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【国際】

被爆者と記憶共有 言葉に オバマ大統領広島訪問 米識者に聞く

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 オバマ米大統領の広島訪問と演説について、原爆を投下した唯一の国である米国はどう受け止めたのか。日米関係や核軍縮政策に詳しい米国の2人の専門家は、オバマ氏の演説内容を評価しつつ、核軍縮に向けた具体策の欠如やオバマ氏の今後の行動に注文をつけた。

◆米外交問題評議会 特別研究員 エイミー・ネルソン氏

 −オバマ氏の演説をどう受け止めたか。

 「被爆者の記憶が持つ大きな力を、将来への教訓として心に刻む大切さを訴えたと思う。生存する被爆者が減る一方、核兵器は軍事戦略として今も存在する。それを踏まえ、被爆者の悲惨な経験を共有することの意義を哀悼の言葉に込めたと考える」

 −オバマ氏は武器を生み出す科学技術の進歩に合わせ、人間社会の道徳の向上も求めたが。

 「核兵器の開発を促進する技術革新は速い。それに遅れないように、国際的な機関、法律などによる抑止力を整え、何が許されるのか共通の理解を得ることはわれわれに求められる不変の努力だ。まさにオバマ氏が指摘する通りだ」

 −核廃絶への取り組みは進んでいるか。

 「今春の核安全保障サミットでは成果があった。ただ、米国とロシアの関係は悪く、新戦略兵器削減条約(新START)に続く条約交渉はない。中国は可動式ミサイルを配備しており、それに他国が対抗しようとすれば軍拡競争を招く。北朝鮮の核実験も危険な状況だ。テロリスト集団への核兵器拡散防止も差し迫った課題だ」

 −課題が山積し、オバマ氏も演説で「私が生きている間に実現できないかもしれない」と言及した。

 「現状に対して現実的な評価をしたのだろう。オバマ氏の任期は間近だが、目標実現に向けて前に進もうとしている」

 −オバマ氏の演説は、この難局に風穴を開けることができるか。

 「核廃絶の新たな波の先導役になるほどのインパクトはない。ただ、核兵器の使用は許されない、という道徳的な義務、常識をわれわれに思い起こさせたと考える」 (聞き手=ニューヨーク・東條仁史、写真は米外交問題評議会提供)

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◆カーネギー国際平和財団 上級研究員 ジェームズ・ショフ氏

 −オバマ氏の広島訪問や演説の評価は。

 「感銘した。あの内容なら米国の退役軍人も大きく反発はしない。メディアも特に批判しなかった。オバマ氏は、原爆投下をめぐる是非や謝罪の必要性には触れず、米国民には理解されやすかった。戦争という大きな文脈の中、核兵器は人類が二度と使ってはならないと意義づけた。オバマ氏とホワイトハウスはできる限り批判が起きないよう、内容を練ったと感じた」

 −政策的な具体性には欠ける内容だった。

 「たしかにそうだ。ロシアとの難しい関係や、国内の議会との関係も影響したのだろう。残念ながら、残り約8カ月の任期中に核軍縮の具体策を話すのは難しい。オバマ氏はそれを分かっていたからこそ、政策よりも強い大志を掲げる演説にしたのではないか」

 −日米関係に影響は。

 「戦争で戦った相手同士が同盟を結び、友好以上の大きなものを得たと触れた。大統領選で日米同盟に疑問を挟む意見がある中で、意義深い考え方だ」

 「あらゆる場面が印象深かった。オバマ氏が被爆者の男性を抱擁し、和解を体現した。日米関係はまた一つ上の段階に進める」

 −次期大統領候補のヒラリー・クリントン氏やドナルド・トランプ氏にはどう影響するか。

 「クリントン氏には核軍縮政策の継続性や道義的な議論においては大きな影響を与えるだろう。トランプ氏は核兵器を行使する責任について無頓着だ。そういう無責任な人間が戦争を引き起こしたと、オバマ氏が演説で説明した」

 −核軍縮は進むか。

 「オバマ氏が大統領任期を終え、何をするかにかかっている。次は長崎を訪れ、核軍縮に良い刺激を与えてほしい」 (聞き手=ワシントン・石川智規、写真も)

<エイミー・ネルソン> 米スタンフォード大などで学び、米国務省勤務などを経て、米外交問題評議会。核安全保障を専門に研究している。米ニューヨーク州出身。38歳。

<ジェームズ・ショフ> 米シンクタンク「外交政策分析研究所」を経て、国防総省東アジア政策上級顧問。カーネギー国際平和財団に移り、主に日米関係を専門に研究している。50歳。

 

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