安倍晋三首相は30日、消費増税の再延期をめぐる与党内調整を事実上、終えた。伊勢志摩でのG7サミットでの「政策総動員」発言から始まった消費増税の再延期、衆参同日選の是非をめぐる駆け引き。副総理の麻生太郎財務相、自民党ナンバー2の谷垣禎一幹事長が「増税再延期なら衆院解散を」と公然と求め、一見すると党は大きく割れているようにみえる。党内が対立し、野党が内閣不信任案を提出する――。1980年、大平正芳内閣は自民党からの造反者が出て不信任案が可決されて衆院を解散、史上初の衆参同日選挙になったが今回、こんな緊迫感は皆無だ。それは制度の導入以来20年がたち、「小選挙区首相」が確立したからでもある。
30日、首相と会談した稲田朋美政調会長も麻生、谷垣両氏らと同じく、「増税延期なら信を問うべきだ」と伝え、二階俊博総務会長は首相の決断を支持すると表明した。三役の2人が「増税延期なら衆院解散を」と促す異常事態。それでも、党内は「参院選へ向け、最後は総理総裁に従う」と受け止め、緊張感はない。
大平内閣の不信任案、さらに93年の宮沢喜一内閣不信任案も、中選挙区制の下で可決された。それが今回との大きな違いになる。1人しか当選できない小選挙区制で、与党が内輪もめすれば野党を利するとの理屈。もうひとつの理由は、仮に造反すれば、与党の公認を外され、無所属で戦わなければならない恐怖だ。2005年、郵政解散で自民党の造反組は、当時の小泉純一郎首相の「刺客」戦術に震え上がった。
そして09年には政権交代され、野党に甘んじる悲哀も味わった。「二度と野党暮らしはしたくない」が、自民党の上から下までの総意である。総理総裁が公認権、資金面で絶対的な権限を持つのが、小選挙区制の持つ側面だ。小泉内閣時代、安倍氏は官房副長官、幹事長としてそれをつぶさにみてきた。第1次安倍政権から福田、麻生両政権では「政権交代」への世論の関心が高く、まだ派閥への幻想もそこはかとなく残っていた。野党への期待が少ない時、小選挙区制の下での与党党首の力は絶大なものとなる。
30日午後5時から始まった自民党役員会で首相は「増税を再延期したい」と説明した。出席者の1人によると特に異論は出ず、約40分で終わった。サミットで「リーマン・ショック級の危機を事前に回避するため、政策を総動員する」と打ち出し、G7首脳の合意をとりつけたとして、消費増税再延期を打ち出す。G7サミットと消費増税再延期を一体のものとした首相。「小選挙区首相」の威力だ。