2016-05-29
え、エ、江戸時代に腐女子とBL? 現在を過去で描く「借景時代劇」、こんなテーマまで…「咲くは江戸にもその素質 」
まず、「借景時代劇」というものに関してちょっと言っておかなきゃいけませんか。
自分は呉智英の評論で知った言葉(借景小説)だけど、大岡昇平や井上靖の論争―世に言う「蒼き狼論争」などで出てきたのか。
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/33617/1/42(1)_PR65-99.pdf
……菊地(昌典)は全体として森鴎外の歴史小説のどのような点を評価していたのであろうか。菊地は、近代の歴史小説において鴎外のそれを総体として最もすぐれたものとして捉えていた。一一言でいえばそれは、「歴史の史実を尊重すると共に、過去を過去として正確に復原」(「第八章「歴史其偉」考」)している点であった。だから、鴎外の歴史小説は「史実そのもののもつ重みをもって、われわれに迫ってくる。」というのである。そして、その比較上言及されていたのが芥川龍之介と菊池寛の歴史小説であった。彼らの作品は「現代人によるその心理の過去への適用」(「第三
章 歴史小説と借景小説」)であり、それに対して鴎外の作品は「つとめて、ある時代のある心理に忠実ならんとして」いるという。要するに芥川や菊池のものは、過去という時代背景だけを借りてきているにすぎず、そこに登場してくる人物は現代人に外ならない。したがってそこに描かれているのはあくまでも近代的なテーマだというのである。だから、それは厳密にいえば歴史小説ではなく、いうならば「借景小説」ともいうべき現代小説だと菊地はいっている。
呉智英氏は、司馬遼太郎を「借景小説だ」と批判する一方で、みなもと太郎「風雲児たち」を「借景漫画だが、だからこそいい」と評して、ちょっといい加減だなあ(笑)、と思ったのであったよ。ただ、それも確かにそうであって、時代の意識までをリアルに再現した歴史ものもそれはそれで素晴らしいが、たとえば命の扱いや身分意識ひとつをとっても、当時の人間の価値観を出すと現代人は共感しがたい。
あえて、舞台を血沸き肉躍る時代にして、そこで活躍する人たちは「敢て」近代人の意識を注入する―――というのも「アリ」かと思います。
だからといって、NHK大河ドラマで戦国武将が「いくさのない平和な世のなかを目指したいのう…」とかいうのも「アレ」だが(一字違い)
ま、いまの大河も相当に借景部分もあるが、
こういう意識で脚本家が書いているので安心。
「戦を終わらせ平和な世の中を作るぞ」的な会話も、今回はあえて避けるつもりです。とは言っても(戦をしないで済むなら、したくないなあ)くらいは考えていたと思うんです。斬られたら痛いのは、昔も同じですから。そういう生物学レベルで、戦国を描いてみたい。
— 三谷幸喜bot (@mitanin_bot) 2016年1月21日
『真田丸』ドラマストーリー前編
さて、という話をしたところで、以下の作品を紹介します。
咲くは江戸にもその素質 1 (B's-LOG COMICS)
- 作者: 沙嶋カタナ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
- 発売日: 2015/02/14
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
咲くは江戸にもその素質(2) (アクションコミックス(comico BOOKS))
- 作者: 沙嶋カタナ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2015/10/10
- メディア: コミック
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咲くは江戸にもその素質(3) (アクションコミックス(comico BOOKS))
- 作者: 沙嶋カタナ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2015/12/12
- メディア: コミック
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どんな話かというと、こんな話なんだよ。アマゾンの解説から。
江戸時代にも、「その素質」を持つ女の子はきっといたはず……!?
サク、カメ、フミは、同じ寺子屋に通う仲良し江戸女子三人組。最近みんなでハマっている「南総里見八犬伝」だが、
サクは荘助と信乃(注:二人とも男)がくっついたらいいのになーという妄想が止まらなくなってしまい……!?
