マイナンバー 国民の信頼がカギ握る
国民一人一人に固有の番号を割り振るマイナンバー制がいよいよ始まる。来月下旬にかけて、12ケタの番号を記した通知カードが各家庭に郵送で届くことになっている。
実際に行政手続きなどで番号を使用するのは来年1月以降だが、それに先立ち、企業が従業員に本人や扶養家族の番号の報告を求めるなど、職場でもマイナンバーの取り扱いが本格化する。
とはいえ、十分理解が進んだとはまだ言い難い新制度だ。住民票記載の住所と別の場所に住んでいるため、番号が手元に届かないケースなど、トラブルの多発が心配される。導入時の混乱や不安につけ込んだ詐欺など、犯罪も警戒が必要だ。政府や自治体には、情報の提供や、トラブルが起きた際の対応などに万全の体制で臨んでもらいたい。
マイナンバーがどのような場面で必要とされ、何に利用されるかは、今後、段階的に変わっていくとみられる。当面は、各種の行政手続きがどの程度便利になるかが注目点だが、将来的には、限られた社会保障財源を、本当に必要とされているところへ重点的に配分する上で、十分活用されなければならない。
銀行の預金口座と番号をつなぎ、行政が所得や資産の実態をより正確に把握できるようになれば、低所得者層に限定した手当の給付などが可能になるはずだ。
そのためには、まずマイナンバーが国民にあまねく行き渡り、信頼できる制度として社会に根付く必要がある。わかりにくいもの、危なくて信用できないもの、といった負のイメージが浸透すれば、本来の目的を達成することなく中途半端な活用に終わってしまいかねない。
政府は個人だけでなく、企業、特に中小、零細事業者に対する説明も念入りに行う必要がある。同時に企業も社会の一員として、この制度を育てていく役目を担っている。従業員の番号情報の漏えいなどにより、利用者の不信を招くことがあってはならず、責任は重大だ。
マイナンバー制をより広く活用することで、新たなビジネスの成長につなげようという動きも政府や経済界の中にあるようだ。来年1月以降、希望者に交付されるマイナンバーカードにクレジットカード機能を持たせるなど、用途の拡大を成長戦略に盛り込む検討がなされている。
しかし、利用範囲の拡大をやみくもに急ぐより、まずは社会保障分野での活用が定着するよう、信頼獲得を優先すべきだ。身体的に困難を抱えた人、情報技術に不慣れな高齢者、家庭内暴力を逃れて暮らす人など、特別な配慮を必要とする人たちがいることも忘れてはならない。