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[FT]対「イスラム国」結束を阻む部隊・宗派の利害

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2016/5/29 3:30
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 イラク北部のモスルを支配する過激派組織「イスラム国」(IS)の部隊は極めて脆弱に見える。西には進軍の用意ができている武装勢力があり、北、南、東にも陸軍と民兵部隊が20キロ先まで迫っているからだ。

 だがイラク軍と民兵組織によるモスル奪還は容易でない。周辺の勢力は激しい対立関係にあり、同地域の支配を巡り政治的野望や勢力闘争が渦巻いている。このことがISとの戦いの軍事作戦を妨げている。

■紛争の終結妨げ 流血招く事態も

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 ISがモスルをはじめ、シリアとイラクの広大な地域を制圧し世界に衝撃を与えてから2年。以来、ISと戦う米主導の連合部隊は成果を上げてきた。米国防総省によると、ISは掌握したイラク領の46%、シリア領の支配地域の16%を失った。これは米政府関係者の想定より速いペースだ。そのため、地域の様々な勢力は戦争が終わったかのように自信を深めている。

 ISが生み出した地域再編により、新たな領土を奪ったり、勢力圏を再確立したりする機会が生まれた。こうした野望は紛争の終結を妨げるだけでなく、今後、宗派間の流血の惨事と地域内の代理戦争を引き起こす不安を招く。

 ISとの戦いは3つの領域の奪還にかかっている。モスルとシリアのラッカ、トルコ国境に近いマンビジポケットと呼ばれる地域だ。だが、いずれも複雑な利害関係に覆われている。

 イラクは政府を支配する多数派のシーア派アラブ人と、少数派で権限拡大を求めるスンニ派アラブ人、独立を求める少数派クルド人に分裂している。モスル周辺の現状はその緊張を反映する。モスルはイラク中央政府と半ば自治を行っているクルド自治政府(KRG)が、かねて領有権を主張してきたいわゆる係争地域の一部だ。つまり、自分たちが奪い合おうとしていた領土をISから奪還するために同盟関係にあるが、両者の関係はよくない。

■要所モスル奪還「運良くて来年」

 KRGは渋々、モスルの南にある自分たちの拠点にイラク陸軍の部隊5000人を受け入れたが、同部隊が進軍しようとして失敗した時、クルド人は傍観しているだけだった。

 一方、トルコはモスルの北に置く部隊を増強し、イラク政府とその支援国イランの怒りを買っている。ISが制圧する以前のモスルはトルコの商業活動と諜報(ちょうほう)活動の主要拠点だった。モスルに拠点があれば、トルコと米国がテロリスト集団と見なし、トルコが30年戦ってきたクルド労働者党(PKK)が勢力を振るう地域の近くにトルコ政府は足がかりを持つことにもなる。PKKは今やイラク北部から国境を越え、シリアの姉妹組織が勢力を持つ地域にまで影響力を広げる。

 モスル出身のある識者は、奪還後のことを考え、連合軍は住民が信用する部隊を送り込む必要があると指摘する。こうした事情を考えると、今年中にモスルを奪還する計画は楽観的に見えるとあるクルド人は言う。「運が良くても来年だ」

 宗派間や民族間の緊張関係はマンビジポケットとして知られる地域にも存在する。これはトルコとシリアの国境沿いにアルライなどを通る90キロ続く地帯で、マンビジなどにも広がる。イスラム過激派たちがトルコへ入る最後の通過地点で、欧州への玄関口となっている。

 問題は連合部隊内の対立にある。この数週間で、トルコ人と連合部隊の支援を受けたシリア反政府組織がアルライを制圧した。米国とトルコの部隊は対立し、統制がとれていないため、彼らが支援するグループも緊張関係にあったという。そうした間隙を突き、ISが地域を再び取り返し、何千人もの難民が生まれた。マンビジポケットの西部ではそれ以来、ISとシリアの反政府勢力による勢力争いが続いている。

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