ディズニーアニメーション映画最新作『ズートピア』が、ジワジワと広がりをみせ、大きな話題になっている。5月22日現在、累計動員350万人を突破し、興行収入も45億円を超えた。早くも「2016年の興行収入はこの作品がトップなのでは?」とささやかれている『ズートピア』の魅力を検証する。
4月23日に全国471スクリーンで公開された『ズートピア』。週末ランキングでは、初週、2週目こそ『名探偵コナン 純黒の悪夢』の前に2位に甘んじたが、公開3週目となった5月7日~8日の週末ランキングでトップに躍り出ると、3週連続首位をキープ。
注目すべきは、週末動員数が、28万8041人⇒35万1049人⇒37万5137人と右肩上がりになっていること。普通、公開後は徐々に数字を落としていくものだが、本作は動員数を伸ばしているのだ。これは大きなヒットを記録する作品に共通する数字の動きだ。
公開週の『ズートピア』の週末成績は、動員数32万9513人、興収4億4580万4900円という数字。動員数ベースでみても、十分好スタートといえるが、『名探偵コナン 純黒の悪夢』の93万3781人、『暗殺教室-卒業篇-』の54万4641人、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』の54万4816人などの初週成績と比べると、そこまで強調される結果ではなかった。そこから徐々に数字をあげていくのは、まさに“鑑賞者の高い満足度”にほかならない。
近年、チャレンジングな作品も見受けられるが、基本的にディズニーアニメーション作品の根底に流れているテーマは「夢と希望」。『ズートピア』も、主人公ウサギのジュディが警察官になるという夢を叶えるために奮闘するというシンプルなプロットだけをみると、親子で楽しめるファミリー向けの作品……という大まかなイメージを持った人が多かったのではないか。
しかし『ズートピア』を観た人は、鑑賞前のイメージとは“違うな”と感じたはずだ。もちろん映像の美しさやキャラクターの可愛らしさという部分を切り取って楽しめば、ファミリー向けの作品ということもできる。
だが、ストーリー自体は、現代社会にはびこる“差別”や“偏見”がテーマとして内在する非常に重厚な作品だ。また「差別や偏見は持ってはいけないんだ」というシンプルなメッセージではなく、「知らず知らずのうちに差別や偏見を持ってしまうこと」が、人のやる気や希望を奪い、閉塞感のある世の中になっていってしまうことへの警鐘を鳴らしている。
こうした深いメッセージが、可愛らしいキャラクターによって語られるため、喜怒哀楽がシンプルに心に入ってくる。
また、ダブルミーニングにもとれるようなシーンが多く、多元的に作品のメッセージが解釈できる脚本の素晴らしさも特筆すべき点だろう。人気原作を実写化した最近の邦画の中には、脚本のモチベーションをなくしてしまったような作品も見受けられるが、伏線や問題提起されたものは、ほぼしっかりと回収している緻密さには唸らされる。
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