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BRNZ for 作者:徳弘 将右衛門
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Awake for

RWBYOCとなります
 ブラインドの隙間から漏れ込む光のみがわずかばかりの光源として部屋の中を薄暗く照らす。
まず目につくのは部屋の中央に粗雑に置かれた机に突っ伏すようにして寝息を立てている人影。
銀糸のような短く切りそろえられた白髪は光の当たり加減によって仄かに紫色のようにも見える。
年のほどは17、8程だろうか。顔は見えないが背の丈や体型からまだ若い少女だろう事がわかる。
机の上には彼女の髪と折り重なるようにして、散らばった紙切れと何やらよくわからない文字列を走らせているスクロールが適当な扱いで転がっていた。
「ブラウ、そろそろ時間になる。起きな」
眠りこけている白紫髪のブラウにそう声を掛けたのは、部屋の隅でブラインドの隙間から外を眺めていたもう一人の少女。
その少女の声に、ブラウはまるでスイッチでも入れられた人形のようにぱちりとすぐに目を開け、
「ズヴァート、今何時?」
そう聞きながら椅子の上で軽く伸びをする。
ズヴァート、そう呼ばれた窓際の彼女は丸いメガネを軽く直し、柔らかそうな三つ編みを軽く揺らして左手首に目をやる。
彼女の左手首に巻かれているのは腕時計だが、年頃の少女がつけるにしては少々重厚すぎるようにも見える金属ベルトの時計だった。
「16時18分」
ズヴァートが答えると、ブラウはそっか、と相槌を打って軽く腹を抑える。
「軽く何かお腹に入れる時間位あるよね?」
「そうだろうと思って、パシりに買い物行かせといた。もう帰ってくるだろ」
部屋のドアが開く。
「姐さん、買ってきたよ。4人分きちんと飲み物もある」
入ってきたのは、派手な桃色のベリーショートスタイルをしたとても背の高くまるで格闘技のファイターのようにガタイのいい青年。
「ごめんねロス、お使い行かせちゃって」
ブラウが申し訳無さそうにはにかむと、ロスは軽く首を横に振り、
「気にしないでよ隊長。一番の新入りなんだから何でも言ってくれって」
そう言ってデスクの上に一抱えの紙袋を載せる。
「あ、姐さんこれ領収。一応経費で落ちるかな?」
ロスはズヴァートに小さな紙片を渡す。
彼女はそれを受け取ると、は、と軽く笑った。
「ちゃっかりしてんなぁお前。オッケィ、あたしから申告しとくわ」
そしてズヴァートはポケットからスクロールを取り出して机の上に立てて置く。
「食いながらブリーフィングも済ませちまうぞ。ナグトはまだか?アイツがいないと始まらないんだけどな」
困ったような顔をする彼女に声が掛かる。
「ここに」
声がしたのは彼女のすぐ後ろ。
背は高くもなく低くもなく、細く引き締まった体の少年。
頭髪は全てキレイに剃り落とされ、それどころか眉やまつげまでも彼にはなかった。
ぴっちりとしたトレーニングウェアのような服を着ている。
「あぁ、居たのか。どうだった」
ズヴァートに聞かれ、ナグトは小さな機械を彼女に渡す。
「上々、委細問題なし」
それを聞いてズヴァートは満足気に頷くとそのメモリをスクロールに差し込む。
すぐさま画面にはいくつかの文字や図面、写真が表示され、4人はそれを目の端に捉えつつロスの持ってきた紙袋に手を伸ばす。
「ナグト、何かアイディアでも思いついた?」
 フライサンドを口に運びながらロスが問う。
いま画面に表示されているのは何やら施設の見取り図のようなもので、ロスは手元のペンを拾うと図面に軽く走らせ、ピンク色の矢印を幾つか書き込む。
「オレが思うにこのルートなら速いし、何よりすぐ逃げることもできるんだけれどどうかな」
ナグトはその矢印を目で追うと、一度頷くが、
「悪くないが、少々難しいな。こいつを見てくれ」
そして画面に表示されるのはいくつかの写真。
「これはそのルート上にあるセンサー類だ。ただの監視カメラやモーションセンサーならいいが主要ドアに複合型のセキュリティドアがある。これを開けるにはセキュリティカードとカード持ち主の網膜、掌紋、あとついでにカメラに顔を写して監視室にいるガードマンがそれを確認して初めて開くようになっている。もちろん俺達なら蹴破ることもできるだろうが今回の仕事はできれば穏便かつ静かにやってくれという事だ。スマンが却下だな」
「そっかぁ……」
ロスは椅子にもたれかかると再び考えこむ。
「やっぱお前は脳筋でダメだな、こういうのは馬鹿正直に堂々と突っ込まなくたっていいんだよ。今回の目的は適当な写真撮ってめぼしい資料をかっぱらうだけでいいんだ。なにもここの資料を一から十までかっさらえってことじゃねーんだよ」
ズヴァートがミートパイをかじりつつ馬鹿にしたように笑う。
「じゃぁ姐さんにはいい案でもあるのかよ」
少しむっとしたようにロスが言い返すと、彼女は足元に転がっていた4つのボストンバッグを軽く蹴る。
