※本記事では、公開中/DVD発売中の「ガールズ&パンツァー劇場版」のネタバレおよび一部映像の引用を含みます。ご注意ください※
巷で大人気のガルパンことガールズ&パンツァー、劇場版のブルーレイ/DVDが発売になりました。
僕もにわかガルパンおじさんの一人です。「人気あるみたいだな…」とミーハー心からAmazonプライムでTV版を一度見たら気に入ってしまい、その後劇場版を視聴、TV版も何度も見返しています。TV版・劇場版のサントラは出勤時のテンションUPに欠かせませんね。
さて、ガルパンは茨城県大洗町のまちおこし成功例として語られることが多くあります。街中の描写などが、正確かつ愛に溢れているそうですね。また戦車をテーマにしていることもあり、ミリタリー方面の監修が非常に手厚いことでも知られています。僕はそちらの知識がまったくないのですが、造詣が深い方でも楽しめると評判です。
そこでこの記事。2016年5月6日に、劇場版DVD発売を記念した"ミリタリー生コメンタリー付き上映会"が開催されたことを報せるものです。
記事を読んでからずっと、僕はこのコメントが気になっていたんです。
・大学選抜チームとの試合は、フェリー“さんふらわあ”に乗船して北海道に来ている。
・植物などは、北海道の植生をきちんと意識している。
劇場版の舞台のひとつは北海道です。大洗-苫小牧間を就航しているフェリー「さんふらわあ」が劇中に登場することからも、決戦の舞台が北海道であることが示されています。
実際のところ、植物の描写はどうなっているんでしょう? 届いたDVDを見ながら確認してみました。
そう、我こそは北海道植生警察である!
(ちょっと前は北海道淡水魚警察だったくせに…:自然描写が気になって「ゴールデンカムイ」が楽しめない - 紺色のひと)
シーン1.あさがお中隊と樹林
順を追ってみていきましょう。まず、サンダース・知波単を中心として構成されたあさがお中隊が林道を進むシーン。
アリサ車と広葉樹林
樹皮が白っぽい広葉樹がまばらに生え、林床(りんしょう:いわゆる地面に近いところに生える「下草」のこと)には葉の大きな植物が見えます。
この広葉樹はケヤマハンノキでしょうか、そして林床に生えているのはアキタブキです。道内ではいたるところで見ることができる一般的な種で、特にケヤマハンノキやシラカンバは二次林(一度荒地になったところから再び再生した林)でよく見られる、成長の早い樹木です。アキタブキはやや湿ったところに生える植物で、これらと併せて道内の典型的な若い樹林構成と言えるでしょう。
こちらは序盤、たんぽぽ中隊の戦闘を林内からみた画。
低地での戦闘
手前の細い樹木はシラカンバ。特徴である白い樹皮が表現されています。林床にはアキタブキも見えますね。
続いて、西さんらが進むシーン。
西車から進行方向
これは針葉樹、それも植林された人工林です。一頃林業が盛んだった北海道では、カラマツやトドマツといった針葉樹の植林地をあちこちで見ることができます。
この画の木立ちを見ると10~20年生の比較的若いカラマツのようですが、樹皮は白っぽく横向きのまだら模様になっています。これはカラマツではなくトドマツの樹皮に特徴的な色ですね。
また、針葉樹下にアキタブキが繁茂していますが、道内の針葉樹林林床ではあまり湿った環境になることはなく、ちょっと違和感があります。
シーン2.カールへの突撃
続いて、どんぐり小隊がカール自走旧砲へアタックを敢行するシーンをみてみましょう。せっかくだから、Säkkijärven polkkaをBGMにして。
Säkkijärven polkka
継続高校・ミッコの運転するBT-42
BT-42がササ林をぶっちぎってゆきます。北海道には孟宗竹をはじめとする太い竹が自然分布しておらず、チシマザサ、クマイザサ、ミヤコザサ、スズタケといったササの仲間が広く繁茂しています。ここでのササは葉が白く縁取りされて表現されていますね。
ササ林でスピードを上げるBT-42
wikipedia先生によると、BT-42の全高は2.7mだそうです。スズタケにしては低く、チシマザサかミヤコザサ……にも思えますが、正直なところササ属は変異が大きく、種の同定には分布箇所の情報も欠かせないので、確定できません。
なお、資料としては「北海道ササ分布図」というのも存在します。その他の情報から試合箇所の特定のお役に立つかわかりませんがリンクを示しておきますね。
北海道ササ分布図,林業試験場北海道支場,1983
また、カールが配置されている箇所は、糠平湖にあるタウシュベツ川橋梁がモデルになっているように思います*1。
果敢に打って出るどんぐり小隊
この遠景で樹林が見えるシーンでは、広葉樹林に一部濃い緑の高い木が混じっているのがわかりますね。これはトドマツ(もしくはエゾマツ)の高木と考えられ、自然度の高い北海道の樹林でよく見られる状況です。これも実に北海道らしい樹林表現と言えます。
シーン3.高地の草本類
一方、わからなかったものもあります。アンツィオのCV33が走るシーンや、黒森峰・プラウダ連合のひまわり中隊が高地へ向かうあたりで、高地の草が表現されている部分があります。
「外せばいいじゃないッスか、そのウィッグ」「地・毛・だ!」
二〇三高地遠景
手前に紫や黄色の花がぼかして描かれていました。イネ科の植物が生えているのはわかるのですが、花の種類までは同定できませんでした。紫色のはヤナギランかエゾミソハギかもしれない。
総評
描写の限界もあるでしょうが、ちゃんと「北海道の植生」が表現されていたなと面白く視聴できました。「きちんと意識している」とコメントが出るだけあります。劇場版の背景スタッフのみなさま、本当にお疲れさまでした。
北海道の植物って、日本国内でもなかなかに独特です。僕は道内の山の中で仕事をしていた時間がなんぼかあったせいもあって、ある程度特徴的な部分はつかめたかと思います。お読みのみなさんが北海道に行かれるとき、例えば新千歳空港で着陸する前や、JRの車窓……窓の外を見てみてください。本州以南とはまた違った雰囲気に気づくと思います。
植物、特に樹木は、その土地を構成する重要な要素です。生えている木の種類から、その土地の歴史的な利用について思いをはせることもできます。「なんか違うな」「知ってる森と何が違うんだろう」など、自然を見るときの新たな視点のひとつになれば嬉しく思います。
おまけ
TV版での聖グロリアーナとの練習試合のシーン、聖グロチームをおびき出そうとするⅣ号を他チームが待っている岩場で、ジュウイチという鳥のさえずりが聞こえています。森林性の鳥なのに岩だらけの地形で聞こえるなんてなー、と思ったのでした。
ジュウイチの鳴き声
*1:ここを実際に舞台としていると考えれば、決戦の地が上士幌町であるとも言えるのかもしれませんが、それはまあ置いておいて。