もののけ姫』の音楽で人生が変わった

『進撃の巨人』『青の祓魔師』『キルラキル』——。36歳にして、名だたる人気アニメのサントラを手掛けてきた音楽家・澤野弘之氏。数々の有名作品を「音」で彩ってきた澤野さんに、「アニメのサントラを作る」という仕事の魅力について伺いました。現在放映中のアニメ『甲鉄城のカバネリ』公開記念インタビュー、前後編でお届けします。

『もののけ姫』の音楽にあこがれて

— 澤野さんはアニメのサントラをたくさん手がけていらっしゃいますが、もともとアニメはよく見るほうだったのですか?

澤野弘之(以下、澤野) 見ていましたね。僕が高校生か20歳くらいだったころに、深夜アニメが流行っていたので。最近は自分の担当した作品くらいしかチェックできなくなっていますけど、今もアニメは好きです。

— どんなアニメがお好きなんですか?

澤野 絵柄的にいうと、昨今の流行ってるアニメより、今回サントラを担当させてもらった『甲鉄城のカバネリ』みたいな、少し古い絵柄のアニメが好みですね。

— 『カバネリ』のキャラクター原案は、『時空要塞マクロス』(’82~’83)などの美樹本晴彦さんですものね。じゃあ、そのころ見たアニメに影響されて、サントラの道へ進まれたんでしょうか。

澤野 それもありますが、一番影響を受けたのは、やっぱりスタジオジブリのアニメ作品ですね。久石譲さんの音楽がもうすごくて。僕らの世代で影響を受けている人は多いでしょうけど。

— どの作品で、久石さんの音楽を意識されたんでしょうか。

澤野 『もののけ姫』ですね。たしか高校2年生のころだったかな。作品自体がすごく好きで、上映中、映画館に2回見に行きました。僕、めったにそんなことしないんですけど。

— それだけ衝撃的だったと。

澤野 はい。映像の世界観と音楽がよかったし……まあ、実はほかにも、当時付き合ってた女の子に連れられて……みたいなしょうもない理由もあったんですけど(笑)。1回目はふつうに内容を見に行って、2回目は、音楽と映像が融合した感じが見たくて行ったんです。

— そのころから、サントラの世界を意識しはじめたということですか。

澤野 そうですね。作曲を本格的に始めたのが高校1年の後半からで、もともとは小室哲哉さんやCHAGE and ASKAさんのポップスの影響を受けて、TM NETWORKのカバーバンドを組んだりしていたんです。でも、『もののけ姫』を見たころから、サントラの世界もおもしろいかもしれない、と思うようになりました。

はじめて買ったCDは「ドラクエ」のサントラだった

— では、音楽をはじめてすぐにサントラの道を意識されたんですね。

澤野 ええ、わりと早かったです。でも思い返してみると、子どものころから映画のサントラを買ったりしていましたね。僕が人生で初めて買ったCDは、ドラゴンクエストのオーケストラCDだったんです。

— ゲームで遊んでいるうちに音楽も気に入って、という感じでしょうか。

澤野 それが僕、ドラクエのゲームはやっていなかったんですよ。

— えっ、ゲームをやっていないのにサントラだけ買ったんですか?

澤野 そうなんです。自分でも、なんで買ったのかよくわからないんですけど(笑)。そのころはドラクエブームで、曲が街のいたるところで流れていたし、ドラクエ好きの友達がピアノで弾くのを聞いたりして、単純にいい曲だと思ったんじゃないかなと。

— 幼いころからサントラに惹かれていたんですね。

澤野 意識していたわけじゃないですけど、自分の感情にすごくひっかかる部分はあったのかもしれないですね。

アニメのサントラの作り方

— アニメのサントラの製作は、どのような行程で進むものなんでしょうか。

澤野 だいたい「メニュー表」というものをいただいて、それをもとに作っていきますね。

— 「メニュー表」ですか?

澤野 はい。たとえば、「戦闘シーンで使う曲」とか「悲しいところで流れる曲」とか、そういうざっくりしたものがいくつも書いてあるんですよ。
それを監督と音響監督に作ってもらったあと、その表をもとに打ち合わせをして、監督に色々説明していただくんです。「この作品はこういう世界観です」とか「このシーンで使いたい」とか。
あとは、何枚かキャラクターや世界観のわかる絵も見せていただいたり。毎回、そういうところからインスピレーションを受けて作っていく感じですね。

— そうやってできていくんですね。今回の『甲鉄城のカバネリ』のサントラ製作は、どのように始まったんでしょう。

澤野 もともと荒木哲郎監督とは、『ギルティクラウン』や『進撃の巨人』などで一緒に仕事をしていたんです。それで2年前に監督とお会いしたときに、「時代劇でゾンビものを考えているから、ぜひそれもお願いしたい」と言われて。それからちゃんとオファーをいただいたのは、去年の中頃くらいでしたね。

— その時、監督とはどんなお話をされたんですか?

澤野 荒木監督は、見て爽快になれるような、気持ちのいいものを作りたいといつもおっしゃっていて。今回の『カバネリ』も単純に絵がかっこいいとか、ゾンビが出てきて怖いとか、エンタメとして面白いところが魅力だと思います。

— 澤野さん自身は、視聴者目線でキャラクターに感情移入したりするんでしょうか。

澤野 うーん……よく考えると、あまりそういうことはないですね。どの作品も、客観的に作品の内容を楽しんで見ています。あ、でも、3話で主人公の生駒(いこま)が過去を思い出す瞬間とか、ああいう家族の話にはグッときますね。

※生駒(いこま):画像一番下の人物。『甲鉄城のカバネリ』主人公で、製鉄と蒸気機関の生産をなりわいとする顕金駅に住む蒸気鍛冶の少年。カバネを倒すために独自の武器「ツラヌキ筒」を友人とともに開発する。

— 妹を不死の怪物「カバネ」から守れなかったシーンですね。次回は、アニメのサントラの魅力について、より深く伺っていきたいと思います。

後編「『進撃の巨人』で経験したサントラのおもしろさ」は5月28日(土)公開予定

構成:片瀬チヲル


『甲鉄城のカバネリ ORIGINAL SOUNDTRACK』

『甲鉄城のカバネリ』エンディングテーマ『ninelie』

この連載について

アニメのサントラって、どうやって作るの?—作曲家・澤野弘之インタビュー

澤野弘之

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コメント

koyhoge 作曲者の中にも普通にアニメ好きの人が出てきたのだなぁ。 4分前 replyretweetfavorite

kebizou72 影響受けたの久石譲だったのかww 23分前 replyretweetfavorite

bokujiyuu 確かにアシタカせっきは良すぎて震えた。 約7時間前 replyretweetfavorite

akinosha https://t.co/gdvc7aOuuJ 約19時間前 replyretweetfavorite