「圧倒的な勝ち組になる効率のいい考え方と仕事の仕方」を読んだ。
Qさまでお馴染みの学力女王「天明麻衣子」さんの著書だ。
偏差値の高い菅野美穂といった趣の顔立ちで、個人的には「蹴られたい美女」トップ10に入る逸材でもある。
と冗談はさておき、本題に入りたいのだが、実はこの本、Amazonのレビューでは酷評コメントも目立つ。おそらく天よりニ物を授かった天明さんへの妬みコメントであろう。
おかげで買うか買うまいか数日惑わされて迷惑を被ったので、Amazonのレビューに軽く反論したうえで、本題に入ろうと思う。
この人、「圧倒的な勝ち組」じゃないでしょ?
※Amazonレビューより引用
これについては天明さんが前書きで語っている。本人が望む望まないに関わらず、他人と比較されることは現代社会において避けられない。そこには必ず、勝ち負けがある。
どうせ勝負をしなければいけないのなら、勝ちたい。もっと思い切って言うと、「勝なら圧倒的に勝ちたい!」私はそう思っています。
本書は、天明さん自身が勝ち組の立場で書いている本ではない。優秀な人間に囲まれた環境の中で、天明さん自身が圧倒的に勝つために、これまで何を考え、具体的にどんな取り組みをしてきたかの共有本なのだ。
そもそも天明さんは勝ち組も何も、未だ戦いの途上である。
的外れな批評だと言わざるをえない。
さて、もうひとつAmazonレビューからのコメント。
1つの職場では長く続かないタイプなのかもしれないなと思いました。それを隠すために必死でなんちゃって理論武装している様子が痛々しくも感じられました。※Amazonレビューより引用
これについては「家族の病気」や「夫の海外赴任」など外的要因による転職であることが明かされている。親の介護や夫の転勤など、自分も含めた身近な人の境遇に置き換えることができ、大変興味深い項目だった。
誰しもがキャリアを断絶させられるリスクを背負いながら働いている現代において、起きたこと、これから起きそうなことに備えながら、短期の目標と中期の目標を掲げて、着実にキャリアを築かんとする姿勢は、本書の主に前半部分であるが、この部分だけでも非常に参考になると思う。
そんなわけで、個人的には読む価値アリと感じた一冊。
ぼちぼちと語っていきたい。
人生すべてを効率化する。
本書は、効率的な考え方と効率的な仕事の仕方について書かれている。
たとえば第三章。
ここでは効率的な戦略の立て方が語られている。
天明さん曰く、計画は2つ同時進行がいい。短期と中期の2本立てが良いんだそうな。それは短期の目標で眼前の課題に素早く対処しつつ、中期の目標で将来に備えることが必要だから。
というのもあるが、短期的なアプローチは即効性を重視するあまり、きつい方法になることが多い。苦しくなって挫折の原因になるおそれがある。一方で中期的なアプローチのみだと、すぐに目に見える結果が出ないのでモチベーションの維持が難しい。
だから短期と中期のMIXが効果的なんだと言うわけ。
そしてせっかく立てた計画が、計画倒れにならないために予備の計画を用意しておくことも勧めている。人生には、彼女がそうだったように、自分の力ではどうにもできない転機が訪れることがある。
プランA、プランB、プランCまで準備しておくことで、慌てることなくリカバリーが可能になるのである。さらに、計画には「ゆとり」を持たせることが大事だ。ゆとりを持たせた設計にしておくことで、プランAが実現できる可能性はぐっと高くなる。
ちなみにプランBとプランCの精度は低くていい。あくまで目標はプランAを実行することにある。大失敗しないための手を先回りして 打っておくことで、本来通したいプランAに集中できるメリットがある。
とまぁ、こんな調子で、ふだんからぼく自身「この方がよかろう」と自分なりに考えて実践していたような事柄について、自分の思考を上回るロジカルさで解き明かされている点に、ぼくは惹かれた。
本書では、食事や時間管理、家事、本の探し方、お金のかけ方などなど、仕事・プライベート問わず、日常のあらゆる物事について、天明さん流の効率化方法が提示されている。
この辺りの本質的なビジネススキル、というか処世術のような部分は、人に教えるにあたっての言語化が難しく、どう伝えれば理解しやすいのか手をこまねいているポイントでもあったので助かった。
言語化しきれていない、自分なりの処世術を見事に紐解かれた心地がしたのは、非常に痛快で貴重な経験となった。正直言って、激しく同意の連発だった。
こんなにロジカルな「家事を手抜きする理由」をぼくは聞いたことがない。
ぼくが天明さんの主張に好感を持つのは、提示される戦略が、人間の感情や体力的なキャパもきちんと計算に織り込んで設計されている点にもありそうだ。
効率のいい家事の仕方の項目では、人の目につくアイロンがけや洗濯と健康に直結する料理には注力するけど、部屋の掃除は後回しにする。だって少々のホコリが出たって、生活には何の影響もないんだもん、とロジカルに開き直る(選択と集中)天明さんの論に、ふっと人間らしさが垣間見えて笑ってしまった。
家事なんて探そうと思えば無限にありますが、時間は限られています。適当なところで折り合いをつけなければいけません。
そこで、
「優先」
「機械化」
「妥協」
の3つに家事を分類し、人力でやりきるところと機械を使うところ、手を抜くところを明確にわけているのである。だから妥協する部分については、
●ホコリ取り⇒気になるまで行わない
●シーツ・タオルの交換⇒汚れたら行う
●ごみ出し⇒溜まったら行う
と、なる。
なんてこった。見かけ上のやっていることは、ふつうの主婦とまったく同じである。
