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ねじれた境界線 作者:苑
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頼れるものは

 スケジュール帳と睨み合う。
 二週間先に、従姉妹の誕生日が待ち構えていた。
 昨年、誕生日に上質なコーヒーをもらってしまったので、何も渡さないわけにはいかないのだ。しかし、プレゼント選びというのは本当に悩むもので、特に異性の欲しがっているものなどはまるでわからない。
 ため息とともに手帳を閉じる。いい加減、百貨店などへ出かけてみなければ。重い腰を上げ、すっかり身支度を済ませたところで、ふと妙案にあたった。
 女性の気持ちが分からないのならば、女性に聞いてみれば良いのだ。
 一番に浮かんだのは、旧くからの知人。いいや、あいつはだめだ、アドバイスなんかまともにくれやしない。それでは別の友人だと思いついて、電話をかけてみる。あの人ならば、親身になって相談に乗ってくれるだろう。
『……もしもし、亮くん?』
「久しぶり。今、話せるだろうか」
 数ヶ月ぶりの突然の電話にも快く応じてくれるのは、おそらく彼女くらいしか僕の友人の中にはないだろう。
『大丈夫よ。めずらしい、どうしたの?』
「たいしたことではないのだけれど。実は、従姉妹の誕生日に何か贈りものをしようと思っているのだが、どんなものが喜ばれるか、さっぱり分からなくて、考えあぐねているのだ。よかったら今度、一緒にみてくれないか」
 言い切ると、少し気まずそうに息を詰まらせている。これは、どんな不都合だろうか。
『ごめんね、今九州の実家にいるの。親の手伝い。だから、見てあげるのはちょっと……』
「そうか、知らずにすまない。いや、気にしないでくれ」
『タイミングが合わなかったね、ごめん。そうだ、何か……プレゼントしたいものの候補とか、あるの?』
「候補……いいや、まだ何も思いついていないんだ」
『そっか。じゃあ、従姉妹さんは、いくつ?』
「ええと、二十四になるみたいだね」
『だったら……そうだなあ、フォーマルな場面で使う物とか、案外喜ばれるかも。ほら、周りが結婚とかし始めるじゃない? 小物があってもいいし。あとは、やっぱり普段使えるものかな』
 なるほど、その通りだと思い記憶に留めておく。
「普段使うものというのは、例えばなんだろう」
『家の中で使うようなものでも、持ち歩けるものでもいいんだけど。人にもよるけれど手触りの良いタオルとか、私だったらポーチとか欲しいな。かわいらしいものをお店で見かけても、手を出しにくいから』
「参考になったよ、ありがとう」
『いいえ、直接力になれなくてごめんね。良いものが見つかるといいね』
「ああ。こちらこそ、突然すまない。またそのうち、会って話そう」
『うん。じゃあ、またね』
 電話を切ると、無音が部屋に響いた。
 とりあえず店へ行って品物を見なくては、僕には何も思いつかない。
 行ってもピンとくるものがなかったら……などと考えるのは悪い癖だ。構えずに、参考にする程度で良いのだ。
 曇り空の下を、ぼんやりと歩き出す。何かが足りない気がして、心の中首を傾げながら。
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