まてや
コラ。
この作品は、当方が結局のところ知識と実感にうとい(このブログで地道に研究しているうちに、だいぶわかってきたが)BLに関して知識を与えてくれる監修者の方が、3巻セットで貸してくれた。こんな内容とひとことも説明せずに、だ(笑)
もっとも自分は、近代以前に「物語」「学問」に耽溺した、過去の文学者、学者たちの意識を、もう一度現在の「オタク」「ファン」と敢えて同レベルの意識だとみなして、それらを読み替えていくという手法には興味を持っています。
現在、読書週間。このイメージキャラは、やっぱり更級日記作者の「菅原孝標女」だよな。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20141029/p4
平安のオタク物語 「更級日記」、そして源氏物語評価をめぐる”オタ論争”? - Togetterまとめ http://togetter.com/li/563410
枕草子の「香炉峰の雪」も、ノリはガンダム芸人とあんまり変わらん…とも書いたっけ(笑)
http://f1.aaa.livedoor.jp/~heiankyo/co200510news1.htm
宮様は「少納言よ、香炉峯の雪はどうでしょうか」と、いたずらっぽい目をして 私 清少納言にお言葉をかけて下さったのです。
ピン! ときた私は、すぐに そばにいた女房に御格子を上げさせ、また、私自身 御簾を高く巻き揚げて、宮様のほうを振り向き「これでいかがでしょうか」というように目配せいたしますと、宮様は 満足げに にっこりと微笑まれました。
お側にいた女房たちも はじめのうちこそポカーンとして見ていましたが、そのうちに一人の女房が「ほら、あの香炉峰の雪は簾を撥げて見るっていう、アレのことじゃないかしら?!」と言ったのをきっかけにして、みなが口々に「さすがは少納言さん!」…
もしくは前近代の情報伝達手段や記録手段を、いまのネット社会との比喩で考える、という記事も書いてきました。
「もし中世にインターネットがあったら?」…ある訳無いけどさ、魔法で代用できたら? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150321/p3
18世紀の「人力検索はてな」。建部清庵と杉田玄白(「風雲児たち」関連)http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070927#p5
これと同じことを、マンガで私はやっているんだ、ちょっとジャンルが違うだけよ…と言われたらぐうの音もでないが、やっぱり一寸認めたくないのう(笑)
ま、しかし…
これは画像で名場面を紹介していけば、必要以上に伝わる(笑)と思うので、画像を羅列しよう。
どのへんまで「あるある」なのか「オーバーだな、こんなのねーよ」なのか、それは当方が確認できるところではない。
ただ、お母さんが「うちの子は読書が好きになったねえ」と、彼女らの「読み方」を理解できず安心、感心している(笑)という光景は、現代社会でもありそうではある。
こんなニッチなテーマ、ネット漫画だからできたんじゃないかねえ…、だから可能性があるのでは?との仮説
そもそも、こんなふざけたチャレンジングなテーマを掲載した雑誌はどこなんだ、と思いきや。
だと。
comico………さがす……
自分は「なんだこれ、知らんぞ…」となるのだけど、それはただの世代ギャップでありましょう。
わたしは、雑誌を中心に読んでいるし、2015年現在はやはりジャンプ、マガジン、サンデー、ビッグコミック、モーニング…がいまだにヒエラルキーの中心にいるとは思うだけど、ネットネイティブ、スマホネイティブな子たちが「無料」(だよね?)なこういうサイトのほうによりなじみがあっても、全然おかしくないだろう。
そして、印刷して流通させるという制約があり、最大でも15〜18本しか載せられないよ、という制約もあるこういう旧来の紙出版より、ネット漫画サイトのほうが「うーんテーマはニッチ過ぎるんだけど、とりあえず載せてみよっか?」な作品が載りやすいのは間違いないと思う。
もちろん、それを見越して、出版社が紙の雑誌を一軍とするなら、その下の「ファーム」としてネット漫画を囲い込む行為もある。
それらが今後、どういうふうな勢力図を描くのかは興味がある。
にしても、とにかくこうやってネット漫画が生み出した天下の奇書、「借景時代劇」として描かれた、「江戸時代のBLファン」を描くこの作品。
おすすめ…というのは躊躇するが、とりあえず記録しておく必要があると思い、ここに書く。
あと、この本そろそろ返さなきゃいけないので。
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