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青い海に向日葵を 作者:ささべまこと
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Act. 1

「あれー?今日はいつもの雑誌とちがうじゃない。何でも知ってるとは思ってたけど、医学にまで手をだしちゃうの?おたくもほんと、好きだよねぇ」
大仕事が終わって報告書の作成も済み、忙しさがおちついた水曜日のお昼。世界の法と秩序を守る国際的組織、UNCLE (United Network Command for Law and Enforcement)のニューヨーク本部の食堂の一角で、医学雑誌を片手に食事をするクリヤキンにソロは声をかけた。他の人になら、ご飯中ぐらいはゆっくり食べたら?と声をかける所だが、この相棒にはそんなことを言っても無駄だ。UNCLE No.2のエージェントであると同時に、電子工学と機械工学、そして物理学の博士号を持ち、科学をこよなく愛するイリヤ•クリヤキンが読みかけの科学雑誌を手にランチタイムに突入する光景は、そう珍しいものではなかった。
ソロに声をかけられて、クリヤキンは科学雑誌から顔をあげた。
「最近の遺伝工学の技術はすごいよ。人を自由に操れる日も近いかもしれないね。」
目を輝かせて言いうと、クリヤキンはまた、すぐに視線を雑誌へと落とした。そんなクリヤキンを見ながら、ソロは手に持ったトレイをテーブルにおきつつ、クリヤキンの前の座席に座った。
「なんだか、物騒な事をいうねぇ。科学の進歩は歓迎だけど、そんなことできるようになったら、ツグミさんたちが騒がしくなりそうじゃない?」
ランチに頼んだパニーニにかぶりつきながら、のんびりした口調でソロが言う。ナポレオン•ソロの大きくクリっとした茶色い目と柔らかい物腰、軟派な物言いにうっかりとUNCLE No.1と謳われる敏腕エージェントであることを忘れてしまいそうになる。しかし発言には世界征服を企む悪の組織、THRUSH(Technological Hierarchy for the Removal of Undesireables and the Subjugation of Humanity, 英語でつぐみの意味)への懸念がしっかりと現れていた。
「ん?ごめん、ちょっと言い過ぎだった。まぁ、まだしばらくは大丈夫なんじゃないかな。」
ソロの懸念を読み取って、クリヤキンが答えた。
「なぜだい?」
「ここに書いてあるのは、光で脳の神経回路をON/OFFする技術なんだ。」
「光?光って、この光のことかい?」
とソロは食堂の天井にぶら下がる室内灯を指差した。
「そうだよ。っていっても特定の波長じゃないといけないんだけどね。光を受けると神経回路を活性化させるタンパク質があるんだけど、遺伝子操作でお目当ての神経回路の場所でそのタンパク質を作るようにすることができるんだ。」
「それって、そのタンパク質ができちゃったら、その後は特定の波長の光でその神経回路を操れるってこと?でも、神経回路なんてどうやって照らすの?脳の中だよね?」
「そうだよ。脳の中にその神経回路を照らすための超小型ライトも一緒に埋め込むんだよ。遺伝子操作してライト埋め込みの手術してって結構手間だから、誰でも彼でも操って世界征服、な~んて、ツグミさんたちが好きそうな話にすぐなっちゃうってわけじゃないよ?」
脳に埋め込むと聞いて嫌な顔したソロを見て、くすくすとクリヤキンは笑い、読んでいた科学雑誌を自分のトレイの横においた。どうやら、遺伝工学の記事は読み終わったらしい。科学雑誌の呪縛から解き放たれると空腹がよみがえってくる。夢中になって雑誌を読んでいたせいで食事半ばだったことを否応なく思い出し、目の前のソロに続いて、クリヤキンは食べかけのサンドイッチを頬張った。
ソロはそんなイリヤを眺めながら、
「ほんと、新しいことも何でも良く知ってるよね。おたくのその情熱をもう少し周りのお嬢様方にそそげばねぇ。そんなんだから、堅物だなんていわれるんだよ?イリヤ」
とため息まじりに言った。もちろんクリヤキンだって負けてはいない。
「ナポレオンは、もうちょっとその女好きをなんとかした方がいいよね。美女だと思ったら敵さんだって構わずに口説いちゃうんだから」
サンドイッチの最後の一口を頬張りながら、クリヤキンはしっかりとソロを見返す。憎まれ口を叩き合い、鋭く視線をかわし合うように見えて、その目にお互いに笑っている。
