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BRNZ for 作者:徳弘 将右衛門
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Suggestive for -intermission-

 

 「進捗は」
幾つかのモニタと手元の資料に目を落としながらアオイは彼女のデスクの向こう側に立つ白衣の女性に問う。
「一通りの教養、知識、言語などはおおよそ教育完了しています。“彼女”の素質には驚かされますね。私の大学院にもあの子より素晴らしい人材はいませんでしたよ」
「当然だな。そうなるように造った。それで、戦闘訓練の方は」
アオイは胸ポケットから少し湿気たシガリロを取り出し火を灯す。
「順調です。SAYOから回収した対人、対ハンター、対グリム戦闘データを彼女に入力しました。あとはいくらかの不足データと数回の運動訓練を施せばとりあえずの完成という結果を報告できる見込みです」
白衣の女性からの答えにアオイは満足そうに煙を細く吐き出した。
「そうか……グラースに頭を下げただけの価値はあったな。狂人とはいえ、有能ならば使いみちはある、か」
そう言ってデスクの灰皿に紫煙ごとシガリロを押し付ける。
「アオイ室長、これもご確認お願いします」
女性が差し出したのは数枚の、細かい文字や数値、図が印刷されている紙。
「今回の室長の身体検査の結果です。想像より進行しています」
検査結果の紙をめくり、アオイは短い溜息を吐いて、紙束を放り置く。
「ま、想定内ではある。元のオーラ耐性が著しく低い私の体を弄り回せばどうなるかなどある程度は覚悟していた。あの子の完成さえ目にすることができれば未練はない。あと、どれくらいだ」
「保って来年中。早ければ2ヶ月といったところです。医学の学位を数年前に取ったきりなので保証はしかねますが」
肩をすくめる女性に対し、アオイは薄く微笑んで告げる。
「私がくたばったらお前に後を任せる。今のうちにお前もお前なりに覚悟は決めておけよ」
「荷が重いとは思いますが、全力で」
そして彼女は軽い一礼をして部屋を後にした。
「ゾネブルムとの水面下提携。グラースからの技術供与、SAYOとBRNZの意図的遭遇。試作共生型グリムの投入とデータ回収。ここまでは、ここまでは大丈夫だ」
アオイは二本目に火を付けて、少し乱雑に紫煙を肺に送る。
「しかし一連の事柄には不確定な要素が多すぎる。グラースがトチ狂っていなければまだやりやすかったんだがな……。あんなにも脆い男だとは思わなかった」
デスクの上に置かれたスクロールに着信が入った。
通話の相手は、グラース。
「何だ」
スクロールを耳に当て、口にシガリロを咥えたままアオイが通話に出ると、開口一番、グラースが告げた。
『アオイ、計画通りBRNZをそちらに引き渡す。たった今SAYOの連中がBRNZを確保した。すぐにそちらに連行するそうだ』
「早かったな。もういいのか」
アオイの問いに、グラースは電話口の向こうで鼻を鳴らす。
『十分だ。半有機ダストの研究データは揃った。試作武装の実地データも同様に。用済みということだ』
吐き捨てるようでも、後悔しているようでも、自責を感じさせる物言いでもなかった。
いつもどおり淡々と、数字を読み上げる合成音声のように平坦な声だった。
「彼らを裏切ることになるが、構わないんだな」
『裏切ったという認識は私にはないな。彼らが勝手に裏切られたと感じてしまうのであれば残念だが』
「あの子達を見捨てた時も、貴様はそんな風になんの感傷もなかったんだろうな」
『何の話だアオイ』
「思い出せないならそれでいい。それが貴様なんだろう」
一方的にアオイは通話を切る。
スクロールをデスクに置いて、彼女は深く椅子に沈み込んだ。
「一生自分で築き上げた殻に閉じこもっているがいい卑怯者。私は先に征く」

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「CALL ME CALL ME」 詞/曲:TIM JENSEN/菅野よう子 歌:Steve Conte

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