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Encounter for
「どけっ!ナグト!!」
後ろからの豪声にナグトはとっさにドアから飛び退く。
代わりに声とともに飛び出したのはロス。
「この程度のドアなら!!」
肉薄し、彼は拳を振りかぶる。
『お前!何をするつもり』
スピーカー越しの声はすべてを言い切ることはできなかった。
「オラァ!!」
怒号一閃。ロスの拳がドアに直撃する。
鋼鉄の門扉はまるで飴細工の様にひしゃげ、蝶番ごと壁をえぐりながら室内へと吹き飛んでいった。
まるで破城槌のような一撃。
「ハードネゴシエイションだ、計画変更。派手に行くぞ」
ズヴァートはドアの残骸を荒々しく踏み潰しながら資料室に侵入する。
中にはいくつかのメタルラックが図書館のように並べられ、もう少し奥には鍵付きの保管金庫があった。
「おぉー、さすがの威力だね!」
ブラウもドアがあったはずの壁をまじまじと見ながらズヴァートの後を追う。
「ブラウ、戦闘はアンタとロスだよりになる。あたしは索敵、ナグトは戦闘は専門外だ、頼むぞ」
「任せて。ドリンクも持ってきてるから大丈夫!」
なら安心だ。そう言ってズヴァートは奥の保管金庫に近寄りそれを観察する。
「チッ、物理キーだけじゃねぇな電子ロックもかかってる、これじゃピッキングは無理だ。ロス!」
彼女はロスを呼び、金庫を眼で示し、
「開けてくれ」
そう言いつける。
「あいよ」
ロスは返事をするとそれに手をかけ、
「ふぅっ……!」
両の手に力を込める。
ただの人間の膂力では幾ら力を込めようが堅牢な金庫の扉をこじ開けることなどできないだろう。
しかし、
金庫の扉が金属の軋む甲高く嫌な音を立てながら口を開く。
わずか数秒で扉は完全に用をなさなくなった。
「中身を確認している暇はない。あたしが担ぐからこのショルダーバッグにありったけ突っ込め」
ズヴァートが差し出したバッグに、ロスはファイルホルダやデータメモリ、写真や何かの設計図のような束を詰め込む。
「そろそろ来る、逃げるぞ」
外で周囲に眼をやっていたナグトが皆に声を掛ける。その顔は元のナグトの顔で、手にはカツラが握られていた。
「よし、窓から出るぞ、3階なら余裕だ。車はダメだな、別の足が来るまで徒歩でここから離脱する」
鞄に肩を通し、ズヴァートは窓に駆け寄った。
だが、
「クソが!ご丁寧なことだなぁ!!」
窓に触れようとした瞬間、外側から黒い隔壁がすべての窓を封鎖する。
「姐さんどいて!オレがこじ開ける!!」
「時間がねぇ!全員が通れる穴を開けてるうちに敵が来る!リスキーだが、迎え撃つぞ!戦闘態勢!!」
同時、大勢の足音と騒がしい声が3階フロアを満たす。
「ズヴァート、数は分かる?」
ストレッチをしながらブラウが問う。
「ちょっとまてよ……、14、5、6人か。16人だ」
「16?なんだよそんなもんか、悪いけど隊長の出番はないかもね」
ロスはそう言って真っ先に廊下へと飛び出す。
「あっ!!ロス!やり過ぎるな!死人はお断りだ!」
ズヴァートの声を背中から感じながら、ロスは廊下の奥から駆け寄る人の群れに目をやった。
数は4人。距離は10メートルほど。全員が重厚なアーマーと自動小銃を抱えている。
彼らはロスの姿を確認すると、警告を告げた。
「地面に両手を見せて伏せろ!!すぐにだ!」
無視。ロスは強く床を蹴り、一気に距離を詰める。
「オープンファイア!無力化しろ!」
その声とともに、ロスに向かって4つの銃口から数十もの弾体が襲いかかる。
「ゴム弾じゃん。優しいなぁ、避けるまでもないっしょ!」
両腕で顔を覆い、インファイトボクサーのように迷いなく弾幕に突っ込む。
肉体に硬質ゴムがめり込む嫌な音がしながらも、ロスの勢いは止まらない。
「こ、こいつ!ハンターだ!」
先頭に立っていた男が叫ぶ。
その時にはもう、ロスはその拳のレンジ内に彼を捉えていた。
無言で、ロスは左拳を敵のみぞおちに叩きこむ。
鉛の弾丸すら貫通しないアーマーを着込んでいる男の体が鉄拳の衝撃でふわりと浮き上がり、その顔は苦痛で歪む。
その顎ににロスの右拳の追撃。
ワンツーコンボで一人目が沈んだ。
「っおぉ!」
倒れ伏した仲間を見て、接近戦に持ち込まれた敵の一人が腰から警棒を引き抜き、鍛えあげられた動きでロスに殴りかかる。
だがその一撃すら、ロスはその腕でしっかりと受け止めた。
彼の腕に強化カーボンの警棒を叩き込んだ男は驚愕する。
(まるで……まるでトラックのタイヤを殴ったような感触だ……!)
