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「南京虐殺」登録 反論にも節度が必要だ

 中国が申請した旧日本軍による南京事件に関する資料が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録されることが決まった。

     過去の記憶の価値を見つめ直し、学ぶことは大切だが、国ごとに評価が異なる歴史の記録をどう扱うべきか、改めて考える必要がある。

     世界記憶遺産は、重要な文書や絵画などの保存を目的に1992年から事業が始まった。フランスの人権宣言やオランダの「アンネの日記」が登録されている。日本でも関心が高く、第二次大戦後のシベリア抑留者の引き揚げ記録「舞鶴への生還」と京都市の国宝「東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)」が今回登録されることになった。

     南京事件の登録資料は、生存者の日記や写真フィルム、南京軍事法廷の判決など。中国側は「虐殺、性的暴行、放火、略奪を含む犯罪行為を正確に記録している」と主張する。

     日本の外務省は「完全性や真正性に問題がある」と、中国とユネスコを批判する談話を発表した。

     南京事件は、長らく日中間などで論争の的になってきた。

     2010年に報告書を出した日中歴史共同研究でも、虐殺行為に及んだ日本側に責任があることでは一致したものの、犠牲者数について中国が三十余万人、日本は20万人を上限に4万人、2万人などの推計があると主張して、平行線をたどった。

     被害者の具体的な人数には諸説あり、正しい数を認定することは困難というのが日本政府の見解である。菅義偉官房長官は「中国はユネスコを政治的に利用している。過去の一時期における負の遺産をいたずらに強調し、遺憾だ」と批判していた。

     登録決定を受けて、さらに菅氏はユネスコ分担金の停止・削減を検討するとともに制度の透明性を求める意向を示した。14年の日本の分担金は約37億円(11%)で、米国が支払い停止中のため最大となっている。

     「心の中に平和のとりでを築かなければならない」。憲章でそう述べ、教育文化の振興を掲げるユネスコに感情的な対応をするのはまずい。

     分担金の見直しは行き過ぎだし、運営に注文をつけるといった反論のあり方にも節度が必要だ。

     南京事件の残虐性を軽んじるような主張をすれば、逆に日本の国際的な地位を傷つけかねない。専門家に議論を委ね、歴史の政治利用をやりにくい環境をつくる方法もあるのではないか。

     世界遺産登録を巡っては、この夏長崎県の軍艦島など「明治日本の産業革命遺産」の歴史的な位置づけで日本と韓国がもめたこともあった。

     グローバル化の中で過去を複眼的に捉えながら、日本なりの主張をどう展開するか。政府は先を見据えて知恵を絞ってもらいたい。

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