田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
伊勢志摩サミット閉会直後、安倍首相は麻生財務相、自民党の谷垣幹事長ら政権幹部に消費増税の再延期を行う意図を伝えたと有力メディアが伝えている。再延期の期限は二年半後の2019年後半までである。これに対して、一部の報道では2014年の延期の時のように衆議院解散をして民意を問うべきだとする意見や、社会保障対応のための確実な財源確保の点から難色を示す意見もあったと伝えられている。またすでに伊勢志摩サミットにおける首相の「リーマンショック級」の経済危機的状況であるとする現状認識に対して、野党やアベノミクスに批判的なマスコミや経済評論家などから異論が出ている。要するにいよいよ、アベノミクスを支持する勢力と増税勢力がその本性をむき出しにした政治闘争を繰り広げる状況になってきたといっていい。ちなみに後者の後見人は、もちろん財務省であり、私見では日本の停滞を演出してきた最悪の組織のひとつである。
実際に首相が本当に消費増税を「再延期」するのか、あるいは「凍結」や他の政策オプションを考えているのか、それは不明であり、本人が直接国民に語るまでその判断を慎重にしておくのが、我々の正しい態度だろう。そうしないと政局を操作したいマスコミや政党、官僚の思惑通りになる可能性がある。消費税問題と絡んで報道されることが多い、衆参同日選の可能性をめぐる問題も同じ態度をとるのが無難である。
ところでまずは、伊勢志摩サミットの経済政策上の成果をみておきたい。国内外の報道をみるかぎりその焦点は、安倍首相の積極的な財政政策への各国協調のとりまとめに尽きる。アベノミクスに批判的なマスコミの記者たちや政党関係者などには、世界的な経済危機にあるとする首相の現状認識や、それを裏付けるとされるデータ(コモディティ価格の下落幅など)が、作為的であるという批判を展開している。
首脳宣言を読んだかぎりでは、参加国が共通して経済的危機的なものと現状をみなさなかったことは明白である。だが他方で、安倍首相はその目論見である、世界経済低迷に対応する積極的な経済政策の出動が必要である、という「国際公約」を獲得したこともまた疑うことができない。