ハンターがオーラや武器によって圧倒的な力を誇るということは常識以上の話だ。だが今殴った男は武器も持っていなければオーラやダストを強く使用したような形跡もない。
「なんなんだ貴様ァ!!」
警棒を闇雲にもう一度振りかざす。しかし、返ってくる感触は固く弾力のあるタイヤのようなもの。
「起きてからじっくり考えてくれよな」
彼の延髄をロスの脚が捉え、その体から力が抜ける。
警棒が床に転がり落ちる乾いた音が廊下に響き、
「まだやる?殺すつもりはさらさらないけど手加減に自信があるわけじゃないんだ」
ロスは残りの二人を睨みつけた。
これで退いてくれれば、と、ロスは考えるが、しかし。
返事は発砲だった。
「あくまでもヤルつもりかよ!」
ロスは一度飛び退く。
そして、彼の後ろから気配が増えた。
廊下の反対端にもう4人。同じような装備の警備員が現れる。
「数が増えたってなぁ!」
叫び、彼は増えた敵の方へと振り向く。
銃口がロスを捉え、鈍い発砲音とともに銃弾が2発、放たれる。
「ゴム弾じゃハンターを止められるわけがないだろ!」
ロスはそう言った時、気づいた。
咄嗟に体を捻り、耳元を銃弾がすり抜ける音を感じながらどうにか躱す。
その流れ弾は挟撃の形となっていた反対側の仲間の胸を捉え、被弾した彼らは一度体を大きく震わせ糸の切れた人形のように崩れる。
「テイザーガン!?いや、もっと凶悪だ……電撃で対象を鎮圧するダストの弾……。同士討ちもお構いなしとかどうかしてるぞ!」
「投降は無意味だ。ここまで派手なことをしてもらっては我々もただで返す訳にはいかない。いかにハンターと言えど武器がなくてはいずれオーラの限界が来るだろう、嬲り殺しだ」
警備員が銃を構え直す。
「誰が、武器を持ってない、だって?」
ロスは口の端を歪めるようにして微笑った。
そして彼は正拳突きを放った後のようなポーズで手のひらを彼らに向ける。
「オレの武器はこの肉体!この筋肉!この拳だ!」
「武闘家気取りかっ!!」
吐き捨てるように警備員が叫び、その引き金に力がこもる。
「ちげーよ。文字通り、オレのこの手は武器だ」
ロスの突き出した掌に変化が起こった。
ちょうど手の中央にコインほどの大きさの穴が開き、
「テゲナーヴァルクラップ。それが名前だ」
直後の閃光。
廊下を埋め尽くさんばかりに広がった桃色の光は一瞬にして警備員を巻き込み吹き飛ばす。
「出力8%、ついでに拡散型だ。死にゃぁしないよ……ま、聞こえてないだろうけど」
圧倒的な砲撃と見せた掌を数度確かめるように動かし、ロスは一息を入れる。
完璧な油断。
その隙を逃す相手ではない。
音もなく、影すらなく天井の通風口から警備員が4人降り立ち、がら空きのロスの背中にダスト弾の込められた銃口を合わせ、
「ロス、まだ8人残ってるのに休憩は関心しないなぁ」
引き金は落ちない。
ロスの脇を滑るように駆け抜けたブラウの細く長い脚が飛び蹴りとして敵の顔面に突き刺さる。
彼女の蹴撃は止まらない。
飛び蹴りの勢いのまま、空中でくるりと体をひねると今度は踵がまた一人の顎を弾く。
そして逆立ちのような大勢で着地した彼女はブレイクダンスの様に腰を回し、残りの二人の股間に鋭いつま先を打ち込む。
「オゥ……」
見ていただけロスの口から苦悶と同情の声がこぼれた。
鮮やかなコンボ。格闘ゲームやカンフー・アクションでしかお目にかかれないような手際で4人を無力化した彼女は、軽いバレエの如き動きで逆立ちから直立に戻り、数度スカートの埃をはたき落とすとニヤリと笑ってロスの額に指を触れて言う。
「今日の色は何色だったでしょうか」
対し、ロスは呆れたようなため息で答える。
「何言ってんだ隊長、ご丁寧にスカートを片腕で抑えてたじゃねーか」
そう答えたロスの額にデコピンがぶたれる。
「やっぱり君は女心がわかってないなぁロス。そういう時は『とても良く似合ってたよ』とでも言うんだよ」