ただし、天明さんとふつうの主婦の圧倒的な違いは、無計画の結果偶然そうなるのではなく、一つ一つの行動に裏付けがあり、体系立ててタスクの取捨選択をしている点にある。
さきほどもお伝えしたとおり家事はほんの一例でしかない。日常のあらゆる物事に対して自分なりの戦略を立て、最適化を図ることが効率化、ひいては勝ち組に至るための筋道となるのである。
おそらく天明さん自身は、無意識にこのPDCAを回していると思うが、誰もがこの考え方を意識して行うことで日々のなすべきことが、随分と効率化されるはずだ。
やる気がでないことまで計算に入れて、戦略を立てる。
たとえば、興味がないけれど仕事上、どうしても身につけなければいけない知識があった場合。彼女の場合は投資銀行への就職を考えている際、業界知識を身につけるために、まずはその業界を舞台にした映画や書籍などのエンタメ作品から入ったのだという。
自分なりに面白がれるポイントを見つけて、早々に苦手意識を克服することが、効率的に学習するための第一歩になる。初めから専門書を頭に叩き込むのではなく、易しいものでざっくり全体像を把握したほうが、結果、学習も捗るという論だ。
自分のモデルとなる人物を見つける際に、偉人について書かれた書籍を読むことも有用だと主張されていた。ここでも最初は、子供向けの漫画の偉人伝がおすすめだという。ただし、しっくりくる偉人が見つかったならば、
漠然と「この人をめざそう!」と考えるのではなく、なぜいいと思うのか、どういうところに憧れているのか、きちんと分析してください。
と言う。
入口は易しく。徐々にハードルを高くしていき、より高みへ。正攻法の極みである。
読み始めてまもなく、天明さんに対するイメージが随分変わったように思う。
Qさまで見る天明さんとのギャップもそうだが、ぼくのイメージする賢い人像と違っていたことに、とても驚いた。
ぼくの賢い人のイメージは、たとえば法律の勉強ならば、いきなり六法全書をペラペラ読み進めて、一読した時点で大体記憶できていた、というもの。
「効率よく学習するための戦略」などなくても「エンジンの良さだけで勝てる人=頭のいい人」だと思っていたので、そういう意味では、天明さんの賢さは後天的な努力によって獲得した割合もそれなりに高いのかもしれない。
天明さんは完璧超人じゃない。だからこそ、ぼくたちも参考にできる。
本書では、天明さんの地方局アナ時代の失敗談も紹介されている。新曲のタイトルを間違えたり、ラジオニュースを1分早く終了しそうになるなど、なかなか気持ちのいい失敗ぶりだ。
さらに驚いたのは、宮城県の特徴的な地名を覚えるのに苦労した、と書かれていた点。これだけ聡明な人でも、何かを覚えるのに苦労することなんてあるのかと衝撃を受けた。
読み進めるうちに、ひとつ確信に至ったことがある。天明さんは確かに人並みより頭はいいだろうけど、決して天才肌ではない。
天明さんは、おそらく頭の使い方がとても上手い人なのだ。パソコンで言えば超イケてるOSがインストールされた高性能PCである。決してスーパーコンピューターのような反則じみた処理速度があるわけではないのだろう。
天才ではないからこそ、彼女自身、楽しくスムーズに学習する方法論が必要だったし、世間の慣習に習った論の立て方や処世術に身を助けられたこともあったのだろう。だからこそ、天明さんの語りは感情的な面も含めてとても共感できる。
完全再現できないまでも、自分の血肉として受け入れてもきっと拒否反応は起こらないと思えるビジネス書は貴重だと思う。
ロジックを振りかざさない
タイトルにあるように本書では「効率のいい考え方」「効率のいい仕事の仕方」について数多く語られている。
ビジネス本で語られる「効率」にありがちなのは、完璧超人にしかできないような途方もない事例の提示。ロジック優先で周囲との摩擦もいとわないようなマッチョな生き方。
だったりするけれど、天明さんの主張はとても人間的に思える。
たとえば、天明さんは作中で、近年は否定的に語られることも多い「仕事関係者との飲み会」についても一部肯定的に表現していたりする。
人とのつながりで得られる情報もあるし、いざというときに頼れるような人間関係を築くには、フェイストゥフェイスの関係も有用だと説いている。実際、自らも仙台のNHKに転職する際に、そうしたご縁の援護射撃に助けられたとも。
ただし、飲み会OKと言っても、ただ飲んで食べてエンジョイするのではなく、目的意識はしっかり持った上で。時間をともにする相手も選ぶ必要がある。とあるのは、フレキシブル&ドライという、天明さんの信条によるものなのだろう。
世間の慣習はきちんと受け止めたうえで、「じゃあ上手くやるにはどうする?」という柔軟な発想こそが、天明さんの持ち味であるように思える。
ロジックを振りかざしていたずらに敵を作るようなビジネス本とは一線を画した、しなやかなロジカルシンキングこそが、天明麻衣子の魅力であり強みなのかもしれない。
*
効率的な考え方。
効率的な仕事の仕方。
人の感情を無視して、理屈を語るのは簡単だ。
起きている現象を無責任な立場から批評するのも容易い。
ぼくが本書に強く共感するのは、彼女自身が自ら本書で公開した理論を実践する第一人者であるという点に尽きる。
彼女は、人生の不条理さや人間のちょっぴりダメな部分を受け入れたうえで、じゃあどうすれば上手くいくかを徹底的に考え抜いてきた。だからこそ、本書で示されるノウハウの再現性はとても高いのだろう。
Qさまのテレビ番組内では、学力女王としてどちらかといえばヒール(悪役)を務める彼女だが、本書から受けた印象はまったく異なる。
思いやりがあって、人間味がある人。
礼儀正しい、常識ある人。
クールな学力女王の、素顔を垣間見れる一冊でもあった。