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BRNZ for 作者:徳弘 将右衛門
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Chance for


 真っ先に動いたのはロスだった。
瓦礫を踏み砕かんばかりの勢いで前へと踏み出し、白赤色の燐光を散らしながらアサギとの距離を詰める。
「オレが時間を稼ぐ!姐さんたちは資料を持って離脱してくれ!」
「バカ!相手の実力もわからんうちに突っ込むな!!」
ズヴァートの制止は間に合わない。ロスは既にアサギとの交戦圏内に踏み込んでいる。
脚を踏み出し、腰を捻り、全体重を拳へと送り出す。
簡易隔壁ですら容赦なくへし折る圧倒的な一撃がアサギへと襲いかかった。
「いいパンチや。文句なしにいい一撃や。当たれば僕もただでは済まんなぁ。あ、た、れ、ば」
ロスの拳に返ってきた感触は固く、とてつもなく重い衝撃。
くすんだ空色の大盾。
それがロスとアサギの間に割って入っていた。
「これが、お前の武器ってわけかよ!」
ロスは動揺を悟られないように盾に蹴りを入れ、その反動で大きく後ろへと飛び退く。
ただの防盾ならばオーラで強化されたロスの拳を受け止めることなどできようはずもない。
ロスの額に嫌な汗が一筋伝う。
盾を構えたまま、アサギは楽しそうに口を開く。
「挨拶もなしに襲いかかってくるのはアカンやろ。僕は楽しくやろうや、って言ったはずやで?せめてこっちにもメンバー紹介させる時間くらいくれたってええやん」
「アサギ。貴方は私達のリーダーと言う立場がありますが皆が皆貴方の行動に賛同するわけではありませんよ、遊び癖がすぎるのは目に余ります」
 赤茶色の一本結びをした背の高くスタイルのいい女性。
左腰に白鞘で鍔のない刀を下げていた。
制服を着込んでいるが、アサギのそれとは違い、学ランではなくブレザーである。
「サビ・ラウベと申します。お見知り置きを」
張りがあり、よく通る済んだ声でサビはそう名乗った。
「ヤナギ、オミナエ。貴方達も姿を晒して名乗りなさい。不意打ちの通じる相手ではないでしょうし、何より私達の沽券に関わります」
彼女がそう言うと同時、柱の影と残骸の裏から二人の人影が現れる。
一人は背が低く渋い黄緑色の髪を短いサイドテールにした少女。
もう一人はロスと並ぶほど背が高く、しかしはるかに細身。明めの黄色い髪を坊主とショートのアシンメトリーにしている男子制服を着た人影。
4人と4人が対峙する。
口を開いたのは黄色いヘアスタイルをした男子生徒。
右耳の大きなリングピアスを揺らしながら、黄色いリップを塗った唇を動かして言う。
「オミナエ・U・ハンドゥヴェーカー」
ハスキーな声で名乗った彼は右手から下げている巨大な工具箱を変形させる。
現れたのは規格外に大きなチェインソー。
やる気まんまん、と言った風体で彼はブラウ達を睥睨するように見つめていた。
「ども、ヤナギ・オンダ-、ですっ!」
続いて名乗ったのは背の小さい少女。
人懐っこそうな声で名乗った彼女は肩に、長く、そして豪奢な装飾を施された一本槍を担いでいる。
「以上でSAYOのメンバー紹介は終わりだ。そちらさんは名乗らんでもええよ、死体をじっくり検分させてもらうんでよ」
アサギがやはり笑いながら言う。
「笑えない冗談だな」
ナグトが不愉快そうに零す。
「冗談じゃないんだよなぁ。冗談かどうか、今からその体と心に叩き込んであげる」
ヤナギが担いでいた一本槍を構え、睨みつける。