まぁ、つまるところ、いつも通りの挨拶を交わしているようなものである。

ソロのパニーニもクリヤキンのサンドイッチも姿を消し、残ったコーヒーの香りが漂っている。ここ最近は任務におわれ、その報告書におわれ、ゆっくりとコーヒーをすするようなのんびりとしたランチタイムは実に久しぶりであった。
「そういえば、イリヤ、午前中はどうしてたの?」
コーヒーを飲みながらソロが問う。急ぎの仕事がなかったせいか、相棒は午前には二課にはいなかった。科学雑誌も持ってたし…開発部か医療部にでも行ってたんじゃないかと心の中で予測していると、まさに案の定であった。
「ん?開発部にいたよ。マークに開発中の小型ランチャーに関して意見を求められてさ。あたらしいランチャーにはカメラと追尾装置がついてて、特定の標的を追いかけられるようになってるんだ。で、標的をインプットするためのインターフェースを開発中でさ。発射する人間は眼鏡型のスクリーンをかけるんだけど、そこにはランチャーにつけられたカメラの映像が移ってる。その視界の中の標的を思い定めた瞬間ランチャーに指令が行くように、打ち手の脳波と視線の動きを検知するセンサーもついてる。そんなんだから、普段は医療部につめてる神経学者のフランクも来ててさ。」
「なるほど。そこで、今日の遺伝子工学の話を聞いていた訳だ」
「そういうこと。」
「でも、そのランチャー、凄いね。視線を向けるだけで標的を定められちゃうんでしょ?いつできそうなの?」
「だいたいはできてるんだけど…微妙な調整がうまく行かないんだよね。識別の精度があまり良くなくて。色と大きさから画像判定で標的を識別してるんだけど、似た色で似た大きさのものが視界に入ってくるとダメなんだ。つまり、」
「みんなが似たような車に乗って応戦してくるような現場ではまだ使えない」
「そういうこと。」
「ん?でも少々標的が変わっても打てないわけじゃないんじゃないか?」
「いや、間違って一般人を攻撃したなんてことにならないように、標的を見失った時には減速して落ちるようになってるんだ。もちろん爆発もしない。そりゃ、落ちるまでにどこかにあたるかもしれないけど、威力はないからね。そういうナポレオンは午前中、何してたのさ?報告書は珍しく済んでるし、やることなかったんじゃない?」
突然に暇人認定されてしまったソロが、そんな事ないよ、と言いかけたとき、ソロの胸ポケットに入っている通信機が鳴った。ペン型の通信機は外ではここ本部や支部、仲間との通信に使うが、アンクル本部内では内線代わりに使用される。
「はい、こちらソロ」
「ソロ君か、イリヤと一緒にすぐに来てくれ」
通信機の向こうには二人の上司、ウェーバリーの声。この老練で策士な上司に二人はいつも泣かされている。そんなウェーバリーの声には、通信越しでものんびりとした空気を切るような微かな緊張感があった。ソロとクリヤキンはさっと視線をかわすと、トレイを持って立ち上がり、課長のオフィスへと向かった。

******************

二人が課長のオフィスにつくと、ウェーバリーがいつものテーブルについて、机の上に広げた資料とにらめっこしていた。彼は一見、とても穏やかな老齢の紳士に見えるが、なかなかどうしてしたたかで、UNCLE No.1 No.2であるソロとイリヤのコンビを掌で転が…もとい、使いこなせるのもUNCLE広しといっても彼ぐらいだと言ってよいだろう。ウェーバリーはソロとイリヤの実力をよく知っていて、いつも最大限彼らの能力を引き出すことに成功していた。つまり、ソロとイリヤにとってはこの課長から常に難題を食らっていたわけだ。
そんなウェーバリー課長は簡単なことでは取り乱したりしない。今日もやはり落ち着いて席についていたが、さっきの通信といい、今、資料を見つめる視線といい、どこかしら、尋常ならざる雰囲気を漂わせていた。
部屋に入ってきた二人に気がついたウェーバリーは二人に顔を向けると、片手で自分の傍らの座席を示しながら、
「やぁ、ソロ君にイリヤ。まぁ、かえたまえ。」
といつものように言った。かすかに、通信機越しに聞いたのと同じ緊張感が混ざっている。二人は、これは何か厄介なことかな、と目配せし合い、円卓に座るウェーバリーの並びの座席に腰掛けた。
二人が席に着くや否や、単刀直入にウェーバリーが切り出した。
「君たちはこれが何だかわかるかね?」
ウェーバリーは先ほどまでにらめっこしていた2つの写真を二人の方へと机の上を滑らせた。
