【特集】もっと寝ようよ!日本人
国の将来、自分の人生も左右
2016/5/30 16:00 | 5/30 16:01 updated
スリープクリニック理事長の遠藤拓郎医学博士が提唱する「働く人の4分類」
東京・渋谷のIT企業「GMOインターネットグループ」に設けられている昼寝スペース
経済協力開発機構(OECD)が2014年に発表した各国の睡眠時間調査の結果
男性サラリーマンにアドバイスする快眠セラピストの三橋美穂さん=東京都内 「夜寝付けない」「朝起きられない」「昼眠い」―。眠りに関する悩みを抱える人が増えている。20代から60代の2千人を対象にした調査では、睡眠に不満がある人の割合は65%以上に上る。問題は個人レベルにとどまらない。睡眠不足が引き起こす経済損失は年3・5兆円。国際機関の統計では日本人は世界で2番目に寝ていない。快適な睡眠を取り戻すことは“国家的な課題”とすら言える状況だ。
▽酒気帯び運転並み
ブラインドを下ろした薄暗い部屋にビーチチェア風の寝台と心地よいヒーリングミュージック。東京・渋谷にあるIT企業「GMOインターネットグループ」では昼休みの1時間、会議室を昼寝スペースとして開放している。始まったのは4年前。約30台の寝台の8割が埋まるという。
週に2度程度来るという男性(47)は「午後の作業効率が2、3割アップする」。営業担当の男性(37)は昨年子供が生まれ育児で寝不足気味になり利用し始めた。「以前は眠気覚ましの薬を飲んでいたが、だるさは残った。今は午後イチからすっきり」と笑顔を見せた。
日大の内山真教授の研究では、睡眠や眠気が引き起こす経済損失は作業効率低下、欠勤・遅刻、交通事故などで合計約3兆5千億円。厚生労働省は起床後15時間を超えると、酒気帯び運転と同程度まで作業効率が低下すると指摘している。
▽寝て「勝ち組」に
戦後短くなる傾向が続いていた日本人の睡眠時間が「最近少し長くなっている」と語るのはスリープクリニック理事長の遠藤拓郎医学博士(53)。背景はバブル崩壊後の1990年代半ばから進んだ経済構造改革。企業は終身雇用・年功序列から能力主義にシフト。コストカットで無駄な仕事や残業は減り、結果的に「寝る時間的余裕は増えた」。
ではなぜ睡眠で悩む人は増えるのか。博士は働く人を(1)仕事ができ睡眠(の質)が良い(2)仕事ができ睡眠が悪い(3)仕事ができず睡眠は良い(4)仕事ができず睡眠も悪い―の4タイプに分類。「昔は眠れなくて病気レベルの人がクリニックに来たが、今は正常と病気の間の(2)の人が来る」とし「睡眠の質を上げないと仕事の成績も上げられないという必然に迫られている人が多い」と説明した。
博士の“近未来予測”は示唆的だ。「効率至上の潮流が変わらないなら、よく寝ていい仕事をし勝ち組に入る人と、そうでない人がはっきりする。全体で言えば数が多い(2)の人が(1)に行くか(4)に落ちるか。それによって日本の将来が変わる」。
▽この世の終わり
睡眠に関するさまざまな問題の解決に取り組むTWO社は昨年2千人を対象に調査を実施。睡眠満足度が高い人のうち人生に満足している人は62%強、逆に睡眠に不満がある人の人生満足度はわずか約13%、「仕事への満足」や「自分への自信」に関しても同様の回答が出た。「脳が若返る快眠の技術」などの著書がある快眠セラピスト三橋美穂さんは「睡眠不足に陥ると自己肯定感が低くなる」と指摘した。
「明日この世の終わりが来ると分かっていたら寝る人はいませんね」と三橋さん。「人間は未来があるから眠るのです。寝る時は『あ~疲れた』ではなく『明日のために』という意識が必要」と訴えた。
「そう言われても…」と思う人も多いだろう。ドコモ・ヘルスケアの調査では「最もぐっすり眠れないのは仕事の忙しい会社役員や経営者」という結果も出ている。三橋さんはきっぱりと言う。「質、量とも仕事が増える働き盛りにどういう睡眠をとるかで、その後の人生が左右されます」。(共同通信=松村圭)