「ロス、お前スパイ映画とか見ないタチだろ?甘ったるいメロドラマと脳みそすっからかんのコミックヒーローばっかりだもんな。仕方ねぇ、優しいおねーさんが教えてやる。こういう仕事の基本は変装偽装にあとはエッセンスとしての嘘なんだよ」
そして、なぁ?、と同意を求めるように彼女はナグトに視線を送る。
「まぁ、おおよそそうだな。俺もそう言う方面で考えていたが……、その袋はなんだ?」
ナグトに言われ、ズヴァートはいたずらっぽく笑いながら袋のジッパーを開け、中に入っていたものを取り出す。
 それは白を基調にした薄い青緑色のラインの入っているシャツと、それに合わせるのであろうプリーツのロングスカート。
「あ!!それ!」
それを見たブラウは今まで置物のように黙って食べ物を腹に入れているだけだったのが嘘のように跳ね立つ。
「隊長この服知ってんの?」
ロスはシェイクを啜りながら興味なさそうに呟いた。
「知らないの!?だめだよそんなんじゃぁ。この服ってものすごい人気で何人もの少年少女が倍率55倍以上もの難関をくぐり抜けてでも手に入れようとしているんだよ!?」
ブラウはロスに掴みかからんばかりの勢いでまくし立てる。
「な、なんだよいきなり。何これ、そんなにレアな服なの?」
「私立、聖ニコリウス・ロッケンバーグ・エルシュテン神学院」
ズヴァートがそう言う。
「なんだその滅茶苦茶な長い名前、学院ってことはスクールか?」
ロスは呆れたように顔を手で覆った。
「世界でも有数のお坊ちゃまお嬢様スクールだよ、そこの学籍を持つこと自体がステータスとして成り立つほどのな。1年間の学費でとんでもない豪邸が建つって話だ。この制服も一着フルセットでお前の体重と同じだけの白銀に並ぶ価値がある」
「オレにはそういう話はピンと来ないよ。55倍ってのは入学試験の倍率か?」
それに対し、ブラウはキャラメルマキアートのストローをタクトのように振りながら言う。
「ちがうんだなぁそれが。入学自体はお金を払えばだれでもできるんだよ、でもこの制服を着るにはエルシュテン学院でも特にエリート階層の学生のみに支給されるの。その倍率が全学生の中でおおよそ55倍」
「へぇ?エリートねぇ、難しいテストとか資格でもいるのかな」
「ハンター、ハントレスとしての適性だよ」
ブラウは続ける。
「エルシュテン学院のエリートっていうのは優れたハンターやハントレスなの。有り余る資金に物を言わせてあの学院は優秀な兵士を育成している。一般生徒からかき集めたお金はエリート階層のために使われる。だからこそ生徒や親たちは血眼でその狭い門をこじ開けようとしているの」
ブラウはそこまで言うと、再び椅子に腰を下ろして一抱えもあるハンバーガーに口をつける。
「で?そのエリートの制服をどうしようっての?」
 ロスの質問に答えたのはグリーンティーを啜っていたナグトだった。
「学院はその特性上、多くの研究機関や施設に太いコネクションを持っている。今回の標的もその一つだ。ズヴァートの考えていることはおおよそ分かるさ。学院のエリート生徒になりすまして、施設見学とでも偽って堂々と動き回らせてもらうつもりだろうな」
「ビンゴ、さすがニンジャは察しがいいな」
ズヴァートはドリンクカップに残った氷を噛み砕きながら言う。
「グラースに頼んで施設見学のアポイントメントを偽装してもらった。ナグトに予め施設の重要ポイントも調べて貰った。あとはあたし達は生徒のフリして白昼堂々正面からお邪魔してしまえばいい。一度入り込めばあとは臨機応変にちょろっと済ませばいい、イージーな仕事だろ?なぁ?」
「そううまく行くかなぁ……」
チキンフライの袋を開けながらロスは心配そうに眉根を寄せる。
「うまくヤルのがあたし達の腕の見せどころだろう?お前は体がデケェのにいちいちビビり過ぎなんだよ。男なら胸張れ」
 そう言って彼女はロスの背中を軽くはたく。
「よっし、作戦を煮詰めるぞ。アポの時間は今から大体40分後だ。受付を済ませたら担当の係員があちこち見せて回ってくれることになってる、んで、タイミングを見計らってそいつからカードと体を借りる。これはもちろんナグトの仕事だな。そうするとこっちの人数が一人足りなくなるわけだが、そこはあたしが巧いことやるから気にしなくていい。ここまで来たらあとはセキュリティドアをナグトに通してもらってめぼしいもんをかっぱらってトンズラするだけだ。回収ポイントはメインが建物前の大通りに車が一つ、これがマズかったら徒歩で離脱すりゃいい、これもダメなら映画よろしくド派手に退場だ。一度逃げちまえばこっちのもんよ」
「姐さん、オレの仕事は?」
ロスは挙手とともにそう問う。
「あ?お前はニコニコしながらアホのふりしてろ」
「マジかよ、アホの振りはむずかしいなぁ」
「なんでだ?」
「オレもとからアホだしなぁ」
ロスはふざけたように微笑んで軽口を叩いた。
それにズヴァートは軽い笑いと共に、
「そんだけ余裕がありゃ上等だ。飯は食ったか?片付けは別のやつが済ませるから構わん」
皆が頷く
「よし、着替えろ。チームBRNZ、行動開始だ」
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