2016年5月28日(土)

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トヨタにとって重要なレクサスのチャレンジ

昨年秋に東京モーターショーでプレステージサルーン「LS」の次期モデルを示唆すると思われる燃料電池車のコンセプトモデル「LF-FC」を、今年1月にはデトロイトモーターショーでラグジュアリークーペ「LC」と、ブランドアイデンティティづくりのためのフラッグシップモデルを連発しているレクサス。2014年、「レクサスを変えてほしい」という豊田章男社長の言葉を受けて福市得雄が社内の仮想カンパニーであるレクサスインターナショナルのプレジデントに就任して後、事実上初めて見せるレクサスの新しい未来像だ。

モノづくり大国、技術立国を自任する日本だが、エンドユーザー向け商品をみると、低価格品を作ることについては長けている半面、高価格帯の商品づくり、ブランドづくりについては甚だ弱い。自動車もご多分に漏れず、クラスが上になればなるほど強さが失われる傾向にある。

ピックアップトラックなどを除く乗用車では今や、アメリカ市場で揺るぎない首位の座にあるトヨタでさえ、その強さはミドルクラスの「カムリ」までで、大型セダンの「アヴァロン」はゼネラル・モーターズのシボレー「インパラ」、フィアット・クライスラーのダッジ「チャージャー」の2強の後塵を拝しているというのが実情なのだ。

この状況を打破し、日本車が高付加価値領域で戦えるようになることは、豊田社長にとって宿願と言える。09年に社長就任して以降、連綿と「もっといいクルマをつくろうよ」というプリミティブなキャッチフレーズをずっと使い続けてきているのも、ひとえに付加価値を上げたいという思いの発露だ。製造業の経営は、製造原価に対してどれだけ高い価格で売れるモノを作るかということに尽きる。

クルマの価値を作るのは信頼性、耐久性、高機能など数値化が可能なものと、楽しさ、ファッション性、生活の変化への予感といった無形のものがある。日本メーカーは前者については卓越した見識を持っているが、後者については手薄。料理で言えば、素材の質が高く、栄養価についても充実したものを作るのは得意だが、顧客が一口食べた瞬間、その味覚に衝撃を受けて顔が思わずほころぶような味作りで負けているようなものだ。高付加価値商品である高級車の世界では、その味作りが商品力やブランド力を大きく左右する。レクサスがその世界を目指すことは、トヨタにとって重要なチャレンジなのだ。

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