「ズヴァート。最初っから全開で行くから、もしガス欠になったら担いで帰ってね」
ブラウはそう言って一度ウィンクをすると鞄からドリンクボトルを取り出した。
「程々にしろ。じき迎えが来る、それまで耐えればいい。すまねぇがあたしは今日武器を持ってきてねぇ、ガチでやりあうには厳しいぜ」
ズヴァートの言葉にブラウは一度頷くと、ドリンクボトルのキャップを開ける。
透明なドリンクボトルの中身は透明な紫色のドロリとした粘性のある液体。
それを彼女は一気に煽る。
「なんなの、それ」
オミナエが気持ち悪そうにつぶやいたのを見て、ブラウはボトルを握りつぶしながら答えた。
「糖分とか脂肪分とか炭水化物とかタンパク質とかビタミンミネラル水分を人工的に徹底的に濃縮したわたし特注のエナジードリンクだよ。これ一本で8000キロカロリーを超えるよ?」
「そんなもの飲んでアナタ体壊したりしないのかしら?」
オミナエの問いに、彼女は笑顔で答える。
「問題ないんだなこれが。むしろこれがなきゃダメってくらいだよ、さ、時間稼ぎをさせてもらおうかな」
ブラウは一歩踏み出した。
「ギアを上げていくからね。眼を回さないように気をつけてよ?」
 そして彼女は脚を踏み鳴らす。
両脚に変化が起こった。
大腿から下、彼女の両足はまるで機械部品のように組み変わる。いや、実際に彼女の両脚は機械部品だ。
「両足を武器に置換してるのですか。狂気ですね」
サビが腰の刀に手をやりながらあっけにとられたように呟く。
瞬く間に彼女の両の脚は組み変わり、細く長かった脚は、スチームパンク風の意匠を施された紫色の甲冑のように出来上がった。
「隊長、実質4対2だぜ?マジでヤルのかよ」
ロスが両腕を回しながらブラウのカバーをするように近寄る。
が、
「まず、一人。これで3対2だね、ロス?」
ハンターの眼ですら僅かな動きの残滓を捉えることしかできなかった。
ブラウの声がしたのは、つい先程までオミナエが立っていた場所。
そしてそのオミナエは。
「やって……くれるじゃない?」
施設の壁面にめり込み、息も絶え絶えといった風に力なく悪態を付いていた。
「ありゃ、思ったより頑丈だね。4人の中で一番オーラの薄い人を選んだつもりだったんだけど。まぁその様子じゃ戦闘は無理でしょ、感触からして胸骨が折れてるか、良くてもヒビくらいは入ってるんじゃないかな?死にたくないなら動かないことだよ」
「よく喋る余裕がお有りで。不意を打ったつもりでしょうが、単騎で私達の中に突貫は愚策ではなくて?」
ブラウの右から一瞬の時間すらなく肉薄したのはサビ。既にその白刃は鞘を脱ぎ捨てている。
「台詞をお返ししますよ?まず、一人」
サビの神速に等しい剣閃がブラウの首を両断せんとばかりに振るわれた。
しかしその刀に肉を断つ感触はない。
「ほぅ、力一辺倒かと思えば意外と疾いのですね、貴方も。そして貴方も武器をその身に宿しているのですか、つくづく罪深い」
「オレの両腕は砲撃だけに使えるわけじゃないんだよ、アポジモーターとかスラスターみたいにも使えるんでね」
ブラウを両腕に抱え、ロスはサビと距離を取りながら答える。
「ロス、ナイス。ほんとに死ぬかと思った。あの女の子めっちゃ速いよ」
腕から下りながらブラウが言う。
「わかってるよ隊長。見てたから分かる。ありゃなにか使ってるな、オーラの速度じゃねぇ、センブランスか何かだ」
ロスは自分心拍が上がるのを感じていた。
「こういう時に、戦力になれないというのは歯がゆいな」
ナグトが憎々しげに零す。
「しゃぁねぇさ。こういうのは役割分担だ。アイツ等にできないことをあたしらはできる。逆もまた然り、今は自分のことだけ考えてろ」
