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介護施設増設 地域福祉も忘れずに

 親の介護のために仕事を辞める人は年間10万人に上る。安倍晋三首相は「新三本の矢」で介護離職ゼロを打ち出し、特別養護老人ホーム(特養)などの介護施設を増設する方針を示した。しかし、現在介護現場が直面しているのは働き手不足だ。いくらハコモノを作っても働く人がいなくては意味がない。地域で住み続けられる総合的な戦略が必要だ。

     特養の入所待機者は2013年度に約52万人を数え、人口の多い団塊世代の高齢化とともに今後10年間でさらに増えると見込まれている。特に首都圏を中心とした都市部では要介護の高齢者が急増する。独居の高齢者が多いのも都市部の特徴だ。

     自宅で暮らす高齢者を訪問医療や看護・介護で支える「地域包括ケア」を厚生労働省は進めている。家族や近隣の支え合いがある地方はいいが、都市部では自治体の対応の遅れもあり、高齢化のスピードに在宅ケアだけでは対処できないことが懸念される。在宅ケアの先進国であるデンマークでも、首都コペンハーゲンに最近300床以上の大規模介護施設が建設されている。

     ただ、わが国の介護現場は深刻な働き手不足に直面しており、空き室があってもスタッフが確保できず、新規の入所を断っている介護施設がある。ほかの産業と比べて給料が大幅に低いことが働き手不足の要因として、厚労省は職員の待遇改善策を進めてきた。

     ところが、今春の介護報酬改定では財政難を理由に全体で2・27%減とされた。人手不足と人件費の高騰で経営が悪化している中小の介護事業所は多い。今年1〜6月の介護事業所の倒産は前年同期の5割増で、介護保険が導入されて以来最悪のペースだ。最近は建設や金融など他業種が介護事業に乗り出す例も多いが、認知症や終末期のみとりなど専門性が要求されるケアが提供できないため入居者が集まらず、経営が行き詰まるケースもあるという。

     介護離職ゼロを目指すのであれば、まず人材確保と質の高いケアを提供できる事業所の育成が必要だ。介護と仕事が両立できるよう介護休業制度も利用しやすいものに改善しなければならない。在宅ケアをおざなりにしてハコモノ増設に走ると、潜在的な需要を刺激して入所待機者が増えるという悪循環を招くだろう。

     地域包括ケアや人材確保を厚労省が進める一方で、財務省は社会保障費を抑制し、安倍首相はハコモノ増設を打ち出す−−。最近の安倍政権の社会保障政策はどこかちぐはぐだ。都市部の要介護高齢者をどうするかは喫緊の課題だが、もっと整合性の取れた政策立案と推進体制が必要ではないか。

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