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TPP 新「貿易立国」の姿描け

 アジア太平洋地域で世界最大の自由貿易圏が誕生する。

     環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉が大筋合意に達した。これを礎にして、域内の発展につなげてほしい。

     日本にとっても意義は大きい。人口減で内需が伸び悩む中、成長著しいアジア太平洋地域の活力を取り込む基盤が整うからだ。

     安倍晋三首相は6日の記者会見で「TPPは私たちの生活を豊かにする」と強調した。これからはTPPをどう生かすかが問われる。

     来年夏の参院選を控え、焦点となるのは農業対策だ。政府はばらまきに走らず、農業の競争力強化に本腰を入れるべきだ。

    活力取り込んで成長を

     TPPは貿易や投資の自由化だけではない。サービス産業や知的財産権なども含めた幅広い分野で、高度で包括的なルールを確立し、「21世紀型の経済統合」と呼ばれる。

     工業製品は99・9%の品目で関税を最終的に撤廃する。日本の主力産業である自動車などで輸出拡大の追い風になりそうだ。

     新興国は、小売りや金融で外資の参入規制を緩和し、公共事業も門戸を広げる。日本のコンビニ出店などが加速し、インフラ整備でも日本企業の商機が増すはずだ。

     一方、日本が輸入する牛肉や豚肉などの関税が大幅に引き下げられる。海外の安い農産物が日本に出回ると、家計にプラスに働く。

     資源の乏しい日本は「貿易立国」として経済成長を遂げてきた。近年は韓国が米欧と自由貿易協定(FTA)を結び、日本は出遅れた。TPPは競争力回復の契機となる。

     ただ、自動車などの関税撤廃には時間もかかる。日本企業は技術力や生産性をさらに向上させ、市場を開拓する努力も求められる。

     アジア太平洋地域の経済統合に道筋をつける意味も大きい。欧州連合(EU)などと違って、各国の経済や社会構造が大きく異なり、統合は難しいとみられていた。

     日米中や東南アジア諸国連合(ASEAN)などで構成するアジア太平洋経済協力会議(APEC)は域内全体の自由貿易圏創設を目指している。TPPはその土台と位置づけられており、TPPが拡大すれば、域内の一段の活性化につながる。

     これに対し、中国は、日韓やASEAN各国などによる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足を置いて交渉し、アジアの貿易ルールへの影響力強化を目指している。

     だが中国は大幅な市場開放や「法の支配」の徹底に消極的だ。オバマ米大統領がTPP合意後、「ルールを中国のような国に書かせるわけにはいかない」と述べたのは、貿易ルールは自由度や透明性が高くなければならないという意味だろう。

     中国は世界第2の経済大国である。アジア太平洋地域の発展は中国抜きでは考えられない。TPPは排他的な経済圏ではないはずだ。存在感を高め、公平で透明なルールに基づく高水準の自由貿易圏に中国を取り込んでいくべきだろう。

     TPPが国内農業に打撃を与えることは避けられない。政府はこれまではコメや牛・豚肉などを「聖域」とし、高い輸入障壁で国内農業を保護してきた。

    攻めの農業へ転換急務

     しかし、高齢化に伴う農業の衰退は著しい。高関税で保護する「守り」だけでは、未来は開けない。TPPを「攻めの農業」に転じる好機と捉えるべきだ。

     政府は農産物の輸出倍増を掲げる。TPPでは米国が日本産牛肉の無関税輸入枠を設ける。海外の和食ブームも生かし、農産物のブランド力と競争力を強化すべきだ。

     そのためには農家・農地の集約による大規模化など、農業の収益力を高める政策の推進が必要だ。政府は、各農家の創意工夫を引き出すため、農協改革に着手したが、組織いじりに終わらせてはいけない。

     来年夏の参院選をにらみ、農業関係予算の大幅増を求める動きが強まるかもしれない。政府は1993年のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)でコメ市場を一部開放し、農業対策費として6兆円をつぎ込んだ。だが、大半がばらまきに終わった。激変緩和措置は必要だが、その二の舞いを演じてはならない。

     政府は協定への署名を経て、国会での承認手続きに入るが、農水族議員らの反発が予想される。国民の間には「農産物の輸入増に伴い、食の安全基準が低下する」「米国が混合診療の全面解禁を要求し、国民皆保険が崩れる」といった懸念も残る。

     政府はこれまで、交渉参加国に課される守秘義務を理由に情報を十分開示してこなかった。今後は国会審議などを通じてTPPの影響を丁寧に説明し、理解を得る必要がある。

     政府はTPPを成長戦略の柱と位置づけてきた。だが、合意はスタートラインに過ぎない。日本の国益と安定成長にどうつなげるのか。アジア太平洋地域の今後の経済統合にどのような戦略で臨むのか。

     首相は「TPPは国家百年の計」と語り、総合対策本部を設置する意向を示した。TPPを生かして築く日本の将来像を早急に示すべきだ。

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