ズヴァートに言われ、ナグトはどこか納得いかなさそうに首を振った。
 状況はオミナエ戦闘不能という形で仕切り直される。
「どうする、時間を稼ぐったって限度があるぜ隊長。特にあのサムライガールヤバイ。殺気とかもうオレ逃げたくなるぜ」
「ヒーローになりたいんでしょ?体で刀を止めるくらいできない?」
「無茶言わないでくれよ、真っ二つだ」
二人がこそこそと話し合っている、その真上。
「ボクを無視してねーちゃんだけに注目かい!?」
咄嗟に二人は散開、そしてその間にヤナギの一撃が振り下ろされた。
生み出された結果は絶大なものだ。
槍の柄の中ほどまでがリノリウムの床に突き立ち、無数のヒビと破片が彼女を中心に広がる。
深くめり込んだ槍を彼女は軽く引き抜いてロスへと向き直った。
「おにーさん力自慢なんだって?どうだいボクと一騎打ちしない?」
突然の申し出にロスは怪訝そうに答える。
「そういうのって大抵だまし討ちだよな」
その答えにヤナギは憤慨したかのように、
「嘘じゃない!本気だよ。アサギにもねーちゃんにも手出しはさせない。もし手出しされたらボクはおにーさん側に寝返ったっていいよ」
そう言い返した。
ロスは考える。
今の一撃、確かに威力は相当なものだが自分のほうがまだ火力においては分がある。
そして彼女の攻撃には精度と速度が足りない。
懸念があるとすれば、
「隊長!そっち2人任せても行けるかな?」
そう、ブラウが必然的に2人を受け持つこととなる。
あれだけの速度を持った少女と自分の一撃をやすやすと耐えうる盾を持った男。
幾らTeamBRNZ最強の隊長といえども、と、ロスの頭に懸念が浮かぶ、が。
「任せなさい。隊長の意地を見せたげる、でも約束、絶対に勝ってよね」
ブラウは笑顔でそう答えた。
ロスはその一言でありとあらゆる懸念を振り払う。隊長ができると、やると、そういったのならば自分がでしゃばって心配する必要などない。
やるべきは、
「よっしゃやろうぜヤナギ!一騎打ちだ!」
全力で、目の前の相手を討ち伏せる、ただそれだけ。
 拳を握り、重心を低く、目線は敵を見つめるのではなく広く捉える。
全身にオーラを満たし、己の信ずる両腕に力を込める。
「そうこなくちゃね」
ヤナギはそう言うと同時、槍を突き出した。
シンプルだが速度と威力の乗った一撃。
狙いはロスの喉元。
それを首のひねりだけで躱し、ロスは前へと出る。
槍を相手にする上で大事なのは決して左右に逃げないこと。恐怖をねじ伏せて前後と体軸の動きだけで間合いをつかむ。
「イメージは、一本橋の上で戦うこと」
叩きこまれた闘いの教科書を思い出しながら、ロスは更に前へと出ようとする。が、
「お手本の通りで勝てるとは思ってほしくないなぁ」
ヤナギは一歩飛び退き、槍をくるりと一回転させ、今度は石突でなぎ払うように逆袈裟の一撃を放つ。
ロスの顎を打ち払うような軌道のそれを、だが彼はあえて前へ出て脇腹で受けた。
「い”っ……てぇ」
右脇腹の軋むような音と鈍くジわりと広がる痛み、彼の額に脂汗が浮かぶ。
「嘘でしょ!?幾ら刃がないって言ったって鋼鉄なのに……」
ヤナギの顔から油断と余裕が消えた。
再認識する。この男には武器を持っているという優位性が通じない。おそらく彼は常に武器に対して素手のまま、徒手空拳で相手取ってきたのだ。半端な戦い方をしてはへし折られる。
多少の傷みや損傷を受け入れて、ただ一撃を打ち込むファイトスタイル。
「厄介だよ……あんな一撃貰っちゃ今のボクじゃもたない、時間を少しでも」
ヤナギは更に一歩飛び退く。いや一歩ではない、連続したバックステップで一気に距離を離した。