「いや言わねーよバカ。まずスカートで暴れまわる女って時点で論外だ」
ズヴァートが重そうに鞄をぶら下げて疲れ果てた顔でそう言った。
「ったく派手にヤれと入ったが派手にも限度があんだろうよ。まぁ上々だ、後の4人だがなぜかこのフロアを降りやがった。このフロアにもう人はいない。迎えは呼んだ、とりあえず1階に降りて脱出するぞ」
4人は階段を降りる。
ナグトが口を開いた。
「嫌な、嫌な気配がするな。ズヴァート、視線は?」
「1階に4つ、固まってる。さっきの残りだけどどうかしたか」
「いや、ただの虫の知らせというか勘というか……できればその4人とは」
ナグトが言い切ろうとした時、2階フロアの床が力を失う。
落下にともなう浮遊感。
そして続くのは体を打ちつける硬いリノリウムの感触。
「いってぇ……」
オーラによるガードも受け身も間に合わなかったロスは苦悶の声を吐く。
「無事か!」
ズヴァートの点呼に、
「大丈夫だ」
「死んでないぜ」
男二人組は立ち上がりながら答えた。
「おい隊長はどうしたんだ?」
返事のないブラウをロスが眼で探すと、
「駄目だなぁあれくらいきちんと対応しなきゃ。訓練が足りませんな!」
崩壊したガレキの上に衣服のほつれ一つなく彼女は立っていた。
「マジかよ……」
感嘆の声が漏れる。
一切の予兆なく起こった床の崩壊にも咄嗟に対応し、至極当然のように無傷。
ハントレスとしても異常な身体能力だ。
「1階まで落とされたのか。爆発音も振動もなかった、発破ではないだろうが一体……」
ナグトの言葉に答えたのはつい数分前聞いた声。
「よぉよぉ、意外とやるもんだな手前ら」
4人の視線は瞬時に声の元に集まる。
薄い空色のツーブロックに太ぶちメガネとシミひとつない白衣。
「アサギ……?」
ズヴァートが声をかけると、彼は指をパチリと鳴らして告げる。
「せやでぇ?案内役もまぁまぁ楽しかったわ。まっさか薬盛られてあんなせっまいところに押し込まれた挙句服まで剥がれるとは思わんかったけどなぁ」
「と、いうことは最初っからあたし達について知ってたってことか?」
ズヴァートが問うと、アサギは再び指を鳴らす。
「そゆこと。まぁ運がなかったなぁ手前ら。わざわざ学院生徒に成りすますなんてよぉ?学院名簿に存在しない連中の予約が入ればそりゃぁ警戒もするじゃんか?な?」
その答えにズヴァートは「しくじってんじゃネェかあのボケ」と悪態を付いて再びアサギに問う。
「ちょっと待て、ここが学院とつながりがあるのは知ってたが、なんで学院側がいちいちこんな一研究所のアポントメントを確認する?そこまで重要な施設にしてはセキュリティも甘い。どういうことだ」
「いやいや、学院だってそりゃぁ関連組織とか施設のアポまで逐一調べはせぇへんよ。そして研究所サイドも学院生の名簿なんざ持ってねぇ、手前らは運が悪かった。標的がココじゃなきゃぶっちゃけ完璧にうまく行ってたと思うぜ?」
アサギは楽しそうに笑う。
「話が見えねぇな、ここまでお喋りしてくれてんだ。教えてくれよ、アンタ何様だ?」
ズヴァートの再度の問に、アサギは今までで一番大きく指を鳴らした。
「やっと聞いてくれたか!よっしゃ教えてやるわ。僕はアサギ・エイジーア、ココの研究員にして」
彼は白衣を荒々しく脱ぎ去り、宣言する。
「聖ニコリウス・ロッケンバーグ・エルシュテン神学院、2年、コースはもちろんエリートや」
白衣の下にあったのは純白の学ラン。
詰め襟には純銀で出来た盾をモチーフとした紋章。
「ホンモノの、学院生様やで?さ、楽しくやろうや」
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「Heartwarm」 Adraen
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