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BRNZ for 作者:徳弘 将右衛門
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「全身に深度1から2の熱傷、範囲は狭いですが深度3に至るところも見られます」
薄緑色の服の看護婦が手元のコンソールに目を落としながら読み上げる。
「打撲や擦過傷、裂傷は無数と言って差し支えないほどです。可哀想に……女の子なのに、顔にまで」
「一体何があればここまで非道いことになるんだ」
同じく薄緑色の術衣を着た中年の腹回りの太い医者が、ため息とともに首を振る。
「ダスト精錬工場の爆発だそうです。詳しい原因は不明ですが、もしかしたら人為的な爆破の可能性もあると噂されていますね」
二人の視線は術台の上に注がれている。
無数のケーブルやチューブが絶えず駆動し、どうにか術台の上の彼女はかろうじて死んでいない。
死んでいない、というただそれだけ。
繋がれている機材のどれか一つ、スイッチを落とせばすみやかに彼女は息を引き取るだろう。
「しかし……、こんな小さな娘がなんで人気の全く無いような郊外にまで出歩いていったんだ。あんなところ、それこそ山と工場しかないような場所なのに」
医者はせわしなく何かの準備をしながらそう言う。
「最近、ハンターごっこっていう遊びが子供達の間で流行っているそうで。人気の多いところだと周りに迷惑だからと、広いところで遊ぶように言いつけられていたとか」
看護婦は術台の上に横たわる彼女の様子を逐一観察しながら続ける。
「不幸中の幸いとでも言うのでしょうか、わずか数十メートルの距離で高濃度ダスト爆発に巻き込まれて生きているなんて」
普通なら肺まで焼かれてもおかしくないのに、と、彼女は言った。
「精査診断結果、出ます」
 彼女の言葉と同時、手元のコンソールに写真や図面つきの診断結果がアップロードされる。
「そんな……」
診断結果をみた看護婦は思わずマスク越しに口を覆った。
「どうした」
「これを」
彼女は怪訝そうな顔をする医者に悲痛そうな顔でコンソールを見せる。
これは、と医者は顔をしかめた。
「全身に爆風で飛び散った高濃度の未精錬ダスト片が食い込んでるのか……摘出しようにも小さすぎる上に数が多すぎる。深く食い込んでいる破片を取り除こうとすれば周りの組織まで傷つけかねない」
「先生、どうしましょうか」
看護婦は尋ねるものの、彼女自身わかっていた。
これだけの傷を負い、患者はもう相当に消耗している。この状態で長時間に渡るダスト片摘出手術は耐えきれるはずもない。
医者もそれは重々承知だろう。
「破片は、今はとりあえず摘出できない、最優先すべきは命だ。全身の傷の修復、そして何より」
 医者と看護婦の視点が一箇所に集まった。
患者の脚元。
正確には、患者の脚があったであろう場所。
何もない。
彼女の腰から下は、まるで空っぽだ。
「股関節から下部の下肢断裂、骨盤にも損傷が出ている、非道いものだ……。これを何とかしなければならないが、許可は出ている、親御さんにも説明は済ませた、お嬢さんには悪いが、命と、これからの生活には代えられない」
 医者の言葉が終わったとき、術室の密閉ドアが開け放たれ、数名の人影と何やら台に載せられた物が担ぎ込まれる。
先導しているのは痩せぎすで背の高い若い男。
「大変お待たせ致しました。ゾネブルムヒューマンインダストリグループ傘下開発局ゾネブルムラボラトリ開発局長グラース・デ・ウィットでございます」
ハスキーな声と明朗とした早口でまくし立てると、グラースは術台に横たわる彼女を見て、
「これは……想像していたよりずっと重いですね。しかしお任せください、今回お持ちしたものは臨時的かつ一時的に彼女の生活をわずかばかり維持するためのものに過ぎません。もっとはっきりと診断が済み、そして傷創の状態をこちらが把握しましたらすぐにでも彼女専用の脚をお作りいたします。もちろん彼女の成長に合わせ逐一再調整と再設定までサポートさせていただきます。お気になさらず、慈善事業でいい顔をお見せするためにこのようなことを行うわけではございませんので。こちらにもきちんとメリットの回収を行う算段と手はずは付いておりますから。混じりっけナシの善意なんて正直申し上げて信じられませんでしょう?」
そう言うとともに担ぎ込まれた機材に手をかける。
それは大きな金属とカーボンで出来たトランクケースやコンテナのような外見で、グラースが軽く触れるとその口を開き始める。
「我々ゾネブルムラボラトリは長年考えておりました。ハンターやハントレスの戦闘をもっと確実かつ安定した物にするにはどうしたら良いのだろうかと。毎日毎日多くの戦士達はその心と体をひどく摩耗させている、これではいけない。もっと楽に、確実に。技術とはそのために研鑽され磨き上げられ極限まで尖り続けるのです。それのある種の解答かもしれない一例として我々は思いつきました」
 トランクが開ききる。
そこにあったのは鈍い紫色、重い紫色をした一対の脚。
「パターン:ホリゾンと我々はこの計画を呼称しています。その実態とは武装と兵士の一体化。達人は己の武器を己の腕や足の延長のように自在に扱うというではありませんか、ならいっそ先に武装を体の中に押し込んでしまえばよいのです。否応なしに武装は己と一体となり、日々を経るにつれ武装は武装でありながらにして己の一部となる。オーラ管理の面でも優位性が持てると試算されています。ここだけの話私の中で一押しのプロジェクトなのですよ」
グラースは脚を持ち上げ柔らかく慈母のように微笑む。
「あまねく技術を人々のために。あらゆる苦難を技術によってねじ伏せ叩き潰し平にしてその上に技術の摩天楼を積み上げる。それがアトラスという国に生まれたゾネブルムの信条でございます」
グレースは柔らかい笑みのまま手を一度打ち鳴らし。
「さぁ、オペを始めましょう、我々も最大限サポートいたします。こう見えても私と連れてきた技術者たちは皆医師免許に医学博士号をもっているのですよ、患者のお嬢さんの可愛らしい顔も体も完璧に再建いたしましょう」
そしてかざされるメスの光とともに始まる。
わずか8歳の少女を無比なる戦士へと作り変える技術の披露が。
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