室蘭市日の出町の一角で、住民らが地域に住み着いた野良猫に不妊手術を受けさせ、協力して世話をする「地域猫」活動を始めた。室蘭市内では初の試み。半年にわたる準備をへて25日、保護していた4匹を「地域猫」第1陣としてまちに放した。全国的な猫ブームの裏で絶えない猫の遺棄や殺処分の抑止を目指す活動の第一歩にようやくこぎ着けた。

 きっかけは、昨年秋の寒い日の出来事だった。

 「おお、かわいそうに」。日の出町の主婦恵子さん(85)=仮名=は自宅前で震える野良猫にちくわを与えた。近所の人が餌付けした野良猫が生んだ子猫だった。以来、子猫は親きょうだい9匹を引き連れて来るように。恵子さんは猫好きではなかったが、おなかをすかせた猫たちに同情して餌を与え続けた。

 一方で、町内では「鳴き声がうるさい」などの苦情も。保健所に相談して殺処分されるのも忍びなかった恵子さんは11月、市民グループ「猫色ボランティア会・室蘭」に相談した。

 同会は殺処分ゼロを目指し、猫好きのパート職員芳賀直美代表が友人ら4人と2013年夏に発足。猫の譲渡会を月1回程度開催し、今年4月までに348匹の譲渡先を見つけた。

 野良猫を捕獲して不妊手術を施し、地域に戻す(TNR)活動にも取り組み、これまで室蘭市内で野良猫に悩む人の相談を受け、83匹にTNRを行っている。ただ、費用は相談者の負担で、芳賀代表は「野良猫の数が多すぎて、個人では対処し切れない」と話す。

 実際、室蘭保健所が収容した猫は14年度だけで261匹。このうち127匹は住民の苦情で自治体が捕獲、他は引っ越しなどで飼えなくなった人が持ち込むなどした。106匹は飼い主が見つかったが、153匹は殺処分された。

 旭川の場合は、市が費用負担し13年8月からTNR活動を進め、今年3月までに計590匹を処置。保護数を13年度の227匹から15年度は160匹に減らす効果を上げた。

 一方、室蘭では公的な助成がなく、同会が目指したのは、地域住民が協力してTNRの費用を負担し、猫を世話する「地域猫」活動だ。芳賀代表によると、金銭、手間の負担が分散するほか、「理解しあって取り組むことで問題の早期解決が期待できる」という。

 猫色ボランティア会は昨年12月、日の出町で地域猫を提案し、住民説明会を開いた。これまで市内数カ所で同様の活動を勧めても住民の理解を得られず、実現しなかったが、日の出町では趣旨に賛同した区長の男性(72)が1軒ずつ説明に回り、住民も「野良猫の問題を解決できるなら」とおおむね理解を示した。猫の不妊手術や餌の費用は対象区域95世帯のうち70世帯から約17万円が集まった。

 今年2月に同会が対象区域で捕獲した野良猫11匹のうち、譲渡先が見つからなかった4匹の片耳に「手術済み」を示す切り込みを入れ、地域に放した。賛同した住民の庭に猫用トイレと餌場を作り、住民間で餌やりなどの係も決めている。

 区長は「うまくいくか分からないが、他に方法がない。いつか猫がやっかいものでなく地域の癒やしになるといい」と期待する。芳賀代表は「住民の理解なしではできない活動。増えたから処分する、という社会の考え方が変わっていくといい」と話し、地域猫活動の定着を目指している。(水野可菜)

■29日に猫の譲渡会

 室蘭市内の市民グループ「猫色ボランティア会・室蘭」は29日午前11時から、市八丁平1の「住まいのウチイケ研修センター」で飼い主のいない猫の譲渡会を開く。離乳前の子猫10匹を含む約30匹を持ち寄り、希望者と面談し、譲渡する。

 午後2時まで。譲渡の際は保護中に掛かった医療費などの必要経費がかかる。問い合わせは同会ホームページhttp://yaplog.jp/woodcut/