政府機関の移転 集中是正へ決意を示せ
中央官庁の外局や独立行政法人など、首都圏にある政府関係機関の地方移転に向けた調整が近く本格化する。安倍内閣は「東京集中是正」を図る地方創生の一環と位置づけており、地方側も積極的に誘致に名乗りをあげている。
政府機関の移転はこれまでも検討されたが官庁の抵抗が強く、かけ声倒れに終わってきた。移転の波及効果を具体的に説明した提案が今回、地方側にもみられる。政府は本腰を入れるべきだ。
現在、地方にある国の機関の多くは「出先」と呼ばれる本庁の下部組織だ。今回、政府は、中央官庁の外局のように中枢機能を持つ組織や、トップレベルの技術力を持つ研究施設などの政府関係機関を首都圏から地方に移そうと取り組んでいる。
政府の地方創生本部が道府県に政府機関誘致の提案を募ったところ、京都府が文部科学省の外局である文化庁、大阪府が経済産業省の外局・中小企業庁の移転を求めるなど、42道府県が合計69機関の移転を要望した。創生本部は有識者会議での議論などを経て、来年春をめどに具体案を取りまとめる。
東京集中の是正に向け、政府は民間企業の本社機能の地方移転を税制の優遇措置などで推進している。それだけに地方側は「国自らが率先すべきだ」(全国知事会)と移転の断行を国に促すが、実際にはハードルは高い。中央官庁には「地方に機関を移すコストに見合うメリットが見えない」「国会対応に支障を来す」などとして、慎重論が強いためだ。
だが、首都直下地震などに備える危機管理の観点からも、地方移転は国の戦略として位置づけるべき課題だ。中央官庁の中枢機能が移ることで地域の情報発信力を強め、人の動きや産業を活性化する効果は軽視できない。たとえば文化庁を文化財の集積地である古都・京都に移し「文化首都」と位置づける京都府の提案は、検討に値するのではないか。
産業振興プランとして、地方が移転を求めている例もある。愛媛県は、国土交通省所管の国立研究開発法人「海上技術安全研究所」のうち、船舶開発に関する研究部門の今治市移転を求めている。環境関連、省エネ技術などの研究施設と瀬戸内の造船産業が連携することで、研究の利便性と地域の競争力の双方を引き上げられるとの提案だ。
中央官庁をめぐっては、国の出先機関の自治体への移譲など、分権改革の問題がある。安倍政権では農地の転用を許可する権限の地方への移譲などを実現したが、分権改革の優先度は低い。統治機構改革の全体像を描きながら、政府は集中を是正する決意を示してほしい。