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高校生の教材 出産の教育は偏りなく

 文部科学省が内閣府と連携して作製・配布した高校生向け保健の副教材に批判の声があがっている。「間違った知識で、若年での妊娠・出産に誘導する内容」との指摘で、大学教員などのグループが使用中止・回収を申し入れた。

     文科省は一部の誤りを認めたが、問題のある記述やデータの使い方は残されている。折しも、菅義偉官房長官が福山雅治さん・吹石一恵さんの結婚を機に「ママさんたちが『一緒に子どもを産みたい』という形で国家に貢献してくれればいいなと思う」と発言している。

     もちろん、妊娠・出産の正しい知識は必要だ。高齢でも思い通りに妊娠・出産できるとの思い込みがあるとすれば困る。しかし、子どもを持つのは国家のためではないし、持つ・持たないは個人の選択だ。政府が少子化対策を考えるなら、子どもを産み育てやすい環境を整えることが先決ではないか。

     副教材の問題が明らかになったきっかけは、「女性の妊娠のしやすさと年齢」の関係を示すグラフだ。22歳をピークに急激に低下するグラフが掲載されていたが、引用元のグラフには明確なピークがなく、低下もゆるやかだった。しかも、もとをたどると半世紀前の海外の2集団のデータをあわせたもので、女性の生物学的な妊娠しやすさそのものを示すデータではなかった。

     文科省は指摘を受け、グラフの数値は訂正したが、そもそも、生物学的な妊娠しやすさと誤解されるグラフを使うことが妥当なのかを考え直すべきではないか。

     さらに、大学教員らのチェックで浮かんだ複数の問題点も見逃せない。たとえば、「子どもはどのような存在か」を示すグラフでは、全体の平均であるかのような記述をしつつ、未婚・既婚・子どものある・なしなどに分けて集計したデータの中から子どものいる既婚者だけのデータが使われ、「生きがい」などと考える人の割合が誇張されていた。

     「不妊で悩む人が増加している」という項目に1人が複数回受ける場合がある体外受精の件数を使ったり、女性だけに絞ったライフプランの図を掲載、20代で結婚、出産の計画を立てることを前提とした内容になったりしているのもおかしい。同性カップルなど性的マイノリティーや、不妊の人々への配慮も足りない。

     文科省は「明確な誤り以外は見解の相違」とした上で、改訂の際に再検討したいという。であれば、「見解の相違」も公表し、教育の現場で論争の中身まで教えてはどうだろうか。意見の多様性を認めることの大切さや、データの読み方を教えることにも役立つはずだ。

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