臨時国会見送り 立法府を軽視している
政府・与党は秋の臨時国会召集を見送ることで検討に入った。年間を通じて臨時国会が開かれなければ2005年以来、10年ぶりとなる。
第3次安倍改造内閣が発足したにもかかわらず、安倍晋三首相の所信表明演説も行われぬまま、年明け後の通常国会に先送りするという選択は理解に苦しむ。
さきの国会が9月下旬まで続いたこともあり、もともと日程は窮屈だった。与党は首相の外交日程が立て込んでいることや、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の国会承認を来年の通常国会とすることなどから、召集を見送る方針を固めたのだという。
だからといって、見送っていい理由にはならない。首相は改造内閣発足にあたり「新三本の矢」の目標を示した。主要閣僚を留任させたとはいえ、約半数の閣僚が交代した。
憲法は議院内閣制について、内閣は国会に対し連帯して責任を負うと定める。改造人事を行った以上は速やかに国会で首相が所信を表明し、新閣僚の所信聴取を行うことが政府の責任だ。召集見送りは立法府を軽視している。
安倍内閣は国会で説明すべき多くの課題を抱えている。
大筋合意したTPPについて、政府は協定承認や国内法の整備を来年の通常国会のテーマにするとみられる。だが、政府は農林水産物で関税を設定している約半数の品目で協定発効後に関税が撤廃されることなどをすでに明らかにしている。生産者の不安に対し、国会質疑で可能な限り状況を説明すべきだろう。
さきの国会で成立した安全保障関連法をめぐっては憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を認めた過程に関し、内閣法制局に公文書が存在していない問題などが改めて浮上している。首相が新たに掲げたスローガン「1億総活躍社会」の具体的な中身もはっきりしないままである。
新閣僚をめぐっては、森山裕農相が代表を務める自民党支部が鹿児島県の指名停止措置を受けた複数の業者から合計約700万円の献金を受けていたことが判明し、返金を表明したケースもある。新閣僚の人選が適切だったかを吟味することも、国会の大切な役割だ。これらの事情にもかかわらず野党の召集要求に応じないのであれば、政府が議論を避けたと取られても仕方あるまい。
さきの国会は安保関連法などをめぐり、与野党で接点の乏しい応酬が目立つ結果となり、議会政治の立て直しが求められている。与野党には衆参予算委員会の国会閉会中の質疑で代替させる動きもあるようだ。だが、国会を召集し、建設的に議論するのが本来の姿のはずだ。