縦席に乗り込み、写真撮影に応じた。

     自衛隊や米軍の現場を視察し、隊員らの士気を高めるのは、自衛隊の最高指揮官である首相の役割の一つだろう。ただ、米戦闘機のコックピットで笑顔を見せる映像や写真が、国内外にどんなメッセージを発するのか、配慮は十分だっただろうか。

     首相は海上自衛隊の観艦式に出席した後、湾内を航行していた米空母に海自ヘリコプターで着艦し、約1時間にわたって艦橋や格納庫を視察し、米側から説明を受けた。

     米海軍横須賀基地に新たに配備されたロナルド・レーガンは、東日本大震災で米軍による災害救援「トモダチ作戦」の主力艦だった。いわば日米同盟の絆を象徴する船だ。

     首相には、この空母に乗り込むことで、日米の軍事一体化を進める決意を示し、中国や北朝鮮をけん制する狙いがあったと見られる。

     だが、タカ派的なイメージを持たれがちな首相が、米戦闘機に乗り込む姿は、対外的に誤解を招きかねない。結局、日本の外交・安全保障にプラスにならないのではないか。

     思い出されるのは、首相が一昨年春、千葉市内でインターネット動画サイトの運営会社が開いたイベントを訪れ、ヘルメットに迷彩服姿で陸上自衛隊の戦車に乗り込み、日本の右傾化と一部で批判されたことだ。

     今年3月には、参院予算委員会で首相が自衛隊を「わが軍」と呼び、自衛隊と軍隊を同一視しているような印象を与えたこともあった。

     憲法9条のもと、政府は自衛隊と軍隊を区別してきた。歴代首相は、軍事問題を抑制的に扱いながら、国際貢献を徐々に拡大してきた。

     そうした努力の積み重ねの上に自衛隊や日本への信頼が築かれてきたことを、首相は忘れないでほしい。

     また、先の国会では、安全保障関連法をめぐって、米軍の戦いを自衛隊が地球規模で支援することの是非が議論されたばかりだ。

     憲法、米国や中国との関係、財政上の課題など、さまざまな観点から疑問が提起され、政府・与党は国民を納得させる説明ができないまま、強行採決によって法律を成立させた。

     法成立から1カ月たったが、今月初めの毎日新聞の世論調査で57%が法制定を評価しないと答え、反対デモも続いている。そんな中での今回の首相の言動は国民の理解を深めるよりも、国論の分断を拡大させかねないことを懸念する。首相は自身の発信に細心の注意を払ってほしい。

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