「おいおい、幾ら槍の射程が長いからってそりゃ遠すぎだ」
ロスは追撃をせず、ベタ足で相手の動きを待つ。
「そうかな」
ヤナギは口端を歪め、槍を振りかぶった。
「投擲槍……ッ!?」
ロスは回避のために力を込め、集中する。
「避けられるもんなら……避けて……みろっ!!」
薄緑色の紋章とオーラの奔流が槍を包んだと同時、彼女の槍の穂先のみが銃弾の様に射出された。
一直線にロスの胸を狙った一撃。
今までの攻撃とは速度が桁違いだった。
回避は、できない。
「くそっ!」
悪態と共に、ロスは左腕でガードする。
オーラを集中させ、最大限の防御でもって胸をかばう。
肌を刃が突き破る嫌な感覚を感じながらもなおも彼は腕に力を入れ、穂先の貫通を阻止する。
「ちえっ、止められちゃったか……でもまぁいいさ、本命じゃない」
アサギは心臓を貫いた感触がないことに気づき、柄を握る手に力を込めた。
ロスは己の心臓がまだ健全に動いていることに安心し、痛む左腕に突き立ったままの穂先を見る。
「残念だったな、これで、お前の槍は、もう、」
痛みで絶え絶えになる声でロスは無理矢理に歪んだ笑いを相手に向ける。
穂先のないやりなど脅威は半減どころではない。先ほど受けた石突の一撃から見てもそれは分かる。
彼女は自分に対する決定的な一撃を失った。
左腕は使い物にならないがどうにか構えらしきものをとる事はできる。
「降参したっていいんだぜ?武装解除して投降すれば……」
「先走った考えは良くないなぁおにーさん」
ヤナギに言われ、ロスの背中に冷たいものが走った。
「穂先をよく見てよ」
再び穂先に目を落とす。
穂先の尻側に、細いが、だがしっかりとした鎖がつながっている。
それを目で追うと、鎖はヤナギの持っている柄につながっていて。
「この射出機構の本命は貫通力じゃ無い。下手に貫通されても困ることだってあるんだよ。この槍は、」
彼女は手元に力を込めた。
合わせてロスの腕に痛みが走る。
「なんだ……これ……?」
見れば、穂先が逆三日月槍のように変形していた。
「この射出機構の本命、それは、アンカーを対象に打ち込むことだ」
彼女はそう言って槍の柄を振り上げる。
当然、つながっている鎖と、その穂先は大きくうねりながら振り上げられるということであり、
「う、おっ?」
ロスの体は穂先につなぎとめられた状態で持ち上げられた。
しかしその状態でもロスは動じない。
「詰めがなってないなヤナギ。オレが鎖でつながってるってことは、オレからもお前に干渉できるってことじゃねぇか!」
ロスは右腕で鎖をつかもうと手を伸ばす。
鎖を掴んでしまえば力任せにヤナギを引っこ抜ける、一度体勢を崩せばチャンスが生まれる。圧倒的チャンスが。
だが、
「それくらいボクにだってわかってるんだけど」
 ロスの右腕は空を切った。
穂先は既に左腕から抜かれ、元通りヤナギの柄へと装着されている。
装着されたということは、またあの射出が行えるということで。
いまロスの体は地面から離され、ガードを取ろうにも右腕しかなく、この右腕を失えば今度はロスが決定的な火力を失う。
「楽しかったし勉強になったよおにーさん。素手相手でも油断は大敵だってことが身にしみて分かった。おにーさんのことは好敵としておぼえといたげる」
ヤナギはその槍を再び振りかぶった。
「試合終了だよ!」
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「アダム(off vocal)」 ATOLS
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