ノーベル平和賞 中東の和解への弾みに
中東の民主化要求運動「アラブの春」の先駆けとなった北アフリカのチュニジアで、政治対立を調停して解決に導いた4団体からなる国民対話組織に、今年のノーベル平和賞が授与されることになった。今回の授賞が中東各地で続く混乱の収束につながることを願いたい。
チュニジアでは2011年1月、市民デモの圧力で23年続いたベンアリ独裁政権が倒れ、「ジャスミン革命」と呼ばれた。独裁政権への抗議運動はその後、エジプト、リビア、シリアなど中東各地に広がった。
しかし、多くの国で民主化は成功せず、混乱が続く。エジプトではムバラク独裁政権が倒れた後、イスラム主義政党が政権を握ったが、国軍のクーデターで政権が崩壊した。リビアはカダフィ独裁政権の崩壊後、分裂状態に陥った。シリアではアサド政権と反政府勢力、過激派組織「イスラム国」(IS)の三つどもえの内戦が続いている。
その中でチュニジアは、昨年1月に新憲法案が制憲議会で承認され、同10月の議会選、11、12月の大統領選を経て正式政権が発足した。今年2件の無差別テロが起きるなど治安面では不安も残るが、政治的には唯一の成功例と言える。しかし、道のりは決して平らではなかった。
独裁政権が倒れた後に政権を握ったイスラム政党と、野党の世俗勢力との対立が深刻化し、13年夏に反政府デモが続いて政治危機に陥った。この時に調停役として尽力したのが今回の授賞対象となった「国民対話カルテット」だ。約70年の歴史を持つ同国最大の労働組合と、企業家組織、弁護士組織、人権組織の4団体が憲法制定や議会選へのロードマップを作成し、政治勢力間の対話による和解を導いた。
ノーベル賞委員会は授賞理由で、イスラム勢力と世俗勢力が協力する成功例となったこと、市民組織が和解に重要な役割を果たしたことを挙げ、「中東・北アフリカで平和と民主主義の促進を追求するすべての勢力にとり励みになる」と称賛した。
なお混乱が続くシリアやリビアなどの国民に向けても、国際社会の協力を得て平和と安定を導くよう激励のメッセージを贈ったと言えるだろう。
欧州では今、中東やアフリカから紛争を逃れて今年だけで40万人を超える難民や移民が流入している。難民を生む原因の一つでもあるシリア内戦は、米露の対立で一層混乱が深まっている。
今回の授賞は、こうした問題の根本的な解決には国民が主体となる和解の努力が不可欠だということを改めて指摘した。それを支援する国際社会の努力もまた問われているのは言うまでもない。