どちらの写真も白黒で、一つは小さなタンクに8本の足がついた、鼎のような形で、もう一つは丸の両端に鍵のような足と小さな三角錐が突き出していた。丸は実は球になっていて、真ん中で割れ、中にもう一つの写真にある鼎らしきものがのぞいている。
「これは…何かの電顕写真のようですね?ウイルスか何かですか。」
ソロがいぶかしげに眺めながら、隣のイリヤに写真をまわした。
「どうだね、イリヤ、君はわかるかい?」
尋ねるウェーバリーに、写真をしげしげと眺めながら、記憶を探るようにイリヤが答えた。
「一つはバクテリオファージの仲間に見えますね。典型的。だけど、こっちは…なんですか?バクテリオファージが中に入ってるみたいだけど…」
クリヤキンがバクテリオファージと言ったのは、鼎のような写真の方。もう一つの丸に鍵と三角錐の方はなんだか考えあぐねていた。
「そっちは、最近、ドイツや日本で開発されたナノロボットによく似たものだ。イリヤの言う通りバクテリオファージを中に格納している。隣についている三角錐は分子メーザーだよ。」
「分子メーザー?」
ウェーバリーの説明に、納得顔でうなづいたクリヤキンに変わり、いぶかしげな声を上げたのはソロの方だった。それに答えたのはイリヤだ。
「マイクロ波を出す分子だよ。ナポレオン。アンモニア分子なんかがそうなんだけど、エネルギーの低い状態が一つではなく二つあるんだ。そういう時には、量子力学的にはその両者の状態を行き来することができる。そのせいで振動が起きて、マイクロ波を出すのさ」
ソロにはイリヤほどの科学的素養はない。だが、そこはやはりトップエージェント。守備範囲外の情報であっても、必要な内容を取り出し、結論を導く事ができる。
「量子力学…。おたくの専門分野じゃない。こっちのバクテリオファージというのはウイルスの一種だよね?ウイルスって確か人のDNAを書き換えられるんじゃなかったっけ?」
「正確には人のDNAに自分のRNAを割り込ませるんだけどね。」
「なんか、僕はさっきおたくが話していた事を思い出したよ。」
「何?光遺伝学の話?」
「そう。それそれ。マイクロ波ってのは光と同じ電磁波じゃないか。何だか知らないけど、このナノロボットは、DNAを書き換える設計図とその場所を照らす灯りの二つを両方持ってるってことだろ?その設計図がなんだっけ、神経細胞を光でON/OFFできるスイッチをつくるものだったら、まさにさっき君が言ってたことだろう?」
ソロの言った可能性にクリヤキンの青い瞳が少し見開かれた。
「その通りだよ、ソロ君」
ここまでのソロとクリヤキンの会話を聞いていたウェーバリーが苦々しげにそういった。
「実際、そのバクテリオファージがなんの設計図を持っているかは知らないがね。まぁそのメーザーでON/OFFできるものに違いない。ターゲットが神経細胞というのも、おそらくあたっているだろう。これと全く同じものはまだ世界のどこでも発表されていないんだが、パーツパーツには色々な研究機関で開発されたものによく似てるんだよ。たとえば、バクテリオファージを格納する球は最近ドイツで作られたものによく似ていてね。単なる球じゃないんだよ。タイミングを見計らって、球が二つに割れるようになっている。球についてる鍵のようなものは、日本で開発されたものだ。これが神経細胞の表面に取り付くためのものなんだと、医療部の奴らが言っていたよ。メーザーはそれほど珍しいものではないしね。」
「課長、この写真、どこで撮られたものなんですか」
「いい質問だね、ソロ君。」
ウェーバリーは振り返り、壁に取り付けられたスクリーンへと二人の注意を誘った。部屋が少し暗くなり、スクリーンには一つの腐乱死体が映し出された。ソロもイリヤも思わず顔をしかめる。
「この写真のナノロボットはこの腐乱死体から採取された。もうかなり腐っていたんだが、一部血液が残っていてね。その中から出てきたんだ。」
「どうしてまた、そんな腐乱死体から血液採取なんて?ちょっとした検査が必要でしょうに。」イリヤが不思議そうに首を傾げると、彼の金髪がさらりと揺れた。UNCLEの女性たちの多くが密かにイリヤのファンであることを、当の本人だけが知らない。
「この腐乱死体は、実はマグロ漁船が見つけたものでね。太平洋のど真ん中で引き上げたそうだ。まぁ、海では時折そんなこともあるけどね。でもその海域は陸地からも遠く、島もほとんどないからめったにそんな事があるわけではない。だが…今年に入って立て続けに4件、死体が引き上げられた。」
「その4死体すべてから、これが検出されたんですか?」
