コメの補助金 農業の強化を妨げるな
今年の新米が、前年より高めの値段で出回り始めた。政府の生産調整(減反)目標が達成され、需給が引き締まったからだ。
政府が飼料用米に対する補助金を増やして「転作」を促した結果だが、米価の高止まりは生産性の低い零細農家の温存につながり、担い手への農地集約を妨げかねない。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの貿易自由化もにらんで農業強化を図るためには、補助金政策の見直しが必要だ。
農林水産省が発表した2015年産の主食用米の生産量見込みは前年より41万トン少ない746万トンになった。生産過剰は回避されるとの見通しが価格の上昇につながっている。
生産量が抑制されたのは作付面積が、40年以上にわたる減反政策の歴史で初めて政府の減反目標を達成したからだ。その背景にあるのが家畜の餌にする飼料用米への補助金増額である。
安倍政権は、18年度をめどに減反政策を廃止する方針だ。補助金増額はその方針と抱き合わせで打ち出され、減反廃止に先立って実行された。飼料用の価格は、主食用の1割程度だが、主食用から転作した生産者には主食用の価格に匹敵する補助金が支給される。
主食用は供給過剰になれば値段が下がるリスクがあるが、補助金は一定しているため所得の安定も図れる。農協のPRもあって転作が増え、飼料用の生産量は前年の2倍以上の40万トン余りに達する見通しだ。
しかし、そもそも減反を廃止するのは農業を強化するためだろう。コメの生産を農家の自由に任せ、供給が増えてコメの値段が下がれば、生産性の低い零細農家の退場が促される。そうして出てきた農地を担い手に集約すれば一段の競争力強化を図れるからだ。
しかし、飼料用への転作が増えて主食用の生産が抑制されるようでは、競争原理は働かない。高い米価が維持され、生産性の低い農家が存続すれば、農地集約も進まない。
政府は分散している農地を集約するため、昨年度から都道府県に農地中間管理機構を設置したが、集約した農地は目標の1割にも満たないのが現状だ。
国内農業は高齢化、後継者難が深刻だ。今後は、貿易自由化に伴って海外との競争も厳しさを増すだろう。とりわけ零細な家族経営が多いコメ農家の生産性向上は、避けられない課題だ。そのためには減反は廃止する必要がある。
ところが、その一方で減反と同じような効果がある補助金を増額したのでは農業の強化は進まない。アクセルとブレーキを同時に踏むような政策は見直すべきだ。