元「笑点」メンバー・桂才賀、“受刑者を誰よりも笑わせてきた噺家”の半生に迫る

受刑者1000人を前に1時間笑わせる


――「笑点」メンバーになって3年後、レギュラーとして定着していた83年に最初の刑務所慰問を行うんですね。

貴重な刑務所慰問の様子(桂才賀氏提供)

才賀:沖縄に行きました。女房が沖縄出身でしてね。毎年、女房の実家に帰るんですけど、観光地も行きつくしていて暇だったんで、老人ホームを慰問して巡ろうと、県庁の高齢者福祉課に電話したんですね。「ご都合のよろしい老人ホームがあったらご手配願えませんでしょうか」と。

当時、沖縄はNHKと民法1局のみで、アタシは笑点のレギュラーでしたからすぐわかるわけです。「朝次さんと声が似てますねえ~」「いや、当人です」と(笑)。

そういうわけで知名度は高いもんだから一気にスケジュールが埋まって、「老人ホームのすぐ隣に少年院があるんですが、こちらも行っていただけませんか」となった。

――初の刑務所慰問の印象はどのようなものでしたか? 普段の寄席とは環境にかなり差がありそうですが。

才賀:こんなに笑いに飢えている人たちがいるのかと。外の世界にいる人とは切実さが全然違うんです。それに彼らは落語なんて聴いたことない連中が半分以上で、好きなやつはコテコテに好きだけど、ほとんど落語と漫才の区別もつかない。

「なんだ今日の漫才師は一人か」なんて言われて。落語は一人でやるんだっての(笑)。なので“国が違う”と思ってどんどん勉強した。

基本は飢えているから一度つかめば、後はガンガンきます。隠語を散りばめて「そんな言葉まで知ってるの?(刑務所の)先輩なの?」と親近感を持たせる。これがつかみですよね。

例えば、塀の中では休日を日曜日とは言わず、免業日と言うんですけど、「普通、免業日は我々のような者が来なかったら手紙を書いたり、あるいは、センズリをかいたりするんでしょうけど…」なんてサラッと言うと大ウケですよ。こんな用語も最初はわかりませんし、テレビに出ている芸人にはできません。

だから、テレビでウケてる芸人さんでも刑務所慰問では全然ウケなかったりするんですよ。最近は数分間の短い時間で笑かす芸人さんが多いけど、刑務所は「最低1時間」と言われますから。大きい所だと1000人も移動させるので、「30分で終わられちゃ困ります」なんて言われる。

――受刑者1000人を相手に一時間ですか…怖いですね。

才賀:バブルの時期くらいまでは、ヤクザの親分が自分の若い衆が入っている刑務所へ大物歌手を送り込んだりしていたんですよ、組が見栄を張って。差し入れ慰問・ヒモ付き慰問って言ってね。ギャラが良いから色んな歌手や芸人が行った。

当時、アタシの他に自腹で慰問していた芸能人は2人だけです。他はコレ繋がりです(※頬を指で切りながら)。これ、記事で書いて下さいよ(笑)。裏とってるんで間違いないです。って、こんなこと裏とるかってな、普通。

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