「いいや、ソロ君、最初の2体は血液検査はしていないんだ。かなり腐乱が進んでいたし、もはや人の特徴もよくわからなかったからね。どこかから遺体が流れてきたのだろう、で済んでいた。一応、こちらに情報は入ってきてはいたがね。しかし、一ヶ月もしないうちに比較的きれいな状態で3体目があがってね。さすがにこれは何かある、ということで身元を調べようということになったんだよ。結果、3体目と4体目の両方からナノロボットが検出された。」
「イリヤ、これは今日言ってたことが本当になったんじゃないのか?」
ソロは光遺伝学の話をした時に”ツグミさんたちが世界征服に乗り出すのでは”と言った冗談が本当になりつつあるのではないか、とクリヤキンに視線を向けた。
ソロの視線を受けたクリヤキンは少し眉間にしわを寄せながら、ちょっと困ったように言った。
「でも、ナポレオン。この話は、今のところマイクロ波領域で動く光スイッチタンパク質が見つかっていない事と、このナノロボットを目的の神経細胞のところまでどうやって運ぶか、というデリバリーの問題がまだ残ってると思うんだよ。」
「どういうこと?」
「まだ、このメーザーで動く光スイッチは見つかってないはずだよ、ナポレオン。だから、このナノロボットがもし神経細胞に光スイッチを取り付けるものなら、わざわざマイクロ波領域の光スイッチタンパク質を開発したってことだろ?それはこのメーザーを使いたかったからだと思う。タンパク質は複雑で開発は結構大変なはずなんだ。ちょっとした条件で状態も変わるし…小型LEDを手術で取り付ける方がよっぽど楽だと思うんだよ。」
「なるほど。それから?」
この学者肌の相棒がまだ全ての懸念を語りきっていないことを見て取ったソロはクリヤキンに先を促した。
「普通の光遺伝学はある薬剤を投与している間に動いていた神経細胞にタグ付けできるようになってるんだ。でも、そうやって被験者に対して狙った時間に薬剤を投与し、薬が作用している間に決まった神経細胞を働かせるように仕向けられる環境なら、被験者に手術することだってできると思うんだ。なのにこんな手の込んだ開発をするってことは…これを作ったのが誰だか知らないけれど、一度このナノロボットを何らかの形で取り込ませたら、あとはすべてが自動で進むようになっているんじゃないのかな。でも、そうだとしたら、どうやって目的の神経細胞をこのナノロボットは決めるんだろう。見たところ、格納庫とアンカーとメーザーしかついてない。」
クリヤキンの疑問にソロは疑問を口にした。
「でもさ、イリヤ。別に標的は選ばなくてもいいんじゃないのか?やたらめったら取り付けて、適当に神経回路を活性化させたら、人はまともに動けなくなる気がするんだけど。」
「それは、確かにナポレオンの言う通りだけど、それだとその人は使い物にならないよ。廃人を大量生産するだけなら、もっと安くて簡単にできる薬がいっぱいあるよ。」
「確かに…手間暇かけて開発したものでするんじゃ、コストパフォーマンスが悪すぎるね…。」
クリヤキンの答えを自分の中にしみ込ませるように、ゆっくりと同意したソロは目でクリヤキンに先を続けるように促した。
「それにさ、ナポレオン。このナノロボットを脳内に取り込むのは結構大変だと思うんだよ。課長、さっきナノロボットは血液の中から見つかったと仰っていましたよね。」
「ああ、そうだが。」
「血中にナノロボットがいたということは、経口摂取とか注射とか割とよくある手段で体内に取り込まれたんじゃないかと思うんだけど、そこから脳に行くにはそれなりの関門があるんだ。」
専門でなくてもクリヤキンの言わんとしていることにはソロもピンときて、ソロ自身が言葉をつなげた。
「まぁ、そうだよね、人間にとって最も大事な司令塔に簡単に何かが侵入できるようじゃね」
一通り話し終わったのか、一息ついてナポレオンとウェーバリーを見たイリヤを見て、ウェーバリーが口を開いた。
「さすがだね、イリヤ。まさに君が言った事をさっき医療部の連中からも聞かされた。でもその一方でやっぱり、これだけのものを見せられると、どうしても誰か人を操る準備をしているようにしか見えないのも事実だよ。もし、イリヤがさっきあげていた問題点が解決されていれば、十分に考えられるシナリオだ。」
ウェーバリーは険しい顔つきで写真以外の残りの資料をソロ達の方へと押しやった。
「で、僕たちの任務は実際にこれが何なのか、誰が作ったのか、どうして死体が4体もあがったのかを調べてこいってわけですね。」
