コンテンツを作る者がいれば、そのコンテンツを消費するユーザーがいます。コンテンツはユーザーに消費されるために作られ、ユーザーはそのコンテンツに飽きればまた新たなコンテンツを探します。この関係性に明確な終わりなどありません。
しかし近年、コンテンツにおける制作者と消費者の関係性にも、大きな変化が生まれてきています。その原因は、無料で楽しめてしまうコンテンツの登場です。
そこで今回は、無料コンテンツが浸透した現代において改めて原点に返るべきであろう、「制作者と消費者の関係性」についてまとめていきます。
漫画家・浦沢直樹さんのインタビューから
このテーマについて書いていく上で、まずは『20世紀少年』『MONSTER』などの代表作で知られる漫画家・浦沢直樹さんのインタビューを引用させていただきます。
浦沢直樹さんは、日本の漫画界に対する問題意識としてこのように答えています。
■読者がお金を払わなければ、「あるべき関係性」が結べない
――浦沢さんは、日本の漫画を取り巻く現状を見て、漫画家としてどのような問題意識を抱いていますか?
(中略)
僕ら漫画家と読者の間に、「対価を出して購入する」という契約がなければいけないと思うんです。その時初めて、作品に対する敬意だとか、逆に言っちゃえば文句を言う権利だとか、いろんなことが発生するんだけど、そこが無料だったら、何かその、「あるべき関係性」が結べない感じがするのね。
出典:「読者がお金を払わなければ、"あるべき関係性"が結べない」――漫画家・浦沢直樹さんインタビュー
最近では、無料漫画アプリやWeb漫画などの台頭により、必ずしも漫画を読むために読者がお金を払わなくても良い時代になりました。読者の立場から見ればどこにも悪いことがなさそうな気がしますが、浦沢先生はここに大きな疑念を抱きます。
漫画家(作者)がたとえ読者から直接お金をもらっていなくても、スポンサー収入や広告収入でビジネスとして成立していればそれでいいのか?という問題提起。浦沢先生曰く、決してそれは「あるべき関係性ではない」というわけです。
文句を言う権利について
お金を出した人には、どんどん文句を言う権利があると思うんです。だけど、タダで見たんだったらゴチャゴチャ言うなよ、ってことになっちゃう。本当は作家にとってゴチャゴチャ言ってもらうことは、とってもいいことなんだよね。
出典:「読者がお金を払わなければ、"あるべき関係性"が結べない」――漫画家・浦沢直樹さんインタビュー
無料のコンテンツに対してやたらと文句を言う人がいます。私もよく思いますが、無料なんだから文句なんか言うぐらいだったら使わなければいいわけです。また、中には文句の内容にも生産的なものがあります。これなら無料だろうと何だろうとあった方がいいですが、得てしてこういう生産的な批判というのは、絶対数が非常に少ない気がします。
もし仮にお金を払って買ったものに大きな欠陥があったのならまだしも、そもそもその人自身が一銭も払っていないものに対して文句を言うというのは、お門違いも甚だしい話ですね。
作者と読者の対等な関係性
もちろん「面白かった」って言ってもらえればうれしいけど、なけなしのお金をはたいて買って思った意見て、重みが違いますよね。漫画家と読者の立場が、非常に対等な感じがするんですよ。
出典:「読者がお金を払わなければ、"あるべき関係性"が結べない」――漫画家・浦沢直樹さんインタビュー
前項の「文句を言う権利」とも関係しますが、しっかりお金を払っているユーザーと、お金を払っていないユーザーとの大きな違いは、コンテンツとの向き合い方。
お金を払っている方は、良くも悪くもそのコンテンツを隅々まで見ています。金額の違いこそあれど、どんなものでもお金を払えばその分の元を取りたいですからね。
一方、無料のコンテンツの場合はなぜか自分本位になりがち。さっと流れ作業のように、さぞそこにあるのが当たり前であるかのように、なんのためらいもなく一瞬で消費してしまいます。そして、内容についてそこまで深くも考えずに、特に生産的でもない文句を言うという有様なわけです。
まとめ
無料であらゆるコンテンツが楽しめるようになった時代。確かに消費者にとっては便利な時代になったかもしれません。しかし、いえ、だからこそ、その面白いコンテンツを作る制作者との関係性について改めて考え直すべきなのかもしれません。
あなたは今、目の前のコンテンツと誠実に向き合えているでしょうか?