名将がミーティングで選手に説いたのは、野球のやり方ではなく、心の持ち方だった。野村克也氏と宮本慎也氏が著書『師弟』に込めた仕事や人生のセオリーとは何か。各界の一流たちの共感の思いを紹介する。
反省は未来にむけてやる
「非常にわかりやすく、そして『プロ野球選手はここまで考えてやっているのか』と驚きを感じました。ビジネスの世界に身を置く私たちがそこまで考えてやっているか、と反省させられましたね」
マネースクウェア・ジャパンの創業者で、日本で最初に外国為替証拠金取引(FX)をはじめた山本久敏・取締役ファウンダー(56歳)が明かす。
ヤクルトの黄金時代を監督として築いた野村克也氏と、選手として4年間、同監督に仕えた宮本慎也氏の共著『師弟』が、発売1ヵ月で3万5000部突破と好調だ。浮き沈みの激しい投資の世界に身を置くトップビジネスマンの心を動かしたものは何なのか。
「特に感銘を受けたのは組織論です。本の中で野村さんは宮本さんを『最高の脇役』と呼んでいます。企業でも花形部署や稼ぎ頭の部門の人だけが脚光を浴びがちですが、実際は彼らだけで組織が回るわけではないんです。
私が現在の会社を創業したとき、それ以前は営業一筋で、感覚で動くタイプの私を、銀行出身で何事も理詰めで判断する副社長が支えてくれた。お互いにない部分を補い合うことができたからこそ、会社を成長させることができたのです」
山本氏は宮本氏がノートにしたためた言葉で、試練を乗り越える心構えを再確認した。
「『反省とは未来にむけてやるもの。過去にむかってやるから嫌になる。失敗が重なってくるということは、成功が近いということだ』という言葉は、腹にストンと落ちてきました」
2002年に現在の会社を創業する前、山本氏は別の証券会社の社長だった。しかし、様々な環境により、自分が理想とする「お客様のためのビジネス」を構築できず、やめることになった。
「その時の心情からすれば、後悔ばかりで前に進めなかったかもしれません。でもあの時は、それまでの反省を未来の糧にし、また私の理想に共鳴した人が何人も集まり、全員が同じベクトルに向かって突き進んだことで、創業5年で株式を公開、今では東証1部上場企業となるまで成長しました」