「ああ。もちろん、開発に成功しているのなら、その技術も持ち帰ってくれたまえよ。さ、行ってかまわんよ。」
さっきまで険しい顔をしていたウェーバリーだが、ここにくると言いたい事は全て言いすっきりしたといわんばかりに、晴れやかな顔をして二人に退席を促したのち、円卓から立ち上がってウェーバリー専用のデスクへと戻った。
そんな課長の様子を見て、ソロとイリヤは顔を見合わせ、ほんのちょっぴり肩をすくめ合った。

****************

「ま~た、課長に面倒な任務おしつけられちゃったね、ナポレオン」
ウェーバリーの部屋から出るなり、クリヤキンが言う。だが、言葉とは裏腹にその青い目は少々輝いている。
「本当にそう思ってる?今回のネタは、堅物科学オタクのおたくには興味津々の話なんじゃない?今だって目が爛々としてるようだけど?」
「う~ん、まぁ、本当にデリバリーの問題や、好きなターゲット細胞を選べる技術があるんだったら、それは医学の大きな進歩だからねぇ。でもさ、ナポレオン。これ、どこからはじめればいんだろうね?」
やはり、どこかうれしそうなイリヤを、しょうがないな、という表情で見ていたソロは、これから取るべき行動を整理しはじめた。
「そうだねぇ。情報らしい情報なんて、ほとんどないんだもの。これじゃ、干し草の中から針をみつけるようなもんだねぇ。えっと、わかってることってなんだったっけ?」
「ええっと、わかっていることは…死体が見つかった海域はマーシャル諸島に比較的近いのか…っていっても500kmぐらいは離れてるけど。で?死因は全身打撲ってところなのかな、高いところから身を投げたみたいだね。骨折の様子から岩礁に打ち付けたんじゃないかって所見があるみたい。人種は…どうも4体とも違うみたいだね?で、あとはさっきの謎の写真が2つ。」
「みんな違う人種なのか。やっぱり人体実験だったのかな?どう?イリヤ、おたくが新薬を実験するなら、やっぱり色んな人種で試す?」
「う~ん、そうだねぇって何を言わせるんだよ。おたく、人をマッド•サイエンティストかなにかと勘違いしてない?」
イリヤが資料から目を離して軽くナポレオンを睨む。
「まさか!アンクルのお姉様方を知らず知らずのうちに虜にするほど、おたくは紳士で親切だってちゃ~んと心得てますよ?」
ナポレオンが楽しそうに返す。イリヤがますますむくれたのを見て、
「はいはい、怒んないでよ。だって、なんだか楽しそうなんだもん。」
ソロが軽くすねた物言いをした。どうやら、相棒だけが楽しそうで、若干置いてけぼりを食ったような気をしていたらしい。もちろん、楽しそうにしている相棒を見てからかい、自らも楽しんでいる部分は大いにあるのだが。
…ほんと、らしいよね…。
「ま、それはおいといて。イリヤ、さっきこのシナリオを完成させるためには、まだパーツが必要だって言ってたよね。それもかなり大掛かりな開発。その辺りから何か探れたりしないかな?」
「そうだね。もしこれがTHRUSHの仕業なら、いつものように誰か専門家を強制的にお招きしたりしているんじゃないかと思う。とにかく、使われていた技術を開発したラボに問い合わせてみるところから始めようかな。」
「OK.そっちは僕が聞いても何の事かわかんないだろうから、君に任せるよ、イリヤ。僕の方は、マグロ漁船の船長にあって、死体の状況をもう少し詳しくしれないか探ってみようと思う。天候や海流の流れから、どこから来てるか、多分だいたい検討がつくよね。明日の朝一の飛行機でマグロ漁船の会社がある日本に飛ぶよ。」
「了解って、そっかマグロ漁船の会社、日本だったのか。ってナポレオン、日本語は大丈夫なの?」
「ん?まぁ、僕だって多少はしゃべれますよ。おたくがペラペラなのは知ってるけどね。」
「なんだったら日本まで一緒について行くよ、と言いたいところだけど、こっちはドイツと日本と両方あたらないと行けないから、先に情報を集めるだけ集めて、何かわかりそうな方に行く事にするよ。ま、一人で大丈夫だよね。っていうか、少しぐらい言葉が不自由な方が任務に集中できていいかもね?」
「?」
ソロは首を傾げた。
「だって、女の子口説くとき、言葉が不自由だとナンパも一苦労でしょ。」
クリヤキンはニヤッとわらった、そして、さっきの応酬が相手に一発食らわせたのを見届けると、不意打ちを食らったソロをおいて、情報収集のためにコンピューター室へと向かった。

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