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大村氏に医学賞 自然の力生かした偉業

 土壌中の微生物が作り出す化学物質から寄生虫に著効のある医薬品を発見した功績で、大村智(さとし)・北里大特別栄誉教授と米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士にノーベル医学生理学賞が贈られることが決まった。マラリアの治療薬の開発で受賞が決まった中国人科学者とともに、寄生虫の感染症に苦しむ途上国の人々への恩恵となる成果だ。

     天然物を元にした創薬はペニシリンの発見以来古くから発展してきた分野だ。その中にあって大村氏の業績は質量共に群を抜いている。大村氏が都立高校の夜間部の教師から一念発起して大学院で学び直したという経歴も成果を身近に感じさせる。日本がこれまで優れた成果を上げてリードしてきた分野でもあり、受賞を心から喜びたい。

     寄生虫による感染症はアフリカや南アジア、中南米などに多く、世界の人口の3分の1を苦しめているといわれる。中でも大村氏が貢献したのは、失明の原因となるオンコセルカ症(河川盲目症)や、リンパ系フィラリア症(象皮病)の治療法の確立だ。

     大村氏は1970年代から各地で土を採取し、微生物が作る抗生物質など有用物質の分離を続けていた。その中から、米製薬会社のメルク社の研究所に当時所属していたキャンベル博士が家畜の寄生虫病に効果のある物質を確認した。静岡県の土壌にすむ微生物が作る物質で、エバーメクチンと名付けられた。

     大村氏はメルク社と共同でエバーメクチンの構造を変えたイベルメクチンを開発、これが人のオンコセルカ症などの特効薬になった。今ではこれらの寄生虫病の撲滅につながると考えられている。自然の恵みが世界の保健衛生に大きく貢献したことを思うと、地道な研究の重要性を改めて感じる。

     ただ、大村氏は単調な作業を繰り返したわけではない。世界的な抗生物質探索競争の中で、まず、動物に効く薬をターゲットとした。畜産業界の利益になるだけでなく、ここから人の薬に結びつくものが出てくると考えたからだ。市場に出ていない抗生物質の系統をターゲットとしたこととあわせ、先見性や独創性があったといえる。

     大量培養の方法などを独自に開発したことも重要な発見に結びついた。製薬企業との産学連携も功を奏した。地道な研究と独創性、産学連携のいずれもが欠かせなかったといっていいだろう。

     最近の日本の研究開発では成果主義が強まっている。その結果、短期間で成果の出る研究が求められ、地道で独創性のある研究がしづらい環境になっている恐れがある。今回の受賞をきっかけに、再考したい。

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