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Notice for -intermission-
更新の遅れ、誠に申し訳ありません。
その部屋は広く、そして殺風景な白で統一されていた。
天井も床も壁も、たった一つ置かれた調度品である味気も素っ気もないパイプベッドも真っ白だった。
硬いコンクリートの壁に、小さなスライド式の電子ドアが一つ。
ロックの外れる軽い音とともにその扉が開く。
「気分はどうかな、今日はいい天気だ。君が元気なら外に連れて行ってあげたいくらいだ」
病的な青白い肌、目の下には壊死したかのようにどす黒いクマ。タイトなグレーのスーツ。赤みがかった白い瞳。
アオイ・プラムサインはそんなことを言いながら部屋に踏み入ってくる。
迷いない足取りでベッドのそばに近寄り、そこに横たわる者の顔を覗き込み、
「まだ、目は覚めないか。そうだな、ゆっくり休むといい」
彼女にしては珍しく柔和な微笑みを浮かべてベッドの人影の頬に軽く触れた。
「少しだけれど、体温と心拍、呼吸が盛んになってきているね。いい傾向だ、そう遠くないうちに目が覚めるだろう、待ち遠しいよ」アオイはそう言ってジャケットの内ポケットに手を伸ばして細巻きのシガーを一本取り出し口に咥えて、
「……ふ、君のそばくらいでは自重したほうがいいかな」
火を点けること無くジャケットに仕舞う。
「また、様子を見に来る」
そして彼女は踵を返して部屋を後にした。
白い部屋から出て、彼女はエレベーターに乗り込む。
「クソ、思ったより幾分深刻だな。もう、時間はないか」
不意に、彼女の額に汗が浮かび、首筋を伝ってシャツをじっとりと湿らせる。
心拍は早く、呼吸は浅く、意識は手元から零れ落ちそうになる。
まるでひどい風邪をこじらせて熱に浮かされているような感覚。
「あとひと月、ひと月でいいんだ」
ぶつぶつとうわ言のように繰り返す彼女。エレベーターは程なくして止まり、軽快なチャイム音とともにドアを開く。
壁にもたれかかるようにして夢遊病者の様な足取りで彼女は一つの部屋のドアまで辿り着き、震える手で押し開いた。
その部屋はアオイの私室であり、全体的に落ち着いたイメージを感じる部屋。
毛足の短い焦茶色のカーペットと、木を主な素材として作られた調度品の類。壁の一面は丸々窓になっているが、今は木で作られたブラインドが下ろされている。
アオイは荒い息を押し殺すようにして、部屋の中央に置かれた一人がけの革張りソファに倒れるように腰を落とす。
ソファの前にはローテーブルがあり、いくつかの整理された書類と小物の類、吸い殻がギチギチに詰まった灰皿、ショットグラスと度数の高い琥珀色のアルコールのボトルなどが置かれていた。
彼女はジャケットを乱雑に隣のソファに放り脱ぎ、テーブルの上のショットグラスにぬるくなった琥珀色の液体を注ぐと、その中に小さな錠剤をいくつか落として一息で飲む。
「っはぁ……薬で抑えられるだけまだマシか」
安堵のため息とともにアオイはテーブルに置かれたウェットティッシュを一枚引き出し、それで汗を拭う。
彼女はテーブルの上に置かれたスクロール端末を取り上げて通話を掛ける。
「グラース、私だ。2週間前の未確認グリム討伐作戦ではそっちに結構な損害が出たそうじゃないか。調子はどうだ」
端末の向こうから声が返ってくる。
『1人重症だったが、ウチの技術を甘く見てもらっては困るな。幾つかパーツを交換して、損傷がひどい生身の部分は新たに機械置換した。すでに万全の状態まで持ち直している』
「それは重畳。本題に入ろう。」
アオイはそう言いながらグラスに再び酒を注ぐ。
「2日後。実行する。覚悟はいいか」
彼女の言葉にグラースはしばし沈黙の後、
『心苦しさがないか、といえば嘘になる、が、必要な犠牲ならば仕方あるまい。君の方こそ準備はいいのかな』
その返事にアオイは苦笑しながら言う。
「問題ない。元よりそのつもりだ」
『君からこの話を聞いた時は正気を疑ったが、ここまで来て引き返すわけにも行かない』
アオイはグラスに少し口を付けて、
「お互い冷たい人間になってしまったな。大学の頃から私は貴様のことが大嫌いだったが、今ではその嫌悪感という感情すら重く冷え込んでしまったよ」
グラースが答える。
『私は昔から何も変わってはいないさ。私ではなく、周囲の環境が変わり、相対的に私が冷たい人間だと映ってしまうだけで私は変わらない』
「ふ、よく言うよ。貴様のことはよく知っている私が言うのだから間違いない。私と貴様は良く良くとても似ている。1人じゃ生きていけないほど小心者で臆病なくせに、人が怖いから平気で裏切り簒奪し背後から斬りつけることを厭わない。良く、似ている」
『似ているからこそ、君は私と籍を結んだのか?』
「どうだろうな。もう何年も前のことで思い出すことすら難しい」
アオイはそう言いながらテーブルの上に転がる飾り気のないリングに目をやった。
「世間話は、これくらいにしておこうか。2日後だ、時間は追って連絡する」
彼女はそう言って通話を切る。
ソファに深く身を沈め、腕で目を覆って彼女は呟く。
「グラース、いつまでも嫌なことから目を背け続けることはできないというのに……、貴様のせいだぞ。なにも、かにも」
デスクの上に写真立てがあった。
アオイと、グラース。それと2人の幼い人影。
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「Counting Stars」 OneRepublic
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