僕の手元に一冊の雑誌があります。ダイヤモンドZAi(ザイ)2016年7月号連続増配高配当株特集です。



この特集を読んで(日本株も、いい時代になったなぁ)と、しみじみ感じました。

僕が証券界に入ったのは1980年代後半で、1年足らずで当時勤めていた準大手証券を辞めました。

辞めた理由は二つあって、まずワイフが「アメリカに帰りたい!」と言いだしたからです。ワイフのお父さんが急死した直後でもあり、いきなりコロンビア大学の大学院から届いた合格通知を見せられて、「ほらね、ちゃんと大学院にも合格しているし……」と詰め寄られたわけです。

もうひとつの理由は(僕としては、こちらの方が大きな動機でしたが)、当時の日本株は、本当に、煮ても焼いても喰えないような酷いオーバー・バリュエーションで取引されており、(これを自分の生業にするのはキツイな)という危機感を持っていたからです。

当時の日本市場は株価収益率(PER)で50倍を超えた水準で取引されており、一方、米国株は14倍でした。配当利回りは……無いに等しかったです。

ベテランの先輩からは「昔は市中金利より株式の配当利回りの方が高かったんだ。株というものはね、ほんらい配当利回りを手掛かりに投資するものなのだよ」と教えられたのですが、電卓を叩いてみると、市中金利の水準に照らして、配当利回りの魅力が勝つ水準まで株価が訂正するには、日経平均が「半値八掛け二割引き」になるぐらい調整しなければいけないことがわかり、ゾッとした思い出があります。(その後、本当に日本株は暴落しました)

当時、僕はアライアンス・キャピタル、キャピタル・ガーディアンなど、いまから思い返せば立派な米系運用会社を担当させられていました。

ところが営業にいっても、ぜんぜん株を買ってくれず、手数料は国際営業部でいつもビリでした。

「べつにキミのことを毛嫌いしているわけじゃないんだ。でも今の東京マーケットはファンダメンタルズの裏付けに乏しいにもかかわらず、皆、バブルにうかれて、とんでもないクソなバリュエーションで取引されている。だからフィデューシアリー・デューティーを帯びている運用会社の矜持として、キミに注文をだすわけにはいかんのだよ」

そうアメリカ人のファンドマネージャーに言われ続けて(クソなマーケットに、つけるクスリは無い!)という教訓が、僕のアタマに徹底的に刷り込まれたのです。

(それなら……)

いっそのこと売る商品を180度変えて、アメリカ株を日本の機関投資家に売れば、どうだろう?

当時の米国市場は、87年の大暴落の直後だったので、東京マーケットより「脆い」と大部分の人が考えていました。「これから日本の時代が来るのに、きさまは何が悲しくてアメリカ株なんぞに関わるのだ?」と忠告してくれる友人も居ました。

でも、ひとたびブームが去ると、ぺんぺん草すら生えないような荒涼たる時期が長く続くことを、僕は石油業界で見てきたばかりだったので、米国株に鞍替えすることに対する迷いはありませんでした。

あれから28年近い歳月を経て、いまダイヤモンドZAiの高配当株特集を手にしてみると、別に奇をてらわず、株式投資の王道である、配当利回りを手掛かりにした株の買い方を素直に実行できる投資対象が、ゴロゴロあることに、僕は深い満足を覚えました。

その特集で書いてあることも、至ってマトモであり(ずいぶん、日本の投資雑誌もしっかりしたものが出るようになったな)と唸ってしまいました。具体的なページでいえば、67ページから70ページまでで取り上げられている銘柄と、それらの銘柄に対する解説は、とても良いです。

高配当利回りの株というのは、大きく分けて二つのシナリオがあります。

ひとつはしっかり儲かっている会社が、株主還元に熱心で、その結果として配当利回りが高くなっているケースです。

もうひとつのシナリオは、何かの拍子に株価が急落して、利回り的に魅力が出ているケースです。この場合、気を付けないといけないのは、減配リスクや倒産リスクが無いか? ということです。往々にして、見かけだけ高配当利回りな株は、無配に転落します。

つまり「なぜその株は配当利回りが高くなっているのか?」という理由を、投資家はしっかりおさえる必要があるのです。もっといえば配当の源泉となる利益がちゃんと出ているのか? 配当性向(=利益のどれだけを配当に回しているか)にムリは無いか? などのコンテクスト(文脈)を、面倒臭がらず、投資家が丹念に調べることが必須なのです。

その点、上記のページに出てくる個別銘柄の解説では、僕がしばしばMarket Hackで示して見せる、一株当たり利益(EPS)と一株当たり配当(DPS)の対比グラフをきちんと載せてあり、一目で配当が健全であるかどうかがわかるようになっています。

ダイヤモンドZAi2016年7月号連続増配高配当株特集の66ページにある「長期安定的に高配当がもらえる株の選び方とは!?」の図は、とても大事なので、そのページをビリビリ破ってトイレの壁